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二十二話、堕ちた英雄


 魔法少女、ブルーとピンクは鋼鉄の道を進む。


 彼女らは今日、森で修行をしに来ていた。

 その最中で修行をサボろうとしたピンクは偶然この基地を発見し、今に至る。




「ここ、変な機械があってなんか嫌な感じがする…」


「ねえ、そろそろ帰らない…? 敵の情報を集めてからでも、さ。あと修行中だし」




 魔法少女ピンクは不安を押し殺すように一人呟く。それに対して傍のブルーは内心とんでもなく不安であった。



「なに言ってるのブルー! 私たちがこうしてる間に助けを求める人が待ってるんだよ!」


「怪異相手にしてもこっちの戦力じゃ、まだ勝てないよ」


「ダメだよ! 最初から諦めちゃ!」


「(うん、諦められないからこっちは修行してたんだけどね…)」



 けどまた面倒になるし良いか、とブルーはスマホを手に取る。



「(これ、不法侵入じゃないのかな…でもマップアプリに登録されてないし本当に何かあるのかも…)」



 両手でスマホを操作してもこの場所が分からない。

 そんな状況の中で____強烈なブザーの音が空間を震わせた。



「え!? なに!?」


「侵入がバレたんじゃないかな、怒られないうちに帰ろ」



 赤いランプがピカピカ光る。完全に侵入バレていた。



「でもさ別に怒られないんじゃないかな? 私たち魔法少女だから別に良くない?」


「魔法少女でも犯罪はダメだよ、免罪符じゃ無いからね…逃げるよ」


「めんざいふ…? 姫よくわかんない」


「あとで教えるからね。ローマ教皇とルターも」



 そしてピンクがハテナを頭に浮かべるのを尻目にブルーは手を引く。




 だが、次の瞬間に気づくことになる。



「_____こんにちは」


「________」



 もう既にそこが死線デッドゾーンだということに。




「え? だ、誰…そこにいるのは」

「…」



 真紅の光を背後に、銀色の髪が揺れ…狼のような耳がピョコっとするのが、見える。



「菊池、アラカ…?」



 その特徴から、ピンクはおもい当たる存在を呟き…真紅の影が、一歩踏み出す。



「うん、そう、だよ」





 ____菊池アラカ、人類最強の救世主がここに舞い降りた。




「なんで、ここに」



 不安を掻き立てる警報のブザー。




 忙しなく点滅し続ける真っ赤なライト。





 真紅に染まる鉄格子めいた金属壁。






「えっ、とね」



 ————地獄で一輪の花が微笑んだ。



「_____君たちの正体を知りたくて、ここで、待ってたんだ」




 その微笑みは、



 その子首を傾げる仕草は



 いったい、なんと呼ぶのだろう。










 ピンクはその存在を見て、ポツリと呟く。


「堕ちた、英雄…」




 アラカがどういう印象を与えたかは、分からない。

 だが、確信できることが一つあった。



「菊池、アラカ…っ…!」





 ————ファーストコンタクト、明らかにミスってる。




【堕ちた英雄】菊池アラカ。









「待ってなんかテロップ出てきた」


『それはボス名の表記だ』


「ボス名の表記!?」


『なんかそれっぽい演出欲しくて作った奴だな』



 スピーカーから聞こえる全裸博士の説明。


 アラカの前に禍々しい竜の枠をしたテロップが浮かび上がっていた。




『それよりどうするのだね。そのボス名表記のせいで向こうに警戒されてるじゃないか』


「私の台詞なんですが!?」



 ボス名表記を作った張本人の台詞とは思えなかった。




「ううん…なんて、言えば敵じゃない、と、伝わる、のかな…」


『武器を持っていないとわかれば向こうも警戒を解くだろう、これに着替えたまえ』


「たぶん違うと思います。

 白衣送ってこないで、ください」



 天井がパカっと開き白衣が落ちてくるのを横目に、両者は対峙する。



『こちらの気遣いを無碍にしおってからに』

「殴っていいですか」

『なんだ全裸白衣ではなく、裸エプロン派かね』

「おっけ殴る」



 天井がパカっと開きエプロンがヒラヒラ落ちてくる。



「人を煽る才能あるってよく言われませんか?」

『何だろう、初めて聞いたかもです』

「君才能あるよ」




 もういいや、と吐き捨てて…白衣とエプロンを後で使おうと決意して魔法少女へ向き直る。



「敵対の意思は、ありません」



 アラカは警戒をさせないように、微かに笑んで、首も少し傾ける。



「____そちらの方を少し借りたいだけ、なのです」

「なっ!!」



 青い魔法少女へ目を向ける。

 ピンクの魔法少女は目を見開き、声を上げる。



『アラカちゃん完全に仲間を奪いにきた敵ポジションで草なの』


『味方ムーブ下手か?』


『不器用なお嬢様もイイ』


『アラカくん…あんな敵を嘲笑うかのような顔を自然と浮かべるとは…可愛すぎる』



 スピーカーうるせえ。



「何が目的、ですか…」

「何の目的で、ですか。君たちに純粋に興味が、あるだけなの、ですよ」



 震える声で、青い魔法少女が問いかける。アラカに対する警戒心は最大限である。



「君たちの、正体を知りたい。協力をしてくれる、のなら、不法侵入に関しては目を瞑ると、このラボの責任者も言っています」

『言ってないぞ』




 アラカは自分が武器を持っていないと告げるために、天を仰ぐように広げる。



「急に現れた不確定要素…とても、看過できるものでは、ありません」

「っ」「ブルー、下がって!」



 何か危険な存在なのではないか、無視できない障害となるのではないか…アラカはそんな思考を、魔法少女へ向ける。



「あなた方の力で、計画に支障が出るわけがない、と…胡座をかけるほど、勇気はないの、ですよ」



 ____ゆえに、君が欲しいと告げる瞳はただただ狂っていた。



『計画のこと話してるのかリーダー』


『話してませんよ。私の計画だから邪魔させたくないと考えているのでしょう』


『骨の髄まで奉仕奴隷してるな…』




 そしてこれまでのアラカの対応。


 それは見る人が見れば警戒を解くに値するのかもしれない。



 だが、その上で、この状況を客観的に評価するならこうなる。




「____ッッッ!!!」




 ____あまりにもラスボスムーブが過ぎる。




「戦うしか、ない…!」



「あれ?」

『もう君わざとだろ』




 杖を振りかぶり、全力火力を向けてくる魔法少女。次回! 魔法少女死すッッッッ!



◆◆◆


 飛んでくる魔力の玉をアラカは拳で叩き返そうとし————




「魔力操作…弾けろ」



 触れる瞬間に、魔力の玉に干渉して爆散させる。



 本来ならば他者の異能に干渉し、改変などは不可能な芸当だが



「(ただの魔力を投げてくるんだもん…異能に変換もさせずに飛んでくる純魔力なら干渉されるよ)」



 周囲が爆炎に包まれる…白い煙と警報を意味する深紅のライト。


 そして————もう王手は始まっている。



「っけ、煙、g」



 煙を何かが掻き分けてきて





 ————真紅に染まった銀狼が、殺意に満ちた眼光で獲物を捕らえた。



「はぶt」


 ゴォォォンンッッ!! ピンクはアラカに後頭部を掴まれ、そのまま壁に顔面ごと叩き潰される。



「よっと」



 ガンッガンッガンッ!! 顔面を壁に叩きつけ、ダメ押しと言わんばかりに腕の関節をぶっ壊す。


 ベギッ、魔法少女ピンクの腕がありえない方向に曲がる。



「えい」



 床に投げ飛ばし、お腹の上に乗り、馬乗り状態で腹部に手刀で貫手を放ち、小腸を引き摺りだす。





 そしてその小腸を首に巻き付けてから蹴り飛ばして仰向けにし……



「首絞めるよー」



 ピンクの頭を踏み躙りながら締め殺すように、小腸を引き始めて、



『ちょっと待てええええええええええ!!!!』


「え、どしたのレヴィ」


『こっちの台詞なんだが!?!?』



 かひゅっ、かひゅっと、イキ狂った後のアラカみたいな呼吸音をピンクがあげている。


 当然、目は白目を剥き死の寸前だ。



『え、手加減は!?』


「して、ないよ…?」



 手加減無しで致命傷を叩き込むアラカ、戦闘となったらマジで容赦ない。



「魔力持ってるならある程度雑に扱っても耐えるかなって…」


『アラカちゃんの手加減の基準が結構ガバだった件』


「うん、でも小腸で首締めは、かなり酷かったと、思うよ」



 ピンクを見るが、このままではあと数分で死ぬだろうことが伺えた。


 そして____パシュッ、と軽い音が聞こえた。



「…?」



 アラカは無傷のまま、別方向から飛んできた氷の刃を受け止めて…それを打ってきた存在へ目を向ける。



「…君か」


「はぁ、は、ぁ…!!」



 息が荒く、瞳孔もまるで定まらず、膝もガクガク震えている青の魔法少女。


 彼女の顔からは自律神経の乱れから溢れる嫌な汗がびっしょり流れ出ていた。



「…っ」



 今にも気絶しそなのか、足元をくらませている彼女は____自分の顔面を思い切り殴った。



「はぁ、はあ…」



 それは彼女なりの覚悟の入れ方なのだろう。口の端が切れて血が出ていることから、彼女の気合が伺える。



「こっち、弱い、から…頭も、悪くて、何が正しいかも、分からない愚図なの、よ…」

「…」



 アラカはそんな彼女を、真紅の瞳で写す。


 それは気のせいか、少し興味深そうに…彼女の〝成長〟を覗き見る。



「こうして足掻くのも、正しいのかも、分かんない、馬鹿、だから…この選択で、ただしいのかも、分からない…」

「…」



「け、ど…」



 青い魔法少女は膝を折り…アラカへ向かって正座して____そのまま、土下座の姿勢をとった。



「お願いします、その子を傷付けるのは…やめて、ください……」




「その子は、それでも、こんな愚図を引っ張ってくれた…大切な…友達、なんです…たぶん、少なくとも、そう思ってます」



 自分はどうなっても良い、という意志力に____アラカはウェルから買った治癒の手紙を起動した。



 傷が癒えていく。致命傷から重症というレベルまでに再生を起こすその姿はまさしく奇跡だろう。




「レヴィア、あと、お願いできる?」

『はいはい。今行くからそのまま応急処置はしといてね』

読んでくださりありがとうございます!


もし良かったらポイントかブクマ、感想、あと見たい話のリクエストくださいな〜

あとできれば、楽しく読んでくれたら嬉しい

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