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十四話、謎

◆◆◆


 ——冒険活動 二日目 嵐——


 ————9:01 自室


 二日目にしても嵐は止まず、生徒たちはセンターでの立ち往生を余儀なくされた。

 部屋で待機させるには生徒の不満も溜まるだろう、加えて最近は事件続きで生徒にも不安が積もっていた。


 ゆえに。


「(センター内ならば何処に行ってもよし。規定の時間には部屋に待機せよ……ね。

  現状況からすれば少しありえない対応のような気もする)」


 学校側から見れば自室待機にさせたいはずだろう。

 怪異による殺人事件は例年では群を抜いており、過去のパンデミックさえ容易く覆す勢いで殺戮が続いているのだ。


 ————学生が死ぬかもしれない。そんな状況を踏まえた上でのこの対応は明らかに異質だった。


「…………考えても、わからない……か」

「…………」


 膝に〝ある生き物〟を乗せたまま、フローリングに座り込みアラカは独り言をこぼす。


「(怪異……か……暴雨が止んでないあたり、まだ複数の〝楔〟があるとみた方がいいのかな)」


 口裂け女、くねくね、これらは結界を維持する魔力装置。それを崩しても尚、結界は治らない。


「(……アレらは、ある種の術式なんだろう。

  複数の〝楔〟を呼び出して……結界を作ったやつがいる)」


 そして、だからこそ……それを捕まえなければ結界は晴れない。


「(……捕まえよう)」


 ————アラカは腕の中にいる生き物をぎゅっと抱き締めた。


「うぎゅ……」

「あ、ごめん」

「……Zzz……」


 腕の中にいる生物はずっと眠ったままだった。

 アラカはその生物をお守りがわりに抱き上げたままであった。


 そしてしばらくはずっとそうであろうという予感がアラカにはあった。


「(そもそも……怪異は〝どうやってトレーを用意できた〟のだろ)」


 ————赤子の姿造りは誰が持ち込んだ?


「(あの場所は食堂。

 生徒も行き交う、センターの人もいる。

 そんな中で、どうやって犯人は〝予定されてないトレー〟を用意できた……?)」


 目的は? 手段は? 実行犯は? 瞬間的に幾つもの謎がアラカの脳裏に浮かぶも全てが霞に溶ける。


「っ……情報が何もかも、不足してる」


 ゆえに次にアラカがとる行動は決まっていた。


「(……食堂、行ってみよう。

  情報を集めるんだ……)」


 ————9:21 食堂前 廊下。


 開けた長い廊下の先に食堂へ続く扉がある。


 廊下は強化ガラスばりで、外の豪雨を映し出す。

 普段使わない時は電気を消しているのだろう、ただ薄暗い廊下には窓から差し込む灰色の色彩しか映らない。


 食堂に行くまでにはトイレ、大浴場へと続く扉がある。


「……」


 ————ジャラリ、と鎖がなる。


「(食堂には、鍵が掛かってる……)」


 南京錠がかかっている。

 鎖を見るも、特に細工のされている様子はない。



「食堂に入りたい……ですか」


 ————刹那に。アラカは振り返った。ナイフを瞬間で手をかけ、いつでも抜けるようにポケットの中で静かに息を鎮める。


「あっ、ご、ごめんなさい……」


 ————中村霧。

 アラカの担任の教員は静かに謝罪をする。


「…………」

「…………」


 そして両者、静かに見つめ合う。

 灰色の雨が一瞬の刹那さえ、永遠に引き延ばす。


「…………」


 霧はアラカの隣を進むと南京錠の前に行き、静かに鍵を開けた。


「…………」

「…………」


 ——ジャラジャラ……——


「……?」

「…………」


 鎖を全て外し、霧は悪戯気に口元に指を添えた…。


「秘密、ですよ」


「…………」


 そう言われて……アラカはナイフを掴む手をさらに強めて。


「……はい…あり、…が……とう……ご、ざ……」


「あ、大丈夫、大丈夫よ……無理に言わなくて…、いい、ですから……」


 そう、消えそうなほどに小さな声で言った。


「それと……その、腕の中にいる動物? は……」


 次いで霧が視線を向けたのはアラカの右腕に抱かれている黒竜だった。


「Zzz……」

「…………」

「………あ、そも……いいたく、なけ、れ……ば」


 ざーーー……。豪雨は収まらず、霧の心を痛め付けるように降り注ぐ。



 そしてややあってから……。


「……飼い主と、ペットの関係、です…」


 消えそうな、ひたすら小さな声でアラカがそう呟いた。

 それに霧が安堵に胸を撫で下ろし、幾らか安定した様子で話を試みた。


「えと……一応、冒険活動にペットも持ち込みは……その…」


「ペットは僕の方なので大丈夫です」


「え゛」


 アラカは霧の手にある鍵へと目を向ける。


「その鍵。他に…持っている方は……どなた……です、か……」


「えっ、ああ、この鍵は……学年主任の私と、あとセンターの人ぐらいですよ。

 合計で二つです」


 霧は困惑した様子でそのまま回答した。


「(……鍵は二つ。もう一人のセンターの人も見てみたい)」


 アラカは黒竜を抱き寄せて、思考を回す————雨はまだ、降り注ぐ。

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