八話、感知能力
◆
____街外れにある、廃棄された工場。
かつてアリヤとアラカが語りあったその場所で、アラカは作業を行っていた。
「(…感知能力、どこまで行けるか)」
アラカはその日から、感知に魔力のリソースを割いていた。
行き当たりばったりで街を囲うように走り、その地の時間を凍結させても一向に先が見えないからだ。
「(…九州…太平洋…ロシア…精密な感知は、ここが限界…)」
感知能力で情報収集を行い、膨大な情報の整理をこれから22時間近く用いて行う。
その最初の作業を行おうと、意識の大半をシャットダウンしようとした____瞬間、
「———は?」
アラカの全身から悍ましい域の殺意が撒き散らされる。
通行人が、風が、鳥が、空間が己の死を幻視する————英雄の殺意に当てられ、意識がガリガリと削れていくのを知覚する。
「……」
____アラカは今、ある一箇所へ意識を向けていた。
情報整理を行う刹那に、初めに手を掛けた情報が〝それ〟だった。
窓をガラ、と開けて、そこへ足を掛け————強烈な破壊音と共に英雄は跳んだ。
「……鎖状炉心」
ぽそり、と呟く。首輪がドス黒く光、黒い鎖が空間から現れる。
「阿頼耶識へ接続————飛竜」
空中で飛竜を生み出し、即座に背へ跨る。
アラカの異常極まる魔力で生み出された飛竜は秒速150mで風を攫いながら羽ばたいた。
◆◆◆
つかえない つかえない。
魔法少女は使えない。
よわい、よわい、なぜ弱い?
英雄なら出来た、英雄ならしていた、英雄なら勝てた。
なぜ なぜ なぜ弱い?
英雄は凄かった なのに何故?
魔力があればみんな解決じゃない? それは可笑しい、解決しないのは間違えてる。
何故だ、誰が悪い? 誰のせい? ソイツのせいにして、ソイツが頑張ればみんな笑顔だ。
弱いのがダメだ、それが悪い、悪い、
魔力を持ってるくせに負けた。
____なんて酷い裏切り者だ、許せない。
◆◆◆
____あなたのせいで私の人生滅茶苦茶よッ!!
____今日、記者が来たら「私が弱いせいでごめんなさい」って言いなさい、わかった?
トボトボ歩く。魔法少女のピンクの方は言われた言葉を思い出す。
ブルー(ババア)の方は今朝「ぎゃあーー! 戻れなくなってるーーー!?!?」とか叫んでどっか行った。
「あ、きたきた」
小学校の校門前に、たくさんの記者が詰めかける。
「(あれ、どうやって、ここ来たんだっけ)」
ピンクは、意識が朦朧とした中で顔を上げた。悪意に満ちた瞳が溢れていた。
「(何か、言ってる…みんな、にやにや、してる)」
ピンクは昨日、自分の個人情報はネットに挙げられていたのを見ていた。
そこから、頭が真っ白になり、今に至る。
「____」
「____」
「(何か、聞こえてる…そうだ、何か、答えなくちゃ)」
ピンクは一昨日もお仕事をしていた。そのため、体力も、心も限界だった。
「(そうだ、私が弱いせいで、って、あやまらな、きゃ)」
____そういえと、今、マネージャーをしてくれてる叔母に、言われてるから。
「わ、」
息が詰まる。なんだろう、全然、声が出ない。
怖い、恐怖、心臓がバクバクして止まらない。
「(あ、あ)」
きっと
「わ、たし、が」
英雄は、ずっと、こんな悪意の中で
「よわ、いせいで」
苦しみながら生きてきたんだ…と、涙を浮かべた、刹那に。
____ズドォォォォォォォンッッッ!!!____
耳を覆いたくなるほどの、轟音が周囲を鳴動させた。
◆◆◆
銀色の髪を風に揺らして、
「…」
地面にクレーターを穿ちながら、その場に現れた。
「…」
ゆらりと立ち上がり、ふと、場を眺めた。
「「「っ!?」」」
瞬間、全員が謎の恐怖に襲われる。
何か、自分の人生全てを覗き見られ、全てを正当に、惨めに評価されたような感覚を覚えた。
「ぁ、ぁ」
へたり込み、英雄へ畏怖の眼差しを送る記者がいた。
「あ、いや、その」
恐怖に何も言えなくなる記者がいた。
「…」
英雄はただ歩き、魔法少女へと向かう。
全員が道を開け、顔を背けることすら出来ずに彼女を見る。
「(ぁ…)」
そして、英雄と少女は邂逅する。
____グ ル u____
空間を引き裂くように、狼型の魔物が現れる。
それは死角から現れた存在で、菊池アラカを間違いなく攻撃せんと迫っていて
「う、うしr____」
「小さな子に、全てを負わす
____見覚えのある、構造ですね?」
パァァァァンッッ!!
迫り来る魔物を拳一つ、叩きつけるように振り落とし____地面に肉片のこべりついたシミが出来る。
「「「____」」」
英雄の、獣の血がこべり付いた拳から、ぽたぽたと、血がこぼれ落ちる。
英雄の拳で地面に叩き落とされた肉塊は、それと同時に地面へ強烈なヒビを刻んでいた。
「こんな、こんなにも弱い魔物にすら梃子摺る未熟な子供に、何を、求めている、のですか」
腕に付いた血を手刀で振り払い____コンクリートに抉ったような切り口を残す。
記者は困惑と、不安と、罪悪感が伝播する。
目の前で叩き付けられた真っ赤なシミに、血塗られた拳に____1秒にも満たない時間で討伐した彼女に。
そして彼女の浮かべる微笑に、背筋が凍ってたまらない。
「おいで、大丈夫だよ」
手を強引に引き、そのままお姫様抱っこをする。
「この程度の雑魚に手こずる子供を、虐める暇があるなら犬の一匹でも縊り殺せる努力をしろ」
地に堕ちた肉塊を死んでもなお憎悪するようにり踏み潰す。
「————僕が、君たちの方が〝いらない〟と思ってしまう前に」
そういうとお姫様抱っこのまま、跳躍を繰り返す。
地面から学校の塀の上へ、塀の上から電柱の上へ、民家の屋根へと軽々と飛び、そのまま走り去った。
◆◆◆◆
いや英雄TUEEEEE!!
一撃で潰してて草
本当意味わからん、何でこんな小さな子供をまたいじめてんだよ。◯ねばいいのに。
魔法少女ってマジで雑魚なんか…
だから国も特に接触しなかった
言外の戦力外通知wwwww
メディアの過剰なヨイショといい、今回のメディアの炎上煽りに、本当ゴミだわ。不快すぎる。
英雄は怒っても今までしてた〝無償で助け続ける〟ってのを止めただけ。
寧ろ今までのおんぶ抱っこがおかしかった。
代わりに頑張ってた魔法少女叩きとか。アンチコメかいてるお前らなんかできんの?
ゆーて魔法少女ってこの犬と一ヶ月追いかけっこしてただけだよな。
一撃で木っ端微塵にされてるのかよ
もしかして魔法少女とか言ってるけど、ヤラセで怪異(笑)と演技してただけなのかも
おまんら頭悪すぎwwwあの大根縁起を見抜けないとかwwww
お、縁起がいいこと見抜くとか頭いいね。
縁起wwwww
大根に縁起を感じるとは…やはり天才じゃったか…
つぎ、また戦闘シーンに戻るはずです