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二話、記者会見

◆◆◆

 七月二十日 政府はある記者会見を行うことになった。



「ええ……本日、怪異発生に対する政府の今後についての説明があります」



 テレビのワイドショーでは会見が行われる一時間前に、リアルタイムで放送されておりこれまでの流れを分かりやすく説明していた。



「ええ、と。今まで知性を宿していた怪異……怪人の発生は今から五年前になります。

 当時、政府が魔力エネルギーの開発に成功する前は一人の少年が戦っていました」



 ペロンっと、ワイドショーによくある板のシールを剥がして少年の写真を見せた。



「はい、この佐藤アラカくん(10歳)が戦っていたのですが……一年前に、こちらですね」



 ポップなSEと共にシールが剥がれ、その下に書いてある文字が画面に映る。

 『冤罪による誹謗中傷』



「今では全てが嘘だったと発覚したのですが、強姦に恐喝、脅迫にイジメに強盗食い逃げ、と沢山のトラブルを起こした……と意図的に噂が流されていたそうです。

 当時は誹謗中傷が酷かったそうです。

 その結果、一年後、アラカくんは精神病院で療養……そして表舞台から姿を消しました」



 そして次に指を刺したのは棒グラフ。

 短い棒と、とても長い棒が並んでいるグラフだ。

 それはアラカが消える前と消えた後の被害の数を表していた。



「その後、彼が消えてから怪異の被害が爆増……アラカくんが消える前との比べると約100倍ですからね……多すぎるでしょう」



 粗方の説明が済み。専門家の人やらコメントをする



「元々彼、容姿が良いですからね。誹謗中傷の中に彼の容姿を指摘する文面も多々あります」



 要は嫉妬だろう。と言外に告げる専門家の意見にアナウンサーはうんうんと頷いた。



「ではそろそろ会見の時間です、画面を切り替えます」



 画面がパッと切り替わり、政治家の記者会見のような光景が映し出される。

 そして画面の端から数名の人間が現れる。

 魔力などの研究の第一人者として知られる男と、数名の関係者に……



「あの子は誰だ?」

「銀髪けもみみ……? やべえ、二次元でも見たことないぐらい可愛いんだが」

「というか菊池アラカくんいなくね…?」



 銀髪の美少女。その登場に騒つく記者陣。その特異点たる少女……アラカに視線が当然のように注がれる。


 そして形式的な挨拶などを終えてから研究者が一言目にこんなことを発した。



「……信じられないかもしれませんが、ここにいるのが菊池アラカくんです」



 記者は息を呑み、シャッターを押すことすら忘れて魅入ってしまった。


 銀色の髪、壊れたガラス玉のような瞳……まるで物語から出てきたような非現実的な美しさがあった。

 何処か近づき難く、けれども誰も目を離せない精巧さ……。


 氷のような印象を受けるそれは、ただただ愛らしく、そして神聖な空気を纏っていた。



「アラカは現在、右腕と左足が義体となっており、戦闘らしい戦闘は不可能である。と政府は判断しました。

 対怪異能力……魔力の生成も出来なくなっています。

 いえ、能力自体は残っていますが精神的な欠損により扱うことが困難になっているようです」



 カメラにアラカがズームで映し出される。身体中に包帯を巻いており、その隙間からは痛々しいあざが覗かせる。


 それだけじゃない、切り傷や何かで炙ったのか黒く焦げてる部分もあり……ただただ満身創痍という感想が浮かぶ姿だ。



「…………」



 記者は何も出来なかった、シャッターを切る音さえ出したくなかった。それで目の前の少女が怖がるかもしれない、とそう思ったら何も出来なかったのだ。



「……ここで皆様に発表しなければならないことがあります」



 と、そこで会見の応対をしていた男が声色を少し変えて話を始めた。

 記者の注意が男へ向かう。



「今まで魔力生成方法を政府は開発した、と発表しておりましたが……」



 ガタン、と立ち上がり研究員は告げた。



「そのような事実はありません」



 ざわ、一気に不安と焦燥に包まれるマスコミを尻目にーー男は銃を取り出した。



「ここにいるアラカが、今まで全てを担っていました。世界中に供給する分の魔力を、一人で、全てです。

 そして彼が魔力生成が出来ない今……残りある魔力だけで生きていくしかありません。

 それか、望みは薄いですが彼の心が修復されるぐらいしか手立てはないのです」



 ニコリ、と笑顔を浮かべた。

 優しい笑顔からは想像できないほど重い宣告に沈黙が広がる記者会見。


 …………………



「そんなんじゃ足りるわけないだろうがあああああああ!!!!」



 アラカの肩が撃ち抜かれた。



「ぁ……」



 その痛みに気付いた時にはもう遅い、アラカは押し倒され、馬乗りにされ、その顔を何度も何度も殴られる。



「お前が!!」



 ゴッ!!



「お前が壊れなければ!!」



 ゴッ、ゴッ……! 顔面を殴るだけでは飽き足らず、頭を掴んで地面に叩き付けられる。



「ああああああああ!!!!」

「おい誰か止めろ!!」「警察!警察よべ!」



 そして一通り満足したのか最後に大爆笑しながら銃口を自分の頭に突きつけて。



「全世界を混沌に陥れるような発言ですがね! ……もう仕方ない、そうでもしないと、どうしようもないんだ!! あははははははは!!」



 パァンッ!! アラカの頬に血の肉片がこべり付く。

 悲鳴が上がる。


 カメラが最後に写したのは倒れ込むアラカの血塗れに腫れた顔で、ひぐ、ひぐと幼児のように泣き続けている姿だった。



「…………」



 スタジオには未だかつてないほどに重い沈黙が広がっていた。誰も口が開かない、といった様子で先程のアラカの様子を思い出した。



「(誹謗中傷……あんな、壊れそうな子に、してたのか……? おれ、は)」



 このスタジオには幾らか心当たりがある人間もいたのだろう。

 大した努力もせず、ただ成功者が気に食わないから一つの失敗で死ねだと消えろだと失せろだのと言葉を並べた。



「…………」



 胸がぐちゃぐちゃにされるような感覚を、スタッフの一人は覚えた。

 シャツの胸部分を力任せに握りしめて、苦しそうに呻くスタッフがいた。



「…………」



 司会の女性もあまりの衝撃的な展開に、何も言えなかった。


 SNSではその日、アラカの話題ばかりが溢れていた。



 ————アラカの心が癒されない限り、人類は終わる。


◆◆◆


「消毒しますので、動かないで、じっとしてくださいね」

「…………」



 廃人のように、いいや、正しく廃人となった少女……菊地アラカは肩の傷を治療されてから頬の殴られた傷を治療された。



「…………」



 こんな経験は初めてじゃない。

 アラカは覚えている。こんな痛みよりも強烈な痛みを。

 父は何処にでもいるようなゴミだった。


 幼少期、母はヒステリックを起こし、よく幼いアラカへ八つ当たりをした。


 小学生の頃には、アラカは幼馴染の女の子に散々利用された挙句にイジメっ子とイチャイチャし始めた。


 同じく小学生の頃に、恋した女の子が引っ越した。2回。


 そして中学時代、デートした女の子が病気で死んだ。

 アラカは何も知らずに、そんな事情を一切知らずに蚊帳の外で置き去りにされていた。


 すっかり女性不信になっていたアラカは、高校生の頃、恋人ができた。

 ーーーーそしてそれを寝取られた。


 女性不信を拗らせ、拗らせ続け……もう泣きそうだった。



「…………」



 結果、彼女は〝いつ破裂してもおかしくない水風船〟のように不安定な心地のまま、生きる羽目になった。


 今の彼女を救う術は何処にあるだろう。

 寝取られの件で男性に対しても強烈な恐怖を抱くようになった彼女。


 そんな廃人寸前の彼女に対して、政府は何も求めなかった。

 もう、求めるなど酷なことは出来なかった。



 重度の人間不信。もう自殺してない方がおかしいほどの状態だ。

 何をしても、四面楚歌にしか映らない現状ではもう手の施しようがなかったのだ。


◆◆◆

 都内の高校の校長室でひたすら汗を流している、それは目の前の人物への緊張とは別のものがたぶんに含まれていた。



「ええ、はい、了解しました……では、その、菊池アラカくんの編入を」


「復学ですよ、校長」



 正道(35)はニコリと笑顔を浮かべる。その笑みには強烈な威圧が混ざっており、校長はひっ、と息を呑んだ。


 その隣で女子生徒の制服を身に纏い静かに座ってる美少女……菊池アラカがいた。

 ちゅー、とカップに入った飲み物をストローで吸っている。その光景は小動物を思わせ、見ただけで癒される光景であった。



「……………」


「ああ、これですか」



 視線の先に気づいたのか正道は校長から一切目を離さずに、無表情で告げた。



「飲ませてる間は静かにしてるので飲ませてるんです、気にしないでください。

 中身は水です」


「いえ、その、咎めようとかは全然……はい」


「〝トイレの水〟とかじゃありませんのでご安心を」



 その瞬間、校長は気付いた。指が震える、声が出ない、息が詰まる。数多の感覚に襲われてようやく気付いたのだ。



「(イジメの件、間違いなくバレている)」



 校長は彼(女)がイジメを受けていることを知っていた、そしてその内容もだ。

 そしてそれを言い当てられ、心臓が壊れそうなまでに動悸が早まる。



「この子が安心して過ごせるように、校長先生には是非ともお願いしたいものです」



 肩をポン、と叩きそう告げた顔はどこまでも怒気に満ちていた。

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[良い点]  とても感想を書き辛い物語だなと感じた。  それは内容がナイーブな問題を扱っているからである。  それはそれとして。  あらすじの通りの物語だなと感じた。  これでもかと不幸な人間に対し…
[気になる点] こんなことになるまで、政府は警備体制を万全にしなかったのかな?
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