十二話、創世
◆◆
「ひぐっ…ひぐっ…」
「大丈夫、大丈、夫」
とあるデパートの屋上、自殺者の急増で閉鎖されているそこでアラカは魔法少女を宥めていた。
「ご、こわっ、かった、…っ…えぐっ…」
「怖かったね、よしよし」
屋上に設置された忘れられた木製ベンチ。
アラカの肩に顔を埋めて泣きじゃくる魔法少女の頭を撫でる。
「何が怖かったか、聞いてもいいかな」
「まわっ、みんな、み、んな…私、いじめるの」
「そう…」
よしよし、と頭を撫でる。
アラカの瞳が、微かに曇る。
「君はそんなみんなを見て、怖くなっちゃったのだね」
「どうしてだと思うかな」
「そん、なの、わかんないよ…」
「そっか、わかんないかぁ」
泣き止ませよう、と頭を撫でてみるもどうも上手くいかない。
そこでアラカは「ああ、アレをでいいかな」と、つぶやく。
「ね、少しだけいいもの見せてあげよっか」
「?」
アラカは微かに、自らの内に眠る子供へと呼びかけるように瞳を閉じる。
「創世」
呼び声に応えるように、アラカの周囲へ小さい光源が生まれる。
はじめの光源は、周囲へ結界を張った。アラカと魔法少女の半径5メートルが新しい世界として新生する。
「花畑」
その光は世界に美しい朱色を咲かせた。
「ガラス玉」
その光は空間を反響させて視界の端から端を、美しい花畑にし
「____夢魔」
その声で、あまりにも綺麗な光景が広がった。
辺り一面に綺麗な花畑、夜空が一面に溢れているのに花が微かな光源となっているのか、幻想的な風景が溢れ出す。
夜空に、淡い朱色の花畑。
その中心で、小さな木製ベンチがポツンと置いてある。
「わ、わ、…!」
呼び声に応えるように、一つ、また一つと光源が溢れ出す。
「すごい、すごいっ! どうやったの?」
「お願いしたんだ」
お願い。そう、魔力を使用したとしても、根幹にあるのはただそれだけ。
「そう…お願い」
座ったままで、そっと、祈りを捧げる。
「願うだけで、祈るだけでこんな世界が作れてしまう…」
アラカは己の手のひらを無感情に眺める。
小さくて、弱そうで、けれど何もかもが〝できてしまう〟手を。
「みんな、みんな、君にこの景色を作って欲しかった。私が出来てしまったように」
出来てしまった、そう、出来て〝しまった〟のだ。
アラカには、なんでも、なにもかもが。
「…出来ないよ、こんなの」
「うん、難しいね。
今の君だと、ほんの少しだけ手が届かない…みんなは、それが分からなかった」
何故、分からなかったのか…それは、とても簡単な話。
「分からないように、私が奪ってしまったから…だから、もし一番の原因が誰かと考えれば」
菊池アラカという傑物が、当たり前の存在だと、誤認させた。
菊池アラカが悪いわけではない、寧ろ悪いのは周囲の人間だと言えるだろう____だが、原因と呼べるものがあるのなら。
「きっと原因は、私なのでしょう」
魔法少女の肩を引き、ぎゅっ…と、抱きしめる。
「私のせいだ、私が君を追い詰めた黒幕だ」
二人目の魔力覚醒者。世界を覆う結界どころが、小さい砲弾を放つこともままならない幼い子供。
「大丈夫、君はもう大丈夫」
弱すぎる魔物に手こずる子供。
拳一つでミンチに出来てしまう魔物に、長い時間かけても尚倒せない。
「私がこれからいう言葉を、ずっと覚えておきなさい。
これは私が君に送る、最悪の祝福だと思いなさい」
もし、これから辛いことがあったとしたら、この言葉を思い出しますように、と、微かな祈りを、アラカは込める。
「____君は私を呪いなさい、私のせいだと怒りなさい」
抱き締めながら、魔法少女の耳元へ、そっと、優しく囁いた。
「でき、ないよ」
「どうして?」
魔法少女は、アラカの抱擁に応えるように…縋るように、背へ手を回す。
「だって、こんなに、あったかい、から…優しい、もん」
あたたかいから、憎めない。
あまりにも抽象的な言葉、だが、その意味は不思議とアラカへ伝播して
「そっか…そっか、難しいんだな」
なら仕方ない、とどこか歯痒げに微笑んだ。
『____ッ』
瞬間聞こえた…それは、本当に…本当に小さい、砂粒程度の小さな音で。
「…?」
けれど、そんな小さな音を、彼女は見逃せなくて
「抱き上げて、いる…こども」
すぐに、その音が、自分だけに聞こえる幻聴だと認識し、その仕組みごと掌握し
____こんなこと、以前も、何処かで。
「____」
____________
「________________」
静止。
この一瞬、この刹那、アラカは全ての音から置き去りにされた気分を覚えた。
思考停止、否、思考が明瞭すぎる感覚に襲われ続ける。
ずっと閉じていた蓋が開いたような感覚。流れ出す色彩、かつて見た青い雨の世界を想起させるそれはアラカは確実な変革を齎している証明でもあり
「抱き上げて、いる…子供……」
____ピシ。と、何かがヒビ割れる音がした。
「泣いて……あ……なき、やませない、と」
泣いている、赤ん坊がいた。
ならば、あやさねばならないだろう。
それが愛おしいと思うのなら、
その情動は何にも優るべきだ。
「あ、あの」
「____」
不安げに見上げる少女、その顔にハッと気付いて、そっと、少女を抱き寄せる。
「思い、だした」
そして、そっと、頭を撫でてから離して
「ごめんね、行くところ、出来ちゃった、から」
アラカは異次元からスマホを取り出し、メッセージアプリを起動する。
『ブルーおばあちゃん、ここ迎えに来て』
位置情報を送信し、そのまま魔法少女の頭をぽん、と撫でてまたビルの屋上から飛び降りた。
____ビルから落ちる最中に、ふと、自分の体の変化に気付いた。
右腕の接合部に、真っ赤な血の亀裂が入る。
左脚にも、同様の亀裂が入る。
そこはかつて、アラカが切断した箇所であり…
「これは、あの子にあげたんだ…」
ぽつり、と漏れた呟きは…
「あの子に、会いに行か、ないと」
あまりにも小さく、空に浮かぶ大きな雨雲に溶けて消えてしまった。
◆◆◆その後のおばあちゃん。
「えっ、えっ、えっ、えと、位置情報…え、これを押せば地図が出る……? あ、でた」
※スマホ操作が全然わからなくてアタフタするババア(見た目ろり美少女)をお楽しみください。
「え、ぐ……地図あぷり、の使い方……思い出せ……ここから、確かミュゼは、ずーむ?とかで…あれ…えと」
「わ、なんか日本地図に…! く…! 紙の地図でいいだろ……!」
「ふふ、ふふふ、わからん……」
「あの子のためだ……ゆうきだ、ゆうき……一番怖いのは今一人のあの子だ……」
「あ、あの……いや、あの人なんか怖そう……もっとなんか、そう、主婦みたいなのに声かけて……ひっ、あの腕、凶器…! 筋肉型お買い物主婦は無理だ…!」
結局、近くの男子高校生に勇気出して声かけて教えてもらった。
【教会の加護】
加護所有者特攻能力。範囲内いる魔力所有者の魔力を利用して〝敵の内部に蛆虫〟を生成する。
蛆虫は魔力を食って成長し、皮膚を食い破りながら糞を撒き散らす。
女の子が戦いたくない加護ランキング堂々の一位。メスガキとクソガキの思考能力が無ければたちまち殺されるだろう。
攻撃 E
防御 B
魔力 E
魔防 B