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十話、アリヤの戦い

おひさしぶりです。


こうしんです。

 一方その頃、曇り空のゲームセンター内部では別の戦闘が繰り広げられていた。



〝ブモオオオオオオオオオオオッッ!!〟



 バゴンッ、ドゴォッ! ズドォオオンッ!

 獣の猛進と共に破壊されていくアーケードゲームに柱。




「ちょ、やべっ」



 それを即座に避け、避けた先で更に2回ほど地べたを転がり追撃に備える。


 1秒ごとに繰り返す破壊の連鎖に瓦礫やガラス片が周囲へ明確な狂気となって振り注ぐのだ。ある程度のマージンを取らなければこちらがミンチになることは容易い。


「うわーーー!! ふぅっ!」



 更に突進してくる獣から逃げ、ギリギリのところで跳躍。アーケードゲームの上に飛び、そこからジャンプしてゲームセンターの二階へと手をかける。



 デパートやスーパーなどでは見られない吹き抜けの構造だからこそ出来る回避術。




「(影のイノシシ…!? 何アレ)」



 ぶら下りながら、どうにか敵を見定めようと視線を向け————黒い猪が、空中を一直線に跳躍してきやがった。



「(あ________いや、その動きは嘘やん…)」





 推定100キロ以上の巨体____飛んでくる____これ____死____




「ねるかああああああ!!」



 2階の手摺から手を離して回避。すれ違い様に切り裂くようにナイフを猪の腹部へ突き刺した。


「ぐ、っ、う、おおおおおおおッッ!!」



 ナイフでそのまま猪の腹を掻っ捌くッ! 2階から1階へ落ちる衝撃で打撲傷を受けるもまだ意識が残ってる!



〝____________〟



 同様に1階へ墜落、激痛に悶える猪は更に凶暴に叫び狂う。


 地団駄を踏み、一度の振動と連動するようにアーケードの画面にヒビが入る。



 そして血まみれのナイフを切り払い、すぐ近くのアーケードの上に乗り



「獣の急所なんて、相場が決まってるんですよッ!」



 ____猪の瞳にナイフをブッ刺した。



 脳裏に刻まれた術式コードが熱を帯びて浮かび上がる。

 黒と翠色の光が溢れ、腕から柄へ、柄から刃、肉を引き裂き猛り狂う。



幻想憧憬、(ファントムペイン)熱を孕んで鮮烈に(・フルバースト)ッッ!!」



 猪が暴走して振り笑われるももう遅い————確実に入った。

 腕から生命力のようなものがごっそり抜ける。



「存在しないはずの痛覚を生み出して、強引に脳へ強烈なダメージを引き起こす…か、やるね」



 黒お嬢様が私のしたことを考察する。

 今の力、使い方は何故か分かった。

 だが、明らかに今のは怪異の力————加護だった。



「ふと思ってのだけれど、なんで君は菊池アラカに執着する?

 命が救われた、言ってしまえばそれだけだろう?」



 全身に強烈な倦怠感が帯びる。思わず膝を付いてナイフを床に置いてしまう。



「命が救われた、それってつまり、私の命はお嬢様のものってことでしょ?」



 ナイフを逆手に何とか握る。魔力を使う、と言う感覚に慣れるまで回数が必要そうだった。

 黒お嬢様に呼びかけに、私は間髪入れず返答する。



「それだけで命を賭けれる人種ではないだろう? 君。

 出来るのは菊池アラカや、柊綴と言った…一部の狂人だけだ。

 君、歪んではいるけど…そうじゃないだろう?」



 確かに、その通りだ。

 黒お嬢様の言葉に反論ができずに詰まる。



 ————息を整えようとするが、どうにも上手くいかない。


 命が救われた、ならばその命はお嬢様のために使いたい…その考えだけで、ここまで来れるほど私という人間は狂気的で無い。



「…ん? 柊…つづ」

「そら避けろ、死ぬぞ」


「え____」




 メリゥ




 ____お腹____黒い____死____




 瞬間、私の身体は〝く〟の字に曲がり、その勢いのまま壁に叩きつけられた。


 壁にヒビが入る、骨が軋む、間違いなく折れた。


「けほっ、っー!」



 息が、できない。


 腹への激痛、魔力消費による倦怠感、骨が折れた。




「(…!? さっきの、いのしし、無傷…!? は…!?)」




 腹を掻っ捌き、目にナイフを突き立てて全力の謎能力を発揮した。


 にも関わらず、ノーダメージ!? そんなはずがない、かなり痛がっていたしダメージを与えた実感もある。




〝ブモオオオオオオオオオオオッッ!〟



 だめだ、早く立て直しを————間に合わない————





 脳というのは、意外と冷静で。

 意識が機能していなくても、無意識に動いてくれている。


 だからこそ、ほぼ直観的に分かった。



 この体の状態、この距離、このスピード、この破壊力



「(あ、これ。もう、死ぬんだ)」






〝なんで君は菊池アラカに執着する?〟



 死の最中、そんな答えの出せなかった問いを、脳裏に描きながら





 




 ____その刹那に。


『____カチカチ山』


「____」




 とても、懐かしい声と共に、イノシシの背で強烈な爆破音が轟いた。




『嗚呼、親愛なる獣さん、その背に導を授けましょう』



 小さな靴を、こつりと鳴らす。



『純朴たる悪意、焼け爛れた駄馬の耳。

  皮膚を滴る味噌化粧。

 ____これぞ正義の味方なり』



 紡がれる言の葉は絵物語を顕現させる。


 そしてその物語は



『____カチ』




 バァンッ!(とても)




『____カチ』



 ドォンッ!(とても)




『____カチ』




 バァンッ!(簡単に)



『カチ』



 〝____!!!〟



 ____世界を破壊し、侵食せしめた。


 記憶と同じ、小さい背。詠唱と共に爆発するイノシシの背、飛び散る黒い肉片がその威力を語っている。




  半透明な身体、肩から下ろす大きな本用カバン。




 本を開いた状態で宙に浮かせるエセお嬢様口調の彼女は。



『ふっ』



 以前と同じ調子で、ケロリと笑いながら振り返り



『覚醒イベントって、こういう瞬間だから燃えるやつですの、よ!』




 怪異〝司書〟は、ここに返り咲いた。

読んでくださりありがとうございます…!

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