三話、予兆と予感
いつもと同じ理由により、
もう一話 更新します 今日中に どうにか
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冒険活動教室。それはセンターに辿り着いたらまずすることがある。
そう、それは。
「山登りなんて、なんであんだよ……はあ…はあ…」
——山登り。
冒険活動教室、一日目に山登りをさせられていた。
バスに到着→行こうぜ! やま。という流れは最早拷問である。
毎回思うがこれは本当に必要なのだろうか。
もしかして学校は登山型ブラック企業に入るための下準備を生徒にさせたいのかもしれない。
「アラカちゃん、ウェルテルが、アルベルト、に、論破され、たんだけど……」←身体能力、怪異。
「まあ……そういうお話、だからね」←身体能力、怪異並+5年以上過酷な戦闘の日々
山登りしながら〝若きウェルテルの悩み〟を読んでるウェルと、平然とした顔で歩くアラカ。
周囲の生徒が息を荒くしているのに対して優雅な足取りで進む二人は正しく対比であった。
「…?」
その時、ウェルはある異変に勘づいた。
アラカもウェルの見た方へと目を向ける。
「……トンネル?」
短い、短いトンネルが遠くに見えた。
長さは十メートルほどしかないのだろう、遠くからでもトンネルの先にある綺麗な景色が見える。
しかしそこじゃない。二人が異質に思ったのはそこではなく。
「コート、の女の、人いる」
「うん、近づいて来てるね」
山の中腹ほどとは思えないような格好だった。
コートに、マスクを付けた女性。
山登りというには異質すぎる格好の女性は二人に近づく。
生徒らはその様子を異質に思うも、反応が取れない。
「こんにちは、だよ」
「こん、にち、は」
女性へと挨拶する二人に、生徒はビクついて様子を見ている。
「———— 私 キレイ?」
「「————」」
その言葉。
そのコート。
そのマスクに、誰もが共通の概念を脳裏へと浮かばせた。
「? 綺麗だと、思います」
「ウェルも」
そう答える二人を除いて。
危険だ、と周囲の生徒は思うものの、何故だか声を出すことすらできない。
「こ、れ、これ……」
声を震わせて、震わせて……女性はマスクを取った。
「こ、れ……でも…?」
——ピリ
女性の口角が妙な音を立てる。
——ピリピリピリピリ……、
口角が、頬へと亀裂を走らせる。
にちゃぁぁぁ…と粘性を持つ液体が、裂けた上頬と下頬が〝分離していること〟を虚実に表した。
「————綺麗」
「……!?…」
アラカは無動のまま、そう返した。
何も変わらず、綺麗だと告げた。
「っ…!?」
「うん、化粧も、口紅……とても丁寧です」
頬に手を伸ばして、そう呟いた。
ビク、と女性は反応するも、すぐに落ち着いてアラカをただ見詰める。
「————かわいい」
勘違いじゃない、嘘じゃないとでもいうかのようにまるで揺れない瞳でそう告げる。
「で、でも……でも、さけ、てる……」
「女の子としての魅力を、頑張って磨こうとした。
そこにかかる努力の跡……それを可愛いと言わずに、なんというのですか?」
そう、忘れてはならない。アラカはどうしようもないほどの善性なのだ。
そして今までありとあらゆる怪異と向き合い、その上で抱き締めて来たのだ。
口が裂けている程度、アラカからしたら些事でしかなかった。
「女の子が努力する男性に惹かれるように、男性も健気な女の子に惹かれるものなのですよ」
ふわり、と女性の頭に触れないように撫でる。
「人は親しくもない人から髪を触れられるのを酷く嫌うと聞きますし、これだけで。
————僕もこの行為は、心底嫌いですので」
脳裏にトラウマを携えながら、そう告げる。
「嫌いってどういうことだろ…」
「……俺、知ってるけど……その、頭を撫でる行為を、さ……以前、菊池さんにした奴がいたんだよ」
「あ、それ知ってる。確か————」
そこまで言って、男子生徒は声を詰まらせて……息苦しそうに……こぼした。
「……足で、してたって、やつだろ、男。しかも、菊池さんの……ごめん、ちょっと吐きそうだから、無理だわ……」
アラカの瞳を見て、女性は頬を熱くさせたままぼーっとする。
「…………はっ」
しかしすぐに自我を取り戻して、慌てた様子でアラカへ再度問いかける。
「だ、だきしめ、られる……?」
信じられない、と言わんばかりで。綺麗なら抱き締めてみろ、とでもいいかのように。
「いいですよ」
「ウェルも。バブみに飢えてるから抱き締める」
ぎゅー、っと二人で抱き締める
見てるだけで癒される。
「ぁ、ぁ。ぁぁ……」
涙がポロポロと溢れていく。そして女性は嬉しそうに、ぎこちなく笑んで。
「ありが、とう」
と、光の粒子になり消えた。
「消えちゃった……」
「うん、そうだね。さ、いこっか」
アラカは山登りを再開して、ウェルもそれについて行った。
「————今の、たぶん怪異の能力だったから、警戒して行こう」
「うん……なにか、おこるね……」
そう、言い残して。
空には微かな雲が、ポツポツとあり……それは、少しずつ、少しずつ……〝一つの指向性〟を持ちながら、動いていた。
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ps
若きウェルテルの悩み、ですが竹山道雄さんの訳したのが読みやすかったのでオススメです。
作者が文学作品を読むのは「文学知ってる私カッコいい(キリ)」をしたいからです