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十七話、並行世界の旅

◆◆


「空が、元に…」


「終わった、の?」



 空の、張り付いていた赤が剥がれる。

 砕ける、それはかつてアラカの見せていた真紅の瞳、そのもののようにすら思える。



「…あの子は、返してもらう」

『…好きに、すれば良い』



 過去アラカは身体を両断され、切断面から分解が始まってる。



『なあ、僕』

「何かな、私」



 真紅の空は砕け、青い空が鏡の大地を映し出す。






『結局僕は、どうして壊れたんだ?』




 菊池アラカが、黒アラカに言われた言葉、その答えを、今のアラカならば分かるのではないか…そんな想いを込めた、どこか投げやりな問いだった。




『答えは、分かる、分かるはずなんだ…僕が無意識に見えないフリをしてる真実、それがあることは、分かるんだ…』



「それこそ、客観視すれば簡単に分かることだよ」



 確かにトラウマになった、だが言ってしまえばそれだけだ。




「あの子と自分自身を蔑ろにした世界への復讐、それを我慢できてしまったことだよ」




『馬鹿か…それしたら、1秒で全人類、死ぬじゃないか…』



 その答えに、投げやりな独白が漏れる。

 それを聞き、アラカはふっと微笑み。



「…それが理解できてしまえるから、私は暴走できなかった、そういうことだよ」



 世界が砕け、元の小さな庭に戻る。



「悪意を救えるのは、悪意だけ。

 それを捻じ曲げようとしたのが大きな間違いだよ」



 視界の端に、黒いゴミ袋、地面に落ちたタバコの吸い殻、雨に荒んだ水溜り。


 その中で…ポツリと、場違いなほど簡素な盛り上がった土が落ちていて



「____み つ け タ」



 ___黒い英雄が、アラカの背後に立った。



◆◆◆


破滅願望バルムンク…もう出せるんだね」

「それを見計らった刺突の癖によく言う」



 黒アラカが放った剣戟、それをアラカは同様に黒い大剣…破滅願望バルムンクにて受け止めた。



「君も、来ると思ってたよ」




 以前より、禍々しく常に深蒼の粒子を放つ剣。

 それはある種の鬱しさすら映し出し、白銀の髪を揺らした彼女は…人外めいた美々しさを持っていた。



「君が探しているのは、きっとあの子のことなんだろう。

 あの子を探して、幾つも並行世界を旅してきた…それが君の目的だろう」




「確認すると良い、きっと彼は、君の求めた彼ではない」



 菊池アラカは、何故壊れたのか?




「____」



 酷い裏切り? 罵倒? 常に精神へ攻撃を受ける日々?




「そう…なら、確認すればいい。

 きっと彼は、君の望んだ彼ではないよ」



 口にするもの悍ましい地獄の家庭環境? イジメ? ネグレストにストレスよりPDSD?




「…あの子がそうであるかは、僕が決めることだ」



 確かに、それら全ては人を壊すに容易いし世界の大半は、それが壊れた原因だと思っている。



「…あの子は、そこに眠ってる」

「分かってる」



 だが、少し、考えればわかる事。




「埋めたのは、僕なんだから」

「……」



 ____菊池アラカが、そんな些細なこと(・・・・・)で壊れるわけがないだろう。


 黒アラカは地面に膝をつき、土を掘り返し始める。



「…」

「私が埋めた、だから私が掘る…」



 菊池アラカは、何故壊れたのか?




「…君は、どれだけ旅をしたの」

「…5、渡ってきた平行世界はそれだけ」




 菊池アラカとは、どうしようもないほどの善性なのだ。



「その旅で、他の私はどうだった」

「…」



 ____誰かの幸せを祝福できてしまえる人間なのだ、悲しすぎるほどに。

 


「色々、いたよ」

「へぇ」


 だから彼女を壊した原因はそんな〝些事〟などではなかった。



「幸せな監禁生活をしてた世界」

「比率的には一番多そう」「5個中3個その結末だった」



 傷付けられたとしても〝それはそれとして〟と…思考を切り分けられてしまえる〝悍ましい善性〟





「あと、結婚して子供のいた世界」

 かと思えば各メディアに引っ張りだこのアイドル…黒竜のPと結婚してたけど」




 狂っている、壊れている。

 先天的善性、そうとしか呼びようがない〝呪い〟



「それに、一番酷かったのは…嗚呼いや、あの血肉の空は…きっと」



 生まれた瞬間から…その人生は悍ましいもので塗れると決まっていた…ナニカ。



「…」





「…」




「…」











「____違う」



 大切な人が貶されて、自分の傷付けるような人になったとしても〝それはそれ〟

 胸がかなり痛んだとしても、幸せならそれを祝福してしまうのだ。彼女は。




「ここの骨が1ミリ薄い、ここの肉はもう3ミリ残ってた、ここに傷がない、耳の形が少し違う、腐敗の具合が少し違う死んだ時の顔の歪み方が違う指の形が違う爪が0.2ミリ長い足が違う硬直してる時の形が違う手を握ってくれた時みたいな表情してない」




 ___だから、だからこそ…辛い過去を〝それはそれ〟と切り捨てられなかった。



「手が違う冷たさが違う硬直度合いが違う、違う、違う、違う違う」



 自分が傷付けられた過去は過去に出来る癖に、自分が背負うと決めたもの、その結末だけは捨てられなかった。



「違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う」



 ___嗚呼、これは、



「____違う」



 ___きっと人ではなく




「___首の骨が、潰れてない___」



 ___善性の塊が…偶然人の形を纏っている、そうとしか形容できない。




「そう、だ____やす、らぎ」



 ____ぽた、ぽた



「____あの子、が__安らげる、空間を、つくって、あげたかっ、た____」



 ___その音が、雨の雫だったのか…それとも、黒アラカ、そのものだったのかもしれない。



「抱き上げている子供を、殺して…しまった…ッ……あ、ああ、そうだ、だから、私は____」



 ______



「____あの子を…探さないと」



______



「アノ子   ヲ

   探ス  ノダ」




 ___ナニカだ。




「何処、何処、何処ニ 何処二

 ア ア、アアア


 ドコニ ア、アアアアアアアアアアアアアアアア





 」



「アアアアアアアアアアアアアアアア




 アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッッッッッーーーーーーッッッッ!!!!!!!」




 鳴動する大地…それはアラカが超獣として〝変革〟する際の咆哮に酷く似ていて



 〝___あの子を、探さないと〟




 そんな声と、共に…次元を引き裂いて消滅した。




「破滅願望、君に残ったものも…それだけなんだろうね」

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