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六話、クローシュの中身

気持ち   です

「何をしてる……の、ですか」


 そこへ咎めるような声を出したのは、いつも何処かビク付いていた少女だった。


 アラカは首を傾げる————アラカには声が聞こえなかったのだ。


「風魔さん……何をしてるんだろ」

「風魔って確か風紀委員長で元々、菊池さんの幼馴染で仲が……いや…………」


 体育の授業で最後に話したきり、言葉を交わすのはこれが初めてであった。


「(なんて言ってるんだろ……)」


 ウェルに耳打ちをされて、なんとか通訳をしてもらえると。アラカは風魔へと言葉を続けた。


「この料理はこのセンターが提供しているものではありません。

 不要な料理です、だから移動させようとしました」


「それをお前が判断するべきことではない」


 ウェルが耳打ちで通訳をする。


「ならば先生に許可でもいただきます」

「そんなことしなくていい」


 断言し、威圧的な態度を取る風魔に周囲はおや?と首を傾げる。


 以前の体育の授業での様子を思い出せば尚のことだ。


「…それは何故でしょう」


「ここに出されたんだから、ここのセンターの人が作ったに決まってるからだ」

「……断言なさるのですね」


 明らかに強気な口調で告げる風魔に、周囲は首を傾げる。


「……双極性障害……かな……」


 ポツリ、とアラカはある病名を呟き、周囲もそれでハッとする。


「双極性障害って……?」

「躁鬱と鬱を繰り返す病気……気分が妙に高揚したりしてるのが躁鬱状態」


 つまり今はその状態なのだろう、とアラカは認識しているのだ。

 冷静な瞳でアラカは風魔を見る。

 鼻血が垂れるが、ティッシュで抑えてどうにか事なきを得る。


「詳しく事情を聞いてからでも、その判断は遅くはないと思いませんか」

「うるさい、早く元の場所に戻せ」


 話を微塵も聞こうとしない。そして風魔はやれやれ、と言いたげに近付く。


「はあ、だいたい料理ひとつで騒ぐなんて馬鹿らs」


 風魔はトレーに乗せられたクローシュを乱雑に取り上げて。


「ひ、ひゃああああああああああっ!」

「っ、ウェル!」


 ウェルはアラカの呼び声を聞いて即座にクローシュを被せる。それでも何名かの生徒が見てしまったのか、ひどく青褪めていた。


「お、おぇええええ……い゛ぐっ、おぇ、ええええええ゛っ、おぁっ、ぉぇ」


 風魔は思いきり、目の前でその〝料理〟を見てしまった。

 そのため、今も床に嘔吐し続けてる。


「……なあ、何があったんだ?」

「さ、さあ…? 急に吐き出したけど、なあ、お前見てたろ。何あったんだ」


 呼び掛けられた生徒は微動だにせず、青褪めた様子で唇を震わせながら、なんとか声を出し始めた。


「…………魚の、姿造りって、わかるか」


 わなわなしながら呼び掛けられた生徒は話し始めた。


「よく旅館なんか、とかで出るやつでさ。

 魚が生きてた頃が、分かる形で刺身を盛り付ける、アレ……」


 食べたことはないだろうが、イメージぐらいは誰でも浮かぶ料理。

 それを急に例に挙げた生徒へ、疑問が募る……が、それは次の一言で恐怖に変わる。


「それ、が……たぶん、赤ちゃんでされてた」


「っ!?!?」


 赤ん坊の姿造り。

 その柔らかい肉を刺身のように切り、盛りつけた。


 それは冒涜。人では想像もできないほどに悍ましいあり様。

 それは冒涜。人の命を侮辱しきっている悪魔の所業。

 それは冒涜。人を嘲笑うかの様な所業に全員がある存在を思い浮かべた。


「……!」


 ————怪異。全員がハッとウェルへ目を向けた。


「大丈夫、ウェルはしてないことぐらい……〝誰でも〟分かるよ」


 アラカの瞳が殺意に染み込み、周囲をギョロリと睨み出した。

 ウェルを見ていた全員がビクッと蛇に睨まれたカエルの様に動かなくなる。


「……いくよ」


 それはある種の警告。

 それを視線に込めた殺意と、ポツリと零した声だけで本能的に理解した。


 ————この子を疑ってんなら殺すぞ。


「……冒険活動、終わりかなー」

「だろうな……。あれ、なんか外、雨降ってね?」



 ————閉ざされた世界。そのようになっていると彼らはまだ、気付かない。

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