十七話、汚物
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「さてと、綴さん――――ここにいる人、全員見捨てる方針でいきましょう!」
過去のアラカからは考えられない答え。それを前に出したことに対して綴はうん、と頷いた。
「あは、ははは……ふは、っ、あはははっ」
嬉しそうに、楽しそうに笑う。
愉快そうに、嗚呼、こんな簡単なことだったのだ。と嘲笑うように天使が笑んだ。
「人間不信であることを、拒絶しないこと。
ただしそこにいる自分に気付くこと。あはっ、はははは。
そうだったんだ、ただそれだけだったんだ」
その場に腰を下ろしてあはは、っと笑い続ける。
「僕、人を殺したい」
そう、確かめるようにステンドグラスへ手を伸ばす。
「実際に人を殺すわけじゃない。だけど、、そうだ……ただ、そう思うことを忘れないこと。ただそれだけでよかった。
これから先、誰も、何者にもこの心は預けない……そう誓えるだけで、僕はよかったんだ」
そして同時に、アラカはうちに眠る殺意を確かに認識した。
「……? 何か、ある」
その時、アラカはあるものを視界に入れた。
床に転がり空を眺めたことで初めて見ることが出来たのだろう。
それは絵だ。天井に近い壁に、彫刻で絵が描かれている。
「……これ、は…巨大な枝分かれの木……天辺に神。
翼の生えた人…」
その絵の特徴を断片的に拾い、呟く。
そしてその絵とは。
「美徳の、木…? え、ここカトリック信仰してるの…?」
カトリック教会における七元徳。その中で深く関係がある絵。
それが食堂の壁に描かれていた。
「……七元徳……天使。まって、天使……?」
——天使。それをつい先程、確かにアラカは見ていた。
天井を見る。
「……八人の。天使の絵……そうだ、ステンドグラスはそもそも教会美術が始まりだった……」
九世紀ヨーロッパのキリスト教の教会の窓に使われたことが始まりとされるステンドグラス。
当然、ステンドグラスに天使の絵が描かれることもあった。
「……八、人…?」
ステンドグラスに映る八人の天使そこには確かに八の天使、八……————その数字に、アラカは違和感を覚えた
「天使……男が六……女が二……。
おかしい……男が一人多い。たまたま、かな……」
七元徳の各項目には該当する天使がいる。
男が五人、女が二人————それに近しい男女比である以上、これは恐らく七美徳を象徴とさせているのだろう。
それぞれ七つの大罪に相対する形で、確かに七、存在する。
————何故〝8人〟いる?
「(偶然か、それとも)」
そう思案しながら、アラカは天使のステンドグラスへと手を伸ばし——
「————お、おい!」
過去の汚物がやってきた。
「……?」
アラカはその存在を視界に入れる。
「(何も、見えない)」
アラカの視界には真っ黒な何かにしか見えなかった。
音もノイズで、不快な虫がキシキシ言ってるようにしか見えない。
そしてその現象が起きてるということは。
「(過去の、誰かか)」
過去にアラカを痛め付けた中でも、相当酷い仕打ちをした人間ということであった。
「風魔……さん……」
霧がその人物の名前を呟く、当然、アラカの耳には届かない。
「何ここに勝手に入って」
「————動くな」
ビクンッッッ! と、その声一つで風魔は動けなくなる。
「っ、ぁ゛……っ」
風魔は瞬間。冷や汗を流し、瞳孔が定まらない様子で息をしようと足掻く。
————アラカの殺意に触れたのだ。
「それ以上近寄らないでください」
「な゛……っ」
突き放すような言葉に、風魔は勢いを無くして、泣きそうな声を出す。
「っ、」
「僕から、望むことは、それだけ……です。
正直、話すのも、気分が悪くなるので……お願いします」
アラカの鼻から鼻血が流れ始める。
「っ、、ぁ……ま、待って……」
その様子が見えているのか、見えていないのか。
風魔は酷く怯えた様子で、冷や汗を流しながら、何かを乞うように。
ぽとぽと。近付いて。
「あ、あらかぁ……」
そんな声を加害者の立場で出し始め。
「————何の騒ぎだね、これは」
気難しい、どこかイラついてる声が静止に入った。
宗教はにわかなので、もし、変なところがあれば指摘してくだされば幸いです
読んでくださりありがとうございます…!