四話、どこにいる?
良いお年を〜
超獣咆哮から一週間、今もなお超獣は不定期で泣き叫び血涙を流しつづけている。
街の外周を少しずつ少しずつ空間凍結し、市の三割がその結界に呑まれた。
「……」
ざぁざぁ、と雨が降り頻る深夜。
将来監禁される場所の扉がガチャリ、と開く音がした。
「おかえり、アラカくん」
「…」
その来訪者へ、変態はすっと…いつもの優しい雰囲気で声をかけた。
「…ただ、いま、です」
◆◆
返答があったことに、私は微笑む。
アラカ君はそれだけで顔を赤くさせた、この状況でもアラカ君は変わらず私を好いてくれている…胸が満たされる感覚を覚えた。
「腕と足と目、片方ずつ落としてしまったのですね」
ずぶ濡れのアラカくんを見て、そんな事実を口にした。
そう____アラカくんは四肢欠損を起こしていた。
「綴、さん」
可愛いな、とすっかり冷たくなってる耳を触る。
そのままアラカくんを浴室までお姫様抱っこで連行する。
「アラカくん」
ちらり、とアラカくんへ視線をやると
「…」
恥ずかしそうに頬を赤らめて、でもしっかりこっちを見つめてくる。天使かな。
「つ、づり、さん」
私を呼びかける声、ふと、アラカくんを見る。
そんな声で呼びかけるとは…今すぐ服を剥がしたい。
「…ごめん、なさい」
絞り出されるように告げられる言葉は拒絶だった。
私の邪な欲望を見破られたのだろう、そして拒絶の言葉…なるほどね? 自殺しよう。
「たすけて、ください」
違った。大丈夫、最初から気づいてた。
アラカ君が私を拒絶するわけがないことを。
◆◆◆
雨の中、車に揺られる。アラカが綴に頼み、ある場所へ向かっていた。
「…」
アラカは車窓に映る自分の瞳をみた。
————瞳の奥に、悍ましい闇がドロドロと渦巻いているのが、今でもわかる。
「すみません、こんな、時間に」
「構いませんよ」
車の中に揺られて、雨の中を走る。
車窓ごしに降り頻る豪雨と、映る自分の瞳が、アラカを酷く落ち着かせた。
瞳は濁らず…ただ少しだけ潤んでいた。それがアラカには少しだけ不思議に思えて…
「…」
手の、伸ばして、車窓に映る自分の瞳を、そっと撫でた。
「あれは…」
ふと、綴が声をかける。
「あの能力は…君が過去に取り込んだ異の力ですね」
アレ…そう呼称されたものへ視線をやる。
それはアラカの通った道…その空間だけ雨は止み、凍らされた瞬間で今もなお止まり続けている。
「…はい、ここにいる子たちが、力を貸してくれました」
アラカはそっと、自分の下腹部を撫でた…それは、アラカが今まで取り込んだ怪異の〝魔石〟の収納場所だった。
「…過去に取り込んだ、総数300を超える怪異、その加護の行使ですか」
「加護…と言えるほどのものでは、ないです。
加護はあくまで、怪異たちが さんから貰った愛の結晶なのですから」
加護は御母様が、怪異たちへ送った愛の結晶。外の世界でも立派に生きていけるようにという願いが込められている。
「私は、加護の…ほんの一欠片…そう、欠片程度の異能しか使えません…」
指の先で、小さな黒猫の氷像を生み出す。
氷を生み出す怪異…それを取り込んだ結果なのだろう。
「氷結の欠片、夢魔の欠片、時の欠片、黒猫の欠片…あの道には四人に、力を借りています」
____黒猫。その形をした氷像を、アラカはそっと撫でた。
「…着きましたよ」
そして、綴は車を停めて…目的地についたことを告げた。
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