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一話、誰かの涙

短いので     また   今日中に    出します    なんとか。




ブクマ数、200件に  到達しました.    ありがとうございます


◆◆◆

 夜、寝る時に……その日だけ、扉を開け放つ。


「…………」


 部屋の前に、下着を一枚。はらりと落とす。

 パジャマの下に、もう下着は付けてない。


「…………」


 ベットに潜り、身体を横にして寝る。

 これは合図だ……一週間ほどに一度だけ送る、合図。


「……………」


 部屋にコードレス……いや、綴が入ってくる。


「………」

「………」


 枕元に、綴が立つ。

 綴はただ疲れた様子で包丁を持ち、アラカへと向ける。


 アラカは綴に背を向けて、寝たふりを続ける。


「……………」

「……………」


 ————包丁を振り上げる。


「…………」

「…………」


 華奢な腕だ。

 細くて…頼りないけど、しっかり見ると、男の子の手だと分かる手。


 やがて、疲れた様子で包丁を振り下げる。


「……………」


 無表情で肩を落とす。


「……刺しても、構いませんよ」

「…………」


 背を向けたまま、アラカは声を出した。


「そうでも、しないと……もう、僕たちは壊れてるのですから」

「…………」


 まともな生はもう謳歌できない。

 それを識り,もうまともじゃない生を謳歌しよう……そしてそれを肯定しよう、とアラカは告げた。


「…………」

「…………」


 静かな、静かな寝室。

 薄暗くて、何もかもに帳が落ちる世界。


 その世界で、どれほど黙っていたのだろう。


「……ねえ」


 その沈黙を、囁くように……まるで金魚掬いの網が、自然と破れるかのように……アラカは声を出した。


「……負い目があるなら、抱きしめてくださいよ……」


 部屋に重い沈黙が広がる。


「…………」

「…………」


 ややあってから、綴はベットに寝て、アラカを抱き締めた。


「……あなたが」


 アラカは、抱き締められながら……背中に殺意をヒリヒリと感じとる。


「…あなたが……妙な計画を推し進めてるのは 、知ってます。

 その計画が、僕に深く関わっていて……ロクでもないものということも」


「…………止めますか」


 そこで初めて、綴が声を出した。


「……」

「……」


 すり……と、布の擦れる音だけが聞こえる。

 他には、何も聞こえない……静寂の世界。


 静寂の中、アラカの返答は……確かなものとして綴に届く。


「……止めたいと、思えませんよ。

 きっとそれは……〝アレ〟を見たことで、そうなったのでしょう」


 ……その濁した言葉に、微かに綴の身体に力が入る、

 それを感じながら、アラカは言葉を続けた。


「……アレを見たことで、僕とあなたは、変わりました……寝ても、覚めても……アレを、思い出すのでしょう?」


 ちゅ…………、アラカは振り向いて、綴の頬にキスを落とした。

 まだ怖いから、と、胸の中で呟いて……。


「……これを思い出して、寝ることにします……綴さんも、そうしてください……」

「…………」


 肌にピリつく殺意が、更に重いものとなるのをアラカは感じた。

 そこで初めて、アラカは問いを投げた。


「綴さんは、どうしてそんなに怒りを覚えているのですか」


 ……………ー…………。


「僕の身体は……魅力的ではありませんか」


「っ……」


 どん……アラカの身体が押され、ベットに仰向けとなる。

 アラカの身体に覆い被さるように、綴がいる。


 アラカの頬の隣に綴の手がある。床ドンのような状況だった。

 しかしそこに恋愛漫画の甘さは存在しない。


「私は怪異だ……君を傷付けたのも怪異だ」


 ポツリと声を出す綴。アラカは頬に冷たい雫が落ちたのを感じた。


「私はクソッタレの怪異だ…」


 絞り出すように、声を出す。

 そして、呆気なく綴の闇は表へ出る。


「そんな屑が、俺が(屑が)怪異が(屑が)男が(屑が)、君という最上の花にキスをされた。むかつくんだよ、殺したいんだよ……

 ————こんな屑が、こんな幸福に満ちている現状が殺したくて堪らないんだよ……」


 それは殺意。己に対する怒り。

 それは殺意。現状への殺意。

 それは殺意————■■の裏返し。


「……あなたは、ばつを、もとめているのですね」


 アラカは頬に溢れた雫を感じながら、声を漏らした。


「っ……!」


 綴は歯噛みして、すぐに覆い被さる状態から離れて。


 ベットから降りた。


「……明日、冒険活動教室いきますので……数日、あけます」


 部屋から出ようとする綴。

 その背へ、アラカはポツリと連絡事項を告げた。


「…………………たのし…」


 そう告げようとする綴は、けれども続きを言えなくて……無言で部屋を出た。


「少しだけ、あなたの計画が分かった気がしますよ……」


 綴が出ていった扉を眺めて、アラカは呟いた。


「あなたは……真面目すぎますよ……」


 申し訳なさで、息苦しそうな背中を眺めて……そう呟いた。


「(僕がもっと,強ければ…………誰も、傷付かずに済んだのに…………)」


 アラカの頬には、冷たい雫が流れた。

 その雫は……果たして、誰のものだったのか。アラカにも、綴にもわからなかった。

感想、ブクマ、評価、いいね。本当にありがとうございます…! 大変、モチベに繋がっております…

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