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三十一話、謝罪

 ◆◆◆ アラカ 立て篭もり生活 10日目。


「……ごめんなさい」


 アラカはペコリ、と4名に対して頭を下げた。


 そう、アラカはついに10日目にして立て篭もりをやめたのだ。

 部屋に出て、チック症はもう起きていなかった。


 身体には欠損がなくなっても、身体中にアザや切り傷は何故か残り身体は依然として痛々しい。

 しかし彼女の精神面は確実に、少しだけ回復していた。


「お嬢様、おかりえりなさい」

「構わん。特に迷惑は受けてない」

「ウェルはあまり興味ないの、だけ、ど……」


 アリヤ、正道、ウェル、の三人は特に被害を受けていなかった。

 一人に全ての被害が行っていたため、である。


「アラカくん……疲れは、少しでも…ほんの少しでも、取れましたか?」


 主な被害者コードレスは普段通りの優しく、どこか疲れている声でアラカへ呼びかけた。


「はい」


「ならよかった。また疲れたら、ご自由に」


 ニコリ、といつものどこか窶れた笑みを浮かべるコードレスにアラカは頬を微かに赤らめて「ありがとう…ございます」と返した。



「……………すみ、ません」


 それでも、とアラカは謝罪を重ねる。

 それはアラカからしたら当然だった。


 コードレスはこの数日で火炎放射器、銃火器、グレネードを受けていた。


 ……アラカじゃなくても当然だった。


「うー、ん……ああ、じゃあアラカくん」


 それを前に困ったような笑顔を浮かべて、良い案が浮かんだのかコードレスは口角を上げて。


「?」


「膝に乗ってください」


「……!?」


 数分後。リビングにてコードレスの膝の上にちょこんと座るアラカの姿があった。


「……」

「…………まあ、あそこまでの被害を受けたのだ」


 アリヤ、正道の視線は何故か殺意に満ちていた。


 コードレスはアラカの頭を撫で撫でする。殺意が数割増した気がした。


「……帰り、たい…の…」


 尚、ウェルの着席位置はコードレスと、正道andアリヤの間だった。


「上司。そろそろ10日だから……帰ってきている頃、じゃない、ですか?」


 そんな中で、まず初めに声を出したのはアラカだった。

 コードレスの膝に座り、頭を撫でるのを許しているとみる限り、相当警戒を解いているようだった。


「そうだな。今朝、結果が確認できた」


「じゃあ……ついて行きます」


「………………………わかった」


 長考の末、正道はアラカの言葉を肯定した。


「ウェルと、アリヤは戻って、いて。

 ちょっと、野暮用が……ある」


 傍らに座るアリヤとウェルへと声をかける。

 そう、この先には二人はあまり連れていきたくないのだ。


「え、嫌です。どこ行くか知ってますし」

「……いや、だけ、ど……?」


 ——その後、問答の末にアラカが折れた。

 幾らか仲良くなったことと、アラカ立て篭もりによって溜まったキチゲがここにきて暴走したのだ。



◆◆◆夕方/雨天


 怪異が現れてから、日本には様々な法律が生まれた。


 例えば怪異が出現した時に警察が使用できる兵器とその数による記載。注意事項。

 緊急回避の新たな項目。怪異が現れた際の責任に関する法律などなど。


 そしてその中の一つに〝遺品の取り扱い〟の記述がある。



「怪異による、死亡者が所持していた遺品、には魔力検査が必須である……という項目。

 過去……魔力型のウイルス感染を異能と、する怪異が出現した際に……生まれた」


 それまでは国の機関が保管することになっていた。そして遺品の検査が無事終われば〝怪異対策部〟が遺族へと送ることになっていた。



 その日は生憎と雨だった。黒いシックなドレスを着て傘を刺して……一つの家へ辿り着いた。


 傘をしまい、呼び鈴を鳴らす。中から窶れた女性が出てきた……玄関の境を一歩越えた先は真っ暗で、地獄のような薄暗さがあった。


 正道が遺品を渡して、ウェルとアラカは口々に謝罪をした。


「ウェルが、殺しました……ごめんなさい……」

「娘、さん…を……守れず、すみ、ません……でした」


 そう言ってウェルとアラカは頭を下げる。


 ウェルはアラカの仲間になってからSNS伝いで精神的な歪みを幾らか治療されていた。ゆえに最低限の理性は知識として知るまでには回復していた。


 娘の母親は真っ暗な玄関を背に……窶れた表情で…ぼそぼそ……と呟いた。




「……これで、よかったのかも、しれません……」


 アラカとウェルの小さな身体と、そこに刻まれた傷を見てそう呟く。


 ポツポツ……と呟くのを静かに聞いた。


「あの子、ずっと……もう、学校なんて行ける精神状態じゃ、なかったんです……」


 それはアラカに対する罪悪感であり、心を蝕む良心の檻。


「それどころか…死にたがっていて…なのに…生きるより、死ぬほうが楽だからダメだって……

 きっと、あの子にとっても……楽になれたと、思います」


「…………」


 娘の死をそう一般的に冷たい、とされる声で言うのは理由があるからだった。


「ぁ……っ……き、くち……さ、ん」

「…………」


 ぎゅう、とアラカは抱き付かれる。


「…………」


「ごめんね、ごめんねぇ゛……ごめん、ごめん、ね……ッ……ごめん、ごめん……ね゛……っ……」


 母親はただひたすら、号泣して、大声で泣き出して、ごめんと…ごめんなさい、と泣き続けた。


 この家は、過去にアラカを痛め付けていた。遊び感覚で。

 それに対しての罪悪感、それに対する喪失感と、大声で泣き出せないというジレンマ。


 それがアラカを前にして、決壊したのだ。






「……寝てしまいました、ね……」

「……寝室に運んでくる、よ」


 生徒の母親は数十分後に疲れて寝てしまった。


「間取りを知ってるんですか?」

「以前、この家でイジメ……あったから。見せ物にされた、から……場所、覚えてる」


「「…………」」


 チャキ(ナイフ構える音)。

 パラ…(手紙を出す音)。


「やめて……もう、いいから」


 武装し出すアリヤとウェルへと…疲れた声でそういう。


「始めから、そこにいないみたいに……目の前でよがられて……都合いい時だけ、パシリに使われるよりかは……マシだった、から」


 カチャ…(銃を構える音)

 ゴキ……(拳を鳴らす音)


「上司とコードレスさん待って……もう、いい、から」


 まさかの大人組参戦という地獄絵図。アラカは足早に女性を寝室に寝かせると、軽く掃除をしてその場を後にした。

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