二話、英雄の揺籠
この章のプロット作成、本当に長かった…
◆
————胎盤の空が溢れてから18時間後
じゃらり、と金属同士が擦れる音がする。
「ここ、は…」
目を覚ましたら黒い部屋にいた。
「(…足枷ついて、ベッドに括り付けられてる)」
私は現状を把握するために周囲を見る。
私はベッドの上で手枷と、足枷…そして首輪に鎖が付けられた状態でいる。
一面が真っ黒な部屋…けれど不快感は一切無く…寧ろ何処か高貴で清潔な雰囲気を纏う家具。
「(こんな風に、監禁する人は一人しかいない)」
胸の高鳴りを覚える。その手口を知っているから。
「起きたのですね、アラカくん」
「つづり、さん」
悪辣な瞳、全てを謀殺する邪竜、魔王の後継者、柊 綴。
彼はベッドの上できょとんとしている私のそばにくると、そっと、頭を撫でてくれる。
心地よい。
「私は…どうして、ここにいるのでしょうか」
「私に攫われたからですよ」
微笑みながら、綴さんは自分こそが主犯であると答えてくれる。
「どうして、攫われてしまったのでしょうか」
「君をここに留めるためです」
足枷に、手枷に、首輪…それから黒いドレス…なんて酷い格好なのだろう。
胸が高鳴りを覚えた。
「私の計画、それなりに時間を掛けて作ったものです。
ですが、君であれば簡単に阻止できてしまえる」
肩を、軽く押される。
何の抵抗もなく、ベッドに倒れる。
仰向けで、綴さんを眺める。
「だから君には此処でリタイアをしてもらおうと考えてます」
ベッドに乗られ、押し倒される。
私はベッドで寝ながら、覆い被さる綴さんを見上げる。
「君の心に、傷を付けます」
「……?」
ぷち、と綴さんは胸元のボタンを外す。
胸板が見える、いつも私を抱き締めて、何度も眠った胸板。
「今まで君を何度も、抱き潰してきました」
下腹部、シャツの下に手を滑り込ませて…触れられる。
ひく…と身体が反応する…それは身体に刻まれた調教痕…芯まで刻まれた敗北気質が反応してのこと。
「ココが、一杯になるまで出し続けました。
けれど、ただの一度も妊娠したことがない」
下腹部を撫でられる…気持ちいい。
撫でられただけなのに子宮がきゅんきゅんと反応をする。
愛液が、お尻を伝う。
「全部、こちらの仕込みです」
妊娠しなかったのは、そういう仕込みをしていたから…そう告げた上で。
「それを今日からは外します」
この言葉、その意味はつまり
「もっと、簡潔に言いましょうか」
心臓が、その言葉を期待してる。
その宣言を待っている。
監禁されているこの状態で、再開できたあの日を思い出す。
「————此処で、君は妊娠する」
「————」
ずくんっ。
「一日五回…ここに」
「ひゃ…♡」
ふに。と下腹部を優しく触られる。
「精子を、流し込んでいきます」
「っ…♡」
それは、なんて、なんて
「信じていた男に、無理矢理孕ませられるんだ」
素敵な、日々なのだろう。
「覚悟は————」
ドキドキしながら、けれども何処か期待するような瞳で、見つめて
「あ、え、と…」
「————」
「よ、よろしくおねがいします……」
監禁強制妊娠宣言をここにした。
◆◆◆
————ahhahhhahhhh
化け物が、溢れている。
空が肉に溢れたあの日から、世界中で、溢れてる。
————悪魔が来るぞっ、悪夢が来るぞ あはっハッ、ハハハハハッ、ハハハハ
悪夢のような、悪魔のような、化け物の集団。それが街を歩き、生命に対する侮辱を繰り返す。
————あひっ、ひひゃっ、はっ
「嫌だ、いや、いやあああああッ!!」
————菊池アラカなら、助けたのに
獣を形取った…身体中に〝口〟が生えたナニカがそう囁く。
————残念だねえ
「————」
菊池アラカ、菊池アラカ。
そう、彼女なら救った。
彼女の魔力は膨大で、この世界全てがその射程範囲である。
彼女が本気を出せば、脳の負担が多少あり、数日は意識を失うが…彼女であれば世界に溢れた魔物を一瞬で全滅させられるだろう。
だからこれも、彼女の復讐なのだろう。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて」
路地裏で膝を抱え、祈るように願う。
震える体を抑えてスマホにうつる英雄の後ろ姿を見る。
ある週刊誌、その1ページ目に毎週載っている彼女の写真。
ネットに上がっているそれを、ガチガチと震えながら祈るように
「ひっ」
だが、残念かな。
英雄は復讐をしていた。
もう助けないという、あまりにも優しすぎる決断を下してしまった。
「あ、ぁあ、あ…あ」
————菊池アラカなら、助けたのに
悪魔の囁き、報復の嘲笑、人の心を潰して、潰して、潰してから、捕食する。
————残念だ、嗚呼、残念だねえ
嗚呼、きっとこの化け物の名前は
————世界、壊れちゃうね。
魔物と、呼ぶのだろう。




