一話、神殺し
◆◆◆◆
【アラカくんのお尻を追いかける会(8)】
綴『第一天魔王の権能、奪いました。各部署、報告をお願いします』
カイ『第二天魔王殺し終わったぞー』
可憐『拷問室。第三天、殺した』
ドラ『第四、苦戦中なのだー。マジクソすぎ(写真)』
+アルテミス+『当機は第五天魔王の居城に入った、記念に自撮り写真を添付(写真)』
ドラ『アルテミス姉の胸装甲しか見えねえのだ』
綴はメッセージアプリにあがる報告を見て、スマホをスリープ状態にしてしまった。
「第三、第二もまた同様に堕ちた。
残りは二柱…第四、第五のみですよ」
綴はそう聞かせる。
腕で心臓部を貫通させている相手へ。
現在進行形で殺している少女へと。
「(二人は…なんだ、あれは)」
見れば二名の怪異は、固まり、一切の行動が封じられていた。
「ぐぬぎ…ッ」「く、そが…っ゛」
二人の足が金色になっている。まるで動かないそれは黄金そのもののように見えており…即座に悟る。
「強制的な〝黄金化能力〟…黄金を求めた邪竜にはお誂え向きだね」
二名の這いつくばる怪異を見ながら、その正体をポツリの答えた。
「…発動条件は恐らく〝対象を視界に入れること〟…かな」
「…本当に、凄まじい観察眼ですね」
あなたを、初めに狙って本当に良かった。と瞳に込める殺意をより一層高めて
————綴は の心臓を、引き抜いた。
けぽっ、と血を吐く 。
彼女はそのまま地面に堕ち、ブロック塀に背をぶつける。
「かかるの格下のみ。
アラカくん、廃嫡姫や次元狼、村正君には届きませんよ」
「あの子達は別格だからね」
心臓をぶち抜かれても尚、穏やかな声で話すのは、彼女こそがその〝別格〟の代表だからなのだろう。
「お伺いしますが…なぜ、こうなると知っていて…ここに現れましたか?
逃げるなり、手段は無限にあったはずです」
「…同じ、だからだよ」
ふ、と笑う彼女は、常の様子と変わらない…口から溢れる血を除いて。
「君の手ならば…どこに向かおうとこの結末に収束する。
君…異世界に手を伸ばし出してるだろう、そんな奴を相手にどう逃げる」
思い出すように、過去を振り返る。
「墓守が異世界に来てたよ、君の指示だろう。
それと、ドラは訓練、とも言っていたかな」
綴の部下、墓守ちゃん、我道ドラ、二名が〝本来あり得ない場所〟で活動をしていた。
そしてそれは綴の手が〝本来あり得ない場所〟にすら到達している証明であり…ならばこそ、この結末は約束されていた。
「…私を、殺すという選択はありませんでしたか」
「ころ、す…? 殺す…」
口元が…微かに動く。
少女のような可憐さと、母のような優しさ、そして覇王のような悪辣さを秘めた彼女は、ただ、その瞬間だけ〝本当の素顔〟を覗かせるように。
「————ああ…それは、思い付かなかったなあ…」
「————————————」
照れたように、砕けた笑顔を溢す姿。
それはあまりにも自然体で…心の底から〝殺すという選択肢が浮かばなかった〟と言っているようだったから。
「あなたは、変わりませんね、本当に」
冷たく、呟くように綴は答える。
殺した手に握られた、小さな心臓。
口からこぷっ、と血を吐きながら…優しい瞳で、そっと微笑む。
「君が優しい子、とは思わないけれど…
彼女を想いを何も感じず、踏み躙れるほど、強くはないと知ってるんだ」
「見透かしたように言いますね」
「見透かしてるんだよ」
夜は憎悪に包まれる。
「普段、素っ気ない子がデレると破壊力強いのだよ」
「デレと呼ぶには無理がありませんか」
英雄は気を失い、怪異も黄金に穢れる。
「ないよ、無理なんて」
世界は終わった、確かに終わった。
全てが、絶望に満ちた。
だというのに
「子供が、初めて求めてくれた…手を伸ばしてくれた。
断れるわけがないだろ」
————彼女は、優しく微笑んでいる。
「…あなたは、狂ってる」
「そうだなぁ」
それが例え、自分への殺意だとしても。
「…あなたが、理解できない」
「できる日が、いつか来るよ、大丈夫」
幼い子供の、差し伸べられた手であることに何も変わらない。
「…あなたを私は踏み潰す」
「子供には、そうあって欲しいな」
そんなあり得ない善性を、心の底から告げていた。
「…あなたを殺す」
「愛してるよ、大丈夫」
ぬかに釘、暖簾に腕押し、成立していない言葉なのに、どうしてなのか、両者には少しも不和の様子が感じられない。
「あなたを親と思ったことはない」
「俺はいつでも、君がとっても可愛い息子と思っているよ」
「あなたは親じゃない」
「なら、認めてもらうように、もっと頑張るしかないな」
「あなたは異常者だ」
「そう思ってくれて構わない」
その声が、あまりにも優しく母のように見えたから。
「あなたは…彼女は、どうして」
綴の瞳に、微かな困惑…否、怒りに似た何かが宿り。
「どうして、そこまで人を愛せる?」
「……」
それが自分には無いものだと、故に焦がれるのだと、自覚して尚…
「人を愛してるんじゃない、大切な子供たちを愛してる」
「…そうだな、そうだ。
あなた方は初めから、きっとそういう生き方しか出来ない…」
踵を返して、気絶しているアラカを抱き上げて…その可憐な姿を見て。
「————だから、私は君に恋をしたのでしょうね」
————呪われた善性。
「頑張りなさい、あの子達は手強いよ。
それこそ、新しい魔王は簡単に殺せるほどに」
「構いません」
それが余りにも痛々しいから…見ていられないほどに、抱き締めて甘やかしたくなるから…。
「勝つのは我々だ」




