一話、誰かの涙
短いので また 今日中に 出します なんとか。
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夜、寝る時に……その日だけ、扉を開け放つ。
「…………」
部屋の前に、下着を一枚。はらりと落とす。
パジャマの下に、もう下着は付けてない。
「…………」
ベットに潜り、身体を横にして寝る。
これは合図だ……一週間ほどに一度だけ送る、合図。
「……………」
部屋にコードレス……いや、綴が入ってくる。
「………」
「………」
枕元に、綴が立つ。
綴はただ疲れた様子で包丁を持ち、アラカへと向ける。
アラカは綴に背を向けて、寝たふりを続ける。
「……………」
「……………」
————包丁を振り上げる。
「…………」
「…………」
華奢な腕だ。
細くて…頼りないけど、しっかり見ると、男の子の手だと分かる手。
やがて、疲れた様子で包丁を振り下げる。
「……………」
無表情で肩を落とす。
「……刺しても、構いませんよ」
「…………」
背を向けたまま、アラカは声を出した。
「そうでも、しないと……もう、僕たちは壊れてるのですから」
「…………」
まともな生はもう謳歌できない。
それを識り,もうまともじゃない生を謳歌しよう……そしてそれを肯定しよう、とアラカは告げた。
「…………」
「…………」
静かな、静かな寝室。
薄暗くて、何もかもに帳が落ちる世界。
その世界で、どれほど黙っていたのだろう。
「……ねえ」
その沈黙を、囁くように……まるで金魚掬いの網が、自然と破れるかのように……アラカは声を出した。
「……負い目があるなら、抱きしめてくださいよ……」
部屋に重い沈黙が広がる。
「…………」
「…………」
ややあってから、綴はベットに寝て、アラカを抱き締めた。
「……あなたが」
アラカは、抱き締められながら……背中に殺意をヒリヒリと感じとる。
「…あなたが……妙な計画を推し進めてるのは 、知ってます。
その計画が、僕に深く関わっていて……ロクでもないものということも」
「…………止めますか」
そこで初めて、綴が声を出した。
「……」
「……」
すり……と、布の擦れる音だけが聞こえる。
他には、何も聞こえない……静寂の世界。
静寂の中、アラカの返答は……確かなものとして綴に届く。
「……止めたいと、思えませんよ。
きっとそれは……〝アレ〟を見たことで、そうなったのでしょう」
……その濁した言葉に、微かに綴の身体に力が入る、
それを感じながら、アラカは言葉を続けた。
「……アレを見たことで、僕とあなたは、変わりました……寝ても、覚めても……アレを、思い出すのでしょう?」
ちゅ…………、アラカは振り向いて、綴の頬にキスを落とした。
まだ怖いから、と、胸の中で呟いて……。
「……これを思い出して、寝ることにします……綴さんも、そうしてください……」
「…………」
肌にピリつく殺意が、更に重いものとなるのをアラカは感じた。
そこで初めて、アラカは問いを投げた。
「綴さんは、どうしてそんなに怒りを覚えているのですか」
……………ー…………。
「僕の身体は……魅力的ではありませんか」
「っ……」
どん……アラカの身体が押され、ベットに仰向けとなる。
アラカの身体に覆い被さるように、綴がいる。
アラカの頬の隣に綴の手がある。床ドンのような状況だった。
しかしそこに恋愛漫画の甘さは存在しない。
「私は怪異だ……君を傷付けたのも怪異だ」
ポツリと声を出す綴。アラカは頬に冷たい雫が落ちたのを感じた。
「私はクソッタレの怪異だ…」
絞り出すように、声を出す。
そして、呆気なく綴の闇は表へ出る。
「そんな屑が、俺が、怪異が、男が、君という最上の花にキスをされた。むかつくんだよ、殺したいんだよ……
————こんな屑が、こんな幸福に満ちている現状が殺したくて堪らないんだよ……」
それは殺意。己に対する怒り。
それは殺意。現状への殺意。
それは殺意————■■の裏返し。
「……あなたは、ばつを、もとめているのですね」
アラカは頬に溢れた雫を感じながら、声を漏らした。
「っ……!」
綴は歯噛みして、すぐに覆い被さる状態から離れて。
ベットから降りた。
「……明日、冒険活動教室いきますので……数日、あけます」
部屋から出ようとする綴。
その背へ、アラカはポツリと連絡事項を告げた。
「…………………たのし…」
そう告げようとする綴は、けれども続きを言えなくて……無言で部屋を出た。
「少しだけ、あなたの計画が分かった気がしますよ……」
綴が出ていった扉を眺めて、アラカは呟いた。
「あなたは……真面目すぎますよ……」
申し訳なさで、息苦しそうな背中を眺めて……そう呟いた。
「(僕がもっと,強ければ…………誰も、傷付かずに済んだのに…………)」
アラカの頬には、冷たい雫が流れた。
その雫は……果たして、誰のものだったのか。アラカにも、綴にもわからなかった。
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