八話、豪雨の中での一幕
◆◆◆
豪雨の中、アラカとウェルは進んでいた。
目標は白い人型の何かを探しに、である。
「…………」
「…………」
「…………ごめんなさい、連れてきて,もらって」
————尚,同行者一名。
豪雨の中でも、アラカを中心にドーム状の膜があり、雨を弾いていた。
「……これ」
流石に不思議に思ったのか、如月は声を漏らす。
「魔力障壁を膜にして、広げてるのですよ」
「え、魔力……? って、確か使うことが、できなくなった……って」
ピクっ、とアラカは反応する。
少しだけ怯えながら、後ろめたさを殺しながら……声を続けた。
「少しだけ……新しく増えた、のですよ。
ただ、世界に供給できる量じゃないので……」
「あ、いえ……その……ごめんなさい。
嫌なこと、言って……」
その気はないのだとしても、外側からしたら責めているように見える……と考えたのだろう。
如月は謝るもアラカは首を振った。
「今のは僕が間違えていた。
気にしない、で…」
気遣いしすぎる如月の心境を汲んで、アラカはこちらも配慮が足らなかったと謝る。
「以前の魔力量が10兆使っても余りあるほどに増やしましたが、今は500ほどなのですよ。
……どうやっても供給が間に合いません」
「すごい減ってる……」
雨に濡れた木々と、泥濘む足元に気を付けながら進む。
「普通の、怪異は、だいたい……100ぐらい、だから、それでも、おおい」
ウェルがそこで初めて口を挟む。気のせいか、声に少しだけ検が混じる。
絶賛人嫌いの中にいるウェルからすれば、事情を聞こうとする如月は敵に見えたのだろう。
「増やす方法は、ある、けど……正直、地獄。しようとして、死んだ子もいる……」
その程度には危険な方法なんだぞ、と怒り混じりにウェルが言う。
お前ら程度に分かる苦痛じゃない、そう言外に如月を突き刺す。
「そんな……に……じゃあ、菊池、さん、は………あ………ごめん、なさい」
どうやって、と言おうとして……けれども続きを言えなかった。
————死ぬレベルの何かを、ずっと繰り返した。と気づいてしまった故だ。
「(この、小さな背中に……全人類が……甘えてきたんだ。
今まで、ずっと……ずっと……)」
その事実に、如月は胸が締め付けられる想いになる。
「…………他にする人がいなかった、それだけです」
やがて、アラカは雨音の中でそんなことを返していた。
「……どうして……」
如月はそこまで聞いて……何故なのだ、と嘆くような声を吐き捨てるように呟く。
「……今、申し上げたと思いますが……」
「いえ、そうじゃなくて……する人がいなかったのも、分かるんです、が」
死ぬ危険すらある苦痛を、この少女は、何故、どうして、という謎が如月の中では深まるばかりであった。
その謎とは。
「どうして……そこまで、するのかって……」
「………………」
ざーーーーー ざーーーーーー
ざーーーーー
ざーーーー
ざーーーーーーー………
雨が降り止まぬまま、三名は進み……やがて目的地付近になると。
「…………そろそろ、例の場所です」
そう、呟いた。
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