五話、菊池家の日常
◆◆◆
「…」
目が覚める、側に抱き付いて眠っているアラカくんがいる。
身体に包帯を巻きながら…けれどもそれ以外、何一つとして身につけていない。
瑞々しい肌を、申し訳程度に包帯の白が載せられている。
ほとんど、裸に近い。
「…」
「(昨日も、無理をさせ過ぎたな)」
アラカくんの首についている手形の跡を見る。
自分の性壁のイカれ様に、付き合ってくれる彼女…愛らしすぎる。
「(さて、朝の準備ですね。
今日は休みなのでゆっくりと、でいいかな)」
さて、まずは…立ち上がろうとする。
がし。
「…」
ぎゅー、と小さな温もりが…離れてくれない。
「(どうしよう)」
可愛い生命体が、眠りながら…無意識に自分を求めている。
ここで、私の視界には二つの選択肢が舞い降りていた。
「(戻って、よしよししたい…!)」
その衝動に駆られるも、朝起きてきたアラカくんに出来立てのご飯をあげたい衝動もある。
「(…いや,私は怪異の理性派閥まとめ役…ならばこの程度の困難…!)」
すぅ、すぅ、と寝息を立てながら抱き着いてくれる愛らしすぎる天使…。
「(この,程度…)」
◆◆
数十分後、龍の姿でアラカを背に乗せてして、尻尾でよしよししながら…同時にありえないくらい器用に朝食を作りまくる綴がいた。
◆◆
その日は菊池家で、普段通りの日常が送られていた。
「お嬢様ー、ドライヤー貸してくださいー」
「いい、よー」
ウェルがカーペットの上でクッションに乗っかりながら漫画を読んでいた。
アラカもまた、カーペットに座り……テーブルに突っ伏す形で本を読んでいた。
「アラカちゃん、お菓子とってなの〜」
「はい」
アラカはテーブルの上に置いてある袋菓子、その中からテキトーに一個を取り…ウェルへと軽く投げる。
それをウェルの手紙がクッションの様にうねり、受け取り、ウェルの手元へ行く。
「…………」
「? どしたの? アラカちゃん」
視線を詩集から外し、ウェルの方へと向ける。
「ああ、ごめん。ウェルの寝巻きがなんだかオシャレだな、と感心していたの。レヴィのもだけ、ど、ね」
ウェルの寝巻きはかなりファンシーなもふもふを宿したものだった。
裾も膝上までしかなく、何処か……〝女の子〟を漂わせる寝巻きだった。
「あー、じゃあ今度一緒にこれ売ってた店行くなの?」
「うん、じゃあお願、いしようかな」
アラカはというとスポーツブラの上に白の丸首シャツ、その上からゆったりとした黒パーカーを着けるというラフスタイルであった。
下半身もゆったりとした短パンであり、色は黒を基調としている。
髪も一つにまとめて肩から胸に下げている。
「と、言ってもアラカちゃんもなんだかんだでオシャレなの。
短パンにゆったりパーカー……」
「うん、ありがとう。そう言ってく、れると少しは自信、がつくよ」
ニコリと微笑んで、そこでまた、二人は自分の読んでいる書物へ目を向ける。
ウェルは少女漫画を、アラカは詩集を。
「……ウェル、ウェルの漫画、何か借り、ていい?」
「おっけーなの。部屋から勝手に取ってってなのー」
詩集を閉じて、アラカはウェルの部屋へと行く。
その時、ちょうど髪を乾かし終えたアリヤが姿を見せて、
「あー、二人とも。ココア入れるけどどうするー?」
「「のむー」」
「じゃ、レヴィアさんの分も入れて四つね」
そこから、菊池家は気ままに時間が過ぎていく。
ペラペラ、と本を読んだり、ココアを入れるためにポットを電気を入れたり、と過ごしていた。
アラカがウェルの部屋から降りてきた時、アリヤがピッ、とテレビを付けていた。
『魔法少女! 彼女たちの快進撃が止まりません。
今日も怪異被害を退けました!』
ニュース番組では、最近取り上げがちの話題が報じられていた。
「魔法少女だってー」
「怪異を退けた…なの? ほーん、なの」
新たな話題に事欠かない終末世界。
今日も今日とて、日本では希望的観測のあるニュースがあった。
「魔法少女、人気なの」
「彼女らのおかげでお嬢様の話題も減ってますからねー。ほんと平和」
ココアを飲みながら、アリヤはスマホを弄る。
そこで、ふと新たに加わる影が一つ。
「能力は……ふーん、まあまあね〜」
「あ、レヴィ」
「どのくらいなの?」
お風呂上がりで、髪をタオルで優しく拭きながら登場する菊池レヴィア。
菊池家の(現時点では)末っ子である。
「平均的な怪異よりかなり弱い程度ね〜。
アリヤさんにも負けるレベルじゃないかしら」
「私何も能力とかないんだけど!?」
金色の髪に八重歯、メスガキ。
そんな要素を兼ね揃えた見せかけ聖女は。ゆったりとくつろいでいた。
「あれ? この追い払われた奴、怪異じゃねーの」
「本当だ。あれ魔物ね〜」
テレビで映し出される〝怪異〟と呼称されたそれは…何か中型犬程度の大きさのものだった。
確かに魔力を宿しているものの、微かなもので…使用方法も若干の強化と、二回程度火の玉を出すくらいだった。
「?」
「怪異が作った動物。まあ猫とかのペット感覚でいいの。
アリヤでも普通に殺せるの」
「ええ…」
そのため、怪異を退けるよりもかなり簡単なことをしている…と評価を下す面々。
「で、も…あの子らの、戦闘、能力、から考える、と…じゅうぶん、すごいと、おもう」
「戦闘能力…魔力の玉をかなり大雑把に飛ばす程度なんだけど……燃費良い使い方とか、練習した方がいいわよ、これ」
「初心者で、教える先輩も、いないと…仕方ない、よ」
アラカは基本、頑張り屋や誠実な人間を愛する性質がある。
故に、魔法少女という存在にある程度の好感を持って眺めていた。
「でも魔物作るとなると【牧場物語】だけど……アイツ、ルー◯ファクトリー5にハマってて活動休止とか聞いてるんだけど、もうやめたのかしら?」
そこで話の内容は魔物の製作者へとシフトする。
魔物とは基本、特定の怪異しか生み出せない。
魔物を生成する能力者……そして怪異は全員が姉妹同士であるゆえ…情報は必然的に絞り込めていく。
「流石にまだだと思うの。この前の牧◯物語の時は3年近く引き篭ってたから、今出てくるのは早すぎるの。
ビール缶片手にルーン◯ァクトリー4の攻略本持ってるやつが数ヶ月で出てくるわけねーの」
「ルー◯ファクトリー4は面白かったし、あと5年は出てこないわね……」
「会話だけで新キャラの濃さを表現するのやめない????」
アリヤのツッコミで話に一区切りができ、そこでまた〝じゃあこの魔物作ったの誰なん?問題〟へと視野が移る。
「じゃあ後は……代表的なのは【幻想郷】の司書とか、あと各派閥が抱えてる工房出身かな」
「でも幻想郷はもう死んだから……何処かの怪異のラボなの?」
かつての【幻想郷の加護】所有者…司書は死に、加護の略奪を行なっていた怪異〝変異種〟も殺された。
ゆえ、可能性は一つしかなく……。
「ま、考えても仕方ないわね〜」
「考えた後であれだけど、ぶっちゃけ死ぬほどどうでもいいの。どっか遠くでやってるならウェルは興味ねーの」
「まあ、この魔物もこっちにはきてませんしね」
「降りかか、らない間、は、いい、かな」
そこで話がどっかいった。
あのアラカさえ、魔物討伐をする気が皆無となれば……この魔物と魔法少女は長い付き合いになりそうであった。
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