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十五話、封印

私はこの話の冒頭を書くために、アラカをママだと思い込むことにした。


アラカのプロットを作る時は全てにおいてアラカではなくアラカままと記載をした。

アラカままという単語を口癖にした、今では友人とのラインで何の脈絡もなくアラカまま好きぃ、というメッセージを送る極地へと至った。


全ては完璧だった、目を閉じればアラカまま。口ずさむ様にアラカまま、プロットのアラカの部分が全部アラカままでシンプルに気持ち悪かった。


綴を超える気持ち悪さを手に入れることだけはごめんだったので綴のきしょ過ぎるシーンを大量に描いた。綴のキモさと私のキモさでは僅差で綴の方へ傾いた。


そして冒頭シーンへ至った。笑うな、過酷なアラカまましてんだよ。




◆◆◆


 母は世界だった。

 いつもふんわりと、抱き締めてくれた。


 とっても、とってもいい匂いがする。



 ご飯を食べたら、とっても、幸せそうに、わらって、くれる。



 すき、すき、もっと母の笑顔が見たい。



「…んで、…汚い…」



 だから時より、母がいない間に来る化け物が、怖くて仕方なかった。


 髪が長い、怖い。怖い、たすけて、まま。



「____」



 嗚呼、母が、来てくれた。


 黒い髪の化け物は、消えた、良かった、よかった…






 黒い髪の化け物は、母がいないところで、母の悪口を言い続けた。


 不快、怖い、怖い、



「大丈夫、だよ」




 母はそんな時は、そばにいて、抱っこしてくれた。

 甘い匂いが幸せのふわふわ、くれる。




 ここは苦しくて、嫌なものばかりだけど、母だけは、優しい。



 叶うなら、母の中で、眠りたい。


 怖い場所は、嫌だ。母の中で、眠りたい。



 時よりくる大男が、僕を殴る。

 いたい、いたい、母、たすけて、まま、こわい、たすけて。




 母が、きてくれる。


 ぼろぼろの身体で、ごめんなさい、ごめんなさい、ぼろぼろにしてしまってごめんなさい、死なないで、まま、まま…消えたいよ。



 一緒に、遠いところへ、行きたい、もういい、いやだ、こわい、やだ。



「えと、どう、したの?

 こわい、の? 大丈夫、大丈夫、だから、ね。

 ……泣いても、いいよ…そばにいるから、ね、大丈夫」



 母、母、母の胎で眠りたい、帰りたい、あの暗くて、母に抱き締められ続ける場所に。



 母の胎の中なら、きっとあの暗い場所より、優しい場所なんだ。

 苦しくない場所なんだ、だから、だから



 母と一緒に、どこかに行けたら、いいのに。

◆◆◆


 家から出てきたアラカ。


 その瞳は少しだけ憑き物が取れたような、綺麗な群青だった。



「この先、みんなは、着いてこない方がいいよ」



 ____ざぁ、ざぁ、雨の音が耳に残る。


 その彼女が、最初に告げた言葉はそれだった。


 全員が、予想していたように沈黙…否、慎みをもって受ける。



「この先に施した封印、危険、だから」



 続く言葉は、全員が即座に死ぬ、と言外に告げている。


 怪異であろうと、この先の封印は危険であると告げた。



 だが、それを手で制するように…小さい母が前に出た



「この子達も連れて行ってあげてほしい」

「    さん?」



 怪異の首領、恐らく最高峰の力を持つ超越者。アラカと同等、あるいはそれ以上の能力を宿す彼女は〝それが目的だ〟嫁げるように全員を見る。



「(間違いなく、この子達はこの先の戦いに巻き込まれる。

 だから…どのレベルの存在と戦うのか、先に見せておいた方がいい)」



 ____俺の願いのためにも、ね。


 と、予知じみた〝勘〟がそうしろと囁いている。



「…みんなの意志を尊重する…けど、来ない方がいい」



「やだ」「行くわよ?」「結界か、いつ出発する? 私も同行しよう」『アリヤ院…』




 最初、アラカは一人で封印を片付ける気だった。


 何故ならそれがアラカの目指した〝向き合う〟だから。



 危険だと告げた。死の可能性を示した。


 その上での最後の警告、それさえも乗り越えるというのなら



「…あの、    さん」

「ああ、いいよ。

 そのために来たからね」



 ____全員を、守って欲しい。

 その願いを小さな母は快諾した、他ならぬ可愛い子供の頼みであり、それ以上に子供たちが大好きだから…そう告げる瞳に嘘は無く。



「ただしこの先の試練との戦闘には、俺は参加できない…それで構わないかな」

「うん、ありがとうございます」




 彼女が、8割の可能性で死んでいた結界。

 それとの戦闘を、アラカは一人で背負うと告げていた。


◆◆


 家の、庭…雨の降る悪夢の国で唯一ゴミの溢れていない場所。



 庭には、小さな…本当に小さな土の盛り上がった場所があった。



「少し、待ってて」



 ____コツン。軽く、靴の先で地面を突く。


「夢魔、創世、望遠鏡、ガラス玉」



 加護の光が溢れ出す。アラカに寄り添い、力を齎し____世界を上書きする。



「この景色は、あの子が好きだったんだ」



 南米の、ボリビア西部。

 いつだったか、本を一緒に読んだ時、その景色が載っていた。



「旅行に行きたい、そんな思念を感じたから…古本屋の、小さな旅行雑誌のコーナーに入ってたのを買ったんだっけ」



 銀色の鏡世界____ウユニ塩湖が、視界に広がっていた。



 世界の構築、ムラマサが発現したエーテ・イモルテルと同格の現象を引き起こしていた。



「天空の鏡、ウユニ塩湖…本に映ってたそれが、あの子は銀色で、母のように綺麗だと言っていた」



 今でも、言ってくれたことを覚えている。

 その末路さえ、思い出したから。



「あの子の母は、あの子のことが嫌いのようだったけれど、あの子は母が好きだったんだろう」




 ____綺麗。


「私が綺麗、なんだってさ」



 ____初めて、手を握ってくれた。


 

「…この写真だね」



 アルバムから一枚の写真が、ふわりと浮かび上がり…空に吸い込まれる。




 ____初めて、微笑んでくれた。



「…はい」





 ____初めて会えた。____ご飯食べてくれた。____可愛い寝顔。____



 声に応えるように、一枚、また一枚とアルバムから写真が溢れる。


 輝きながら宙へ溶けるそれは、儚くて、けれどどこか幻想的なものに見えた。



「さあ、次の封印だよ、行こうか」




 そう告げると、空間が裂け、黒い廊下への入り口が生まれる。



 まるで万年筆で、紙へ刻んだ線のように…それは現れた。



 黒い廊下、二つ目の封印はその先にある。



「この廊下……全部、さっきの写真」




「……何か、を、抱き上げてる」



 男の娘だった頃の、髪が銀と黒で混ざっているアラカ。


 とても、ふんわりと、柔らかで、穏やかな笑顔を浮かべて、自撮りをしているような写真だった。



 片手で、何かを抱き上げて、もう片方の手で写真を撮る。



「顔が…黒で塗り潰されてる?」



 マジックのペンで悪戯に潰された写真。

 悪意に満ちたそれは、何故か不快感と吐き気をもたらし…



「……この先の封印を解いたら、全部、見えるよ」



 黒い廊下の終焉へ歩を進めた。




 歩いて、壁に、肖像画のような映し出された写真を一つ一つ、アラカは触れ、悲しげに目を細め…目尻に涙を溜めて。



「女の人と、泣いてる赤ん坊」

「木の、人形と、石…?」



 二つの、オブジェクトが、見えてきた。

 それは人形と、人。

 石と、赤子。




「あら、こんにちは。

 ごめんなさいね、この子を泣き止ませないといけないの」



 一つ目の、オブジェクトと呼ぶには肉感があるそれが話しかけてきた。



 女性が、椅子に座り、腕の中に包まれた赤子をあやしていた。

 昼下がりの公園で見る、何処にでもある光景のように、女性は語りかけてきた。



「アラ、コンニチハ。

 ゴメンナサイネ、コノ子ヲ泣キ止マセナイトイケナイノ」



 もう一つのオブジェクトが、無機質な音声で、語りかけてきた。

 一昔前にあった、人工音声のような音質だった。



「お嬢様、これは」


「……無価値な行為だよ」



 アリヤの問いに、アラカは切り捨てる。

 その群青の瞳に二つのオブジェクトを、写した。



「これは、無意味な行為なんだよ」



 群青に映るオブジェクトは、アラカをただ見つめる。

 空を仰ぎ見るように、ただ無感情に見つめた。



「詩人を語る著作者が、その文字の羅列を見て詩人の器を決め付けることと同義だよ。

 酷く滑稽で、無様な猿真似だ」



 文字の羅列、それが人の形を語る。

 おかしな話だと、切り捨てるのが正しいのか。またそれさえただの決めつけなのか。


 酷い迷走に、眩暈を起こしそうになる。



「母が赤子を抱き上げること。

 人形が石を持ち上げること。

 この二つは何が違うのか」



 かつての、小さな英雄が見た世界。

 超越者から見た世界の形、それの歪みは酷く、酷く…あまりにも酷い。



「そう、聞いてるんだよ。

 酷く悪趣味な、封印だけれどね」



 黒い廊下で、照らされたスポットライトは、小さな場末の劇場によく似ていて…



「磨かれた銀が、世界を映すように。

 文字の羅列が、器を決めつけるように。

 色を重ねた画像データが、価値を宿す」



 特に意味のない言葉。意味がなく、価値もない言葉。



「きっと、泣いている赤ん坊と、濡れている石は、何の違いもない。

 抱き上げているのが、肉塊か、木の人形かの違いだけ」



 振り返り、背にいる怪異たちは、アラカの瞳を覗き見た。



「この先にあるものの価値が分かるのか、そう聞いてるんだよ」



 ————これを作った者は、間違いなく病んでいる。

 どうしようもない病巣を抱えた人格破綻者だ。



「この景色には、本質的には何の価値もない。

 それは世界の全てが価値を持ち得ないのと同様に」



 それは、ある種の合言葉。

 これを告げて、かつての記憶を認識することで、封印は解ける。



「価値を決めつけるのは人で、故にこそ万物に価値はなく、万物は価値を宿す。

 ただの石が宝石や、金属という価値が持つのは、ただそう決め付けられたから」



 価値は人が決め付けたもの。

 ゆえに、価値は人のものであり、万物は価値を持ち得ない。



 ____人間中心主義、かつてのアラカはそんなものを宿していた。



「この先にあるものの価値を、教えてほしいと、言ってる」



 かつてのアラカの価値観で、目の前の二つの価値を決め付ける。それが第二の封印の鍵であった。




 アラカは、幼い赤ん坊と、抱き上げられた石に、小さくキスをする。



「大丈夫」



 そっと、囁くように頭を撫でる。



「大丈夫だよ」



 母の愛と、同様に。またはそれ以上の愛情で。



「怖くない」



 泣いている赤ん坊の涙を、拭いたいと思うことは誰にも止められない。



「そばにいる」



 泣かないで、泣かないで、泣いてもいいよ、ここにいる。



「泣き止むまで、泣きやんでも、ここにいるよ」



 そう告げると




「…」「…」




 静かに…ただ静かに瞳を閉じて

 オブジェの間に、小さな扉が現れた。



「石と、赤ん坊を、同じようにあやす事。

 泣いている赤ん坊の、その涙を愛してあげる事、それ以上に愛すること」




 それが鍵。かつての英雄が残した封印の解除法である。

「世界の全てに価値はなく、同時に世界の全てに価値を持つ」


コイツ、何言ってるんだ…?

マジで何言ってんのか分からん、この電波女が。可愛いよ♡

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