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三十三話、次の章との狭間/回想

◆◆◆

 雨がざーざーと降る中で公園のベンチに、髪の一部が白くなっている少年がいた。

 傘も刺さず、写真を一枚、手にとってそればかりを眺めてる。


「…………」


「あ? 何してんだオメエ……気持ち悪りぃ」


 そこへ青年が嘲笑いながら、近づいて来た。髪は灰色で、声は全てを馬鹿にしているかのような、そんな声だった。


「はあ、例の怪物がホームレスとかいう愉快な状況だと聞いてきてみれば、いたのはただのカスか」


 少年は……胸元を掴んで投げ飛ばし、首にナイフを押し当ててから殺意を向けた。


「黙れ、消えろ」


 殺意を軋らせて、軋らせて軋らせて軋らせて————スパッと、ナイフで青年の耳を切断した。


「何も知らねえ部外者が息してんじゃねえよ殺すぞ!!」


 ナイフを投げ捨てて青年の顔面にありったけの魔力を込めて拳を叩き付ける。


「……………………殺して、しまった」


 衝動的に殺人。そんなことをしたことで少年はポツリと呟く。

 後悔を胸に覚え




 ————次の瞬間、少年の顔面に拳がめり込んだ。


「はっ、あははははは」


 殴られた青年は大声で大爆笑しながら立ち上がり、吹っ飛んだ少年を蹴り壊す勢いで踵落としをした。


「やるじゃねえかよッ! 搾りカス!!」

「黙れえええええええ!!」


 その後、互いに殴り合いが始まり、ヒビと骨折の数が30に迫りそうなところでようやく力尽きた。


「はあ…………くだんねえ、おい。うち来い」

「は? いくわけねえだろ」


 雨でビチャビチャになりながら互いに死にかけでそんなことをいいだしら。


「俺はコードレスだ、お前。名前は?」

「…………」



「挨拶はコミュニケーションの基本だぜ?

 人間どもが何百年をかけて編み出した礼儀作法の文化だ。

 人間は礼儀を行えば脳味噌が〝この人は仲良くなりたいようだ〟と認識しやがる」


「…………はあ、お前死ねよ……」


「くはははは! ナチュラルに殺意を持つじゃねえかよ! あはははは。

 その殺意にはどんな理由があんのかねえ〜www」


 ————そんな物騒なこと言ってんじゃないわよ!!

 ————嘘でもそんなもの言うな!!

 ————だーかーら!! 挨拶は大事なの!! なんで? 大事だからって言ってるでしょ!! 口答えするな!!


 思えば、殺意の存在を殺意のまま認めるやつは初めてだ、と思った。


「………………」


 しかし結局、少年は名前を言わなかった。プライドの問題だ。


 結局,少年はコードレスについて行った、というより拉致された。


「……お前、怪異だろ」

「そうだ。殺し合いでもするか?」


 それでも俺は構わねえが、と愉快そうに口角を歪ませるコードレス。

 それを見て小さく「死ねよ……気持ち悪い」と呟き、苛立ちのまま壁を殴って破壊した。


「……別にいい、くだらない……」

「その前に家の壁破壊された件について」

「知らねえよ、こんなの家にあげたお前の落ち度だ……ざまあみろ」

「歪んでんなあ、おまえ。ま、いいがな」


 案内された空き部屋へと入ると、少年は着替えもせずに部屋に隅っこに座り込んだ。


「これでも食ってろ」


 ポン、と隣にコッペパンが置かれる。

 少年は微動だにせず、コードレスを睨み付けていた。


「……」


 コードレスはそうか、と呟いて部屋を出た。


「……」


 割引シールの付いたコッペパン。あったくもない、スーパーでよく売ってる品で。


「…………」


 黄色い割引シールを、体育座りの状態で意味もなく見つめた。


「………………」


 ずぶ濡れで、隅っこに体育座りで、コッペパンの割引シールを見ている。

 ただ悲しくなってきた。



 少年が動き出したのは、その三時間後だった。



「…………まずい」


 袋を開けて,一口食べて……そう呟いた。


「まずい…………まじいわ、これ」


 まずい、まずいと言いながらパンを食う。


 その部屋には、雨の濡れとは別に……雫が落ちたような水跡があったそうだ。


 その日から、コードレスと少年の生活が始まる。




 同居 風呂編。


「なに、風呂が怖い? はあ、風呂ねえ……」


 風呂がトラウマになってる少年。過去に風呂関連で酷いことをされたゆえだった。

 それに対してコードレスは。


「————じゃ歯を食いしばれ」

「は?」


 心底愉快そうに拳を振るコードレスに、アラカは何も反応できなかった。


「気絶してる間に風呂とかお前いつか殺す……」

「はっ、殺してみろよ雑魚が」


 殺意を軋らせながらそう睨む。それに対してコードレスは軽口で返す……

 少年ならそれに対して罵詈雑言か、暴力で返しているはずだがその中に、どうしようもなく見過ごせない点があった。


「あんだと…?」


「何度でも言ってやるよ、おまえは雑魚だ。

 なんだ、たかが失恋程度で脳みそ破壊されやがって、くだらねえなあ、オメエはよ」


 ————ピキ。と、その言葉に少年はブチギレた。


「もっぺん言ってみろッ!!」

「お前は!! 雑魚だって!! 言ってんだよ!!

 何泣き喚いてんだよ、アイツら殺しに行けよ!!

 目出しマスクでも貸してやってもいいだがなああああ!?」


 煽るように、嘲るような言葉に少年は激昂して殺し合いに発展するには数秒とて掛からなかった。




「死ね死ね死ね死ねェーーーー!!

 怪異風情が、事情もしらねえ部外者のゴミが、何知ったかぶりで上から目線してんだよ気持ち悪りぃんだよ!!!」


「知ったことかああああああ!! 上から目線? だからどうした、強者が雑魚を見下して何が悪いか言ってみろ雑魚!!」


 腕の関節を破壊すれば脚の皿をぶっ壊される、鼻をへし折れば耳を引きちぎられてる、


 両者共に殺す勢いでの殺人劇を踊る、それこそが本能だと獣のように荒れ狂いながら叫んでだ。


「帰ってこねええんだよッ!!

 泣き喚いてりゃ都合よく世界を中心にしてくれるって?

 甘えんなァ!! 糖尿病でも目指してんのかァ!?」


 瞳に指を突き刺して、その代わりに腹部に指を突っ込まれて肋骨を二、三本、ぶち破られる。


 瞳はぶちゃぶちゃに潰れて、骨は外に露出してるのに殺し合いだけはやめない。


「じゃあどうすりゃいんだよぶっ殺すぞォォォォ!!

 帰ってもどっか行っても必ず敵が湧きやがる!! ぶん殴れば犯罪者扱いだ!!

 正義のヒーロー様が何庶民殴ってんだってよ!!」


 殺し合い,殺し合い、殺す合い、目の前の人間が薄汚くて殺したいから、目の前の怪異が心底不快で殺したいから。


 言葉で死ねと叫び、相手の過去を小馬鹿にしてぶっ壊したり、もう治りようもない殺人劇を繰り返し続けていた。


「息してんじゃねえよ今すぐ死ねよ!!」


「それを何故他のカスどもに表現しねえんだオメエはよおおおお!!

 だからお前は雑魚なんだよ!! 〝殴れる相手しか殴れねえ雑魚〟が息してんじゃねえよさっさと死ねよ気持ち悪りぃんだよ不快で不快で堪らねえんだよ!!!!」


 殺人劇の中での言葉の応酬。その言葉は互いを突き刺しては、本音を外へと出させるのだ。


「っ」


 殺し合いにつぐ殺し合い、冷戦的な状況もあったがその殺し合いは数日間ぶっ続けで行われて……その果てで。


「ころせよ、何で殺さねえんだよ雑魚虫が!!

 人救った分だけ人殺して大爆笑でもして見せろーーーー!!」


 その言葉の果てで腹部を貫通するレベルの拳を放たれ…………殺し合いはコードレスの勝利で終わった。


 ————というのは全て回想。




「……ほぅ……尊い…」


 アラカは思い出すように熱い息を吐く。

 過去の日、あの件以降……互いに殺意と殺し合いを少しずつ重ねてきて、今日に至っていた。


「……アラカ、アラカ」


 夢見心地のアラカを呼ぶ声が聞こえる。

 ハッ、と思い出してアラカは現実に引き戻される。


「…………秋の、冒険、活動……班、くも……?」


「…うん、組もう」


 ぎこちない笑みを浮かべてそう告げた。


「(そう、だよね……学校の場所を変えても、時期的には冒険活動だった、か)」


 お金持ちとの軋轢編かと思いきや、差し込まれるのは学校行事だった。


 秋の冒険活動……山登りをさせられそうな響きだった。

 アラカが実際に殺人などを一切しなかった理由です。


 コードレスがいなければ、五桁は殺してると思います。コードレスが出現せずに進むと、近寄るだけで「なんで今息したの? おかしくない?」と怒って衝動的にやります


感想、ブクマ、評価、いいね。本当にありがとうございます…! 大変、モチベに繋がっております…

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