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十五話、圧迫問答

最近   つまらなくて   ごめんなさい。




◆◆◆

「……」


 食堂に入り、まず初めに探したのはトレーが置かれていた場所の周辺だった。


「(隠し通路は、なさそう……)」


 調べた限りは特殊な仕掛けはなかった。

 広い食堂は空を覆うステンドグラスから差し込む色彩で、何処か鬱々しい幻想を生み出していた。



「……菊池さんは、なんで戦うのですか?」


 そんな中、アラカの背中へ声がかかる。


「…………」


 アラカは振り返り、鬱くしい色彩を背に言葉を綴った。


「……力がある、ので」


 雨音が両者の間に降り注ぐ。


「……」

「……」


 霧はアラカの瞳を見て、ゴクリと息を呑む。酷く闇の宿った……奥に何一つ映らない、奈落のような瞳であった。


「身体中に、傷がついて…心も、本当はもう、頑張りたくないって……ぁ」


 そこまで言って霧は何も言えずに固まる。

 そして酷く焦った様子で愛想笑いだか、苦笑いだか分からない表情を浮かべて。


「…………ごめん、なさい。

 なに、いってんだろう、ね。先生……あは、は……先生も……」


 ざーーー……、鬱くしい世界では……幻想的な静けさが支配を敷く。



「見て見ぬふり……して、たのに……は、はは…………」


 ざーーー……、


「……」

「……」


 両者に広がる沈黙。その中でアラカは背を向けて調査を続けた。


「…………」


 気まづい、息が詰まるような沈黙の中で……アラカが声を出した。


「仕方、ない」


 それは霧をフォローするような言葉だった。

 しかしアラカからすればそれは単純な事実でもある。


「周囲がやっていたら、それに合わせてしまう。

 我がなければ、仕方ない…仕方ないこと。必然、だもの」


 集団心理。ゆえにあなたの見て見ぬ振りは当然なのだと。

 むしろ真面目すぎるといっていた。


「我がない奴は……周囲に……世界の意思に流される」

「…菊池さん、もし……もし、ですよ?」


 そんな中で霧は静かに、声を割り込ませた。


「自我がない……だけど。素晴らしい能力があり……誰もがその力を求める。

 そんな人がいたら……どうなると思い、ますか?」


 モジモジとして、どこか怯えながら、そんなことを霧は聞く。


「……もし、そんな人形がいるとしたら。

 その人形は周囲に求められるがまま、動くでしょう。

 それはただの機械と変わらないでしょうし、ね」


 そして力ある人形とは一体何を指しているのか。

 両者共にそれは分かっていた。わかっていた上で、分からないふりをする。


「自我と持たず、周囲が救いを求めているまま、助け続ける

 ————英雄の、誕生が起きるでしょう」


 アラカは振り返り、霧の方へ歩く。


「っ…」

「……」


 こつ——こつ——

 両者の距離が一歩、もう一歩と縮まる。


「……、…」

「……」


 こつ——あと3歩

 こつ——あと2歩

 こつ——あと——


「先生」


 ビシャアアアアアアンッ! 落雷に両者のシルエットが映し出される。


「————先生、とても性格悪いですね。

 諭すにしては、皮肉が効き過ぎていますよ」


「————————」


 霧は、反応できなかった。

 隣を過ぎ去るアラカに冷や汗を流す。


「なんて、ね」


 悪戯気にウインクしながらそう言う。


「性格悪い人は嫌いじゃありません。

 この子も性格悪いですもの」


 そう答えるアラカの瞳には、相変わらず何も写っていなかった。

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