十九話、第三拷問室 室長
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晩秋の森林。枯れかけた木々が生い茂り、随所に茶色の落ち葉が映る。
そんな秋の大空には一匹の黒竜が駆けていた。
風を切るように…否、切り裂くように空中を舞う竜の背には幾つかの影が見えた。
「秋の風、きもちいい」
「肌寒いの」
「毛布半分なら入っていいわよ」
「お嬢様あったけぇ〜」
アラカ、ウェル、レヴィア、アリヤ…いつもの菊池家四姉妹である。
そして
「今日は一緒に連れてきてくれてありがとう」
怪異の首領、 、彼女さえも同行していた。
「こちら、こそ さんがいて、心強い、です」
「ママなら歓迎なのー」
「御母様一緒のお布団でよしよしして」
「 さん好きだから良いですよ」
ハーレム時空。そうとしか言えない状況であった。
「そろそろ着きますよ。
私の会社の一部署に」
竜_____綴はそう返すと、ゆっくりと降下を始める。
◆◆◆森林 地下基地。
森の中に降り立つと、草木に隠された地下へと続く扉があった。
その扉にコードを打ち込み、中へと進む。
「金属製の壁…なんだこのラボ」
レヴィアがそんな呟きを洩らす。
純粋な疑問とも取れる発言だが、その声は疑問というより困惑,というものの方が近かった。
そして幾つもの長い長いフロアを抜けて、最深部へと辿り着くと…
「久しぶりですね。可憐、視察の時間です」
_____一人の、女性へと声をかけた。
「…」
ただ広いデスクに一人座し、パソコンの画面に文章を打ち込む女性。
「…あ?」
ヤグされた様子で声を洩らし、覇気のない様子でキャスター付きの椅子の上で、くるりと回り
「ああ…」
口にココアシガレットを加え、目元の隈を隠そうともせず…
「誰かと思えば我らが社長ではないかね」
二十代後半ほどに見えるその女性は、頬杖をついてそう返した。
◆◆
第三拷問室。その最奥にいた女性。
死んだ魚の目をココアシガレットを咥える姿に、全員が息を呑み…
「あの」
一人、アラカのみが声を出す。
「…ふむ。英雄、か。
何かね。社長の変態性癖を全て受け止めた逸材よ」
散々な評価であり、部下にも綴の変態性癖が伝わっていることにも驚いたが…それ以上に、アラカには無視できない疑問があった。
というか、全員が同じ疑問を持っていることだろう。
「_____なんで、全裸、白衣…?」
登場した女性の格好を、端的に表現する。
_____全裸の上に白衣を一枚纏っているだけである。
「ああ、すまんね。
基本が裸族なもので、つい服という概念を忘れているのだよ」
伸び切った髪、目元に隈、豊満な胸に、何処か食生活の乱れを思わせるお腹……そして全裸に白衣という…目を覆いたくなる様な女性。
「はぁ、面倒だなあ…服ねえ…白衣以外なんかあったかねえ」
頭を軽く掻き、椅子を数個用意する。結局裸白衣のままだった。
「ああ、適当に座ってくれたまえよ」
女性は椅子に__全裸白衣で__座り、足を組んでからコーヒーの入ったカップを傾けた。
「第三拷問室、室長、夢見可憐だ。
ああ、一応言っておくが人間だぞ? かわい子ちゃん諸君」
第三拷問室の管理者はゆったりと足を組み、気怠げに頬杖をついた。
全裸博士。何日も風呂入ってない、絶対