二話、暁の日常
感想にてリクエストのあった「暁の日常」を書きました〜。要望通りの作品が書けていれば良いのですが…………
◆
「(俺の人生は、なんなのだろう)」
俺、暁春馬は……ある時、そんなことをふと思う。
自衛隊になったかと思えば、テロリスト事件を起こし、
捕まったかと思えば囚人雇用制度、という新しい法律に適応させる…
「(今ではこうして、書類仕事とボディガードに従事する日々、か)」
我ながら、波瀾万丈な人生だと思う。
「暁くん、これを頼めるかな」
「はい、承知しました」
今は、正道様の秘書、のようなことをしている。
「暁くん、3階の手伝いに行ってくれるか」
「承知しました」
正道様から渡される仕事を処理し、スケジュール管理をして、他の部署にも手伝いに行く。
「いつも手伝いありがとねー、それと…暁さん、休憩とった?」
「あ、いえ…まだです」
そんな、常に動くおかげか、時間管理を指摘されることもしばしばある。
「真面目で丁寧…だが自分を顧みないところがある…君の美点だが、指摘するのも私の仕事でな」
「私のようなものにそのような温情は…いえ、善処いたします」
「…すまない。気遣いできる部下に恵まれ、私は幸せものだな」
正道様曰く、他の部署の人間と良好な人間関係を築いたりして、組織の潤滑油…のような、ポジションが求められている。
…本当に秘書として扱われているようだった。
「…いいん、だろうか」
こんなに、充実していて…、と、誰にも気付かれないように一人、呟く。
◆◆◆
そんな時、正道様が何処からか電話が掛かってきた。
電話を取る前、正道様の表情はいつも通りの仏頂面だった気がする。
だが、気のせいだろうか。今は微妙に気まずそうに血の気の引いた表情に見える。
「そうか、分かった」
そういい、通話を切ると背もたれに背を預け……ふぅ、と息を吐く。
「その、なんだ」
「……(察し)」
そしてこちらへ呼びかける声。正道様が言い淀む、もうその時点でなんか察した。
「————ウェルくんとレヴィアくんが機関銃片手に商店街を全力疾走しているらしい」
「…止めてきます」
————つまり娘たちの暴走だった。
「アラカくんも既に動いているそうだ。現場に着いたら彼女の指示に従いなさい」
「承知しました」
「……子育てとは、なるほど大変らしい」
「……はい、本当に」
けれど、不思議と充実している自分に気付く。
そして、正道様の口元が微かに動いていたように見えて………それが、どこか満足げにに見えたのは、俺の気のせいじゃないはずだ。
◆◆◆
「すみません、ありがとうございます」
「いえ…私のようなものに、そのような対応は……」
事態を収束させて、事後処理を終えると…ちょうど居合わせた彼女に会う。
羽山アリヤ……菊池家の長女として、また、住み込みメイドとして家事をしている少女だ。
「何言ってるんですか、私は助かりましたよ? 助かることをされた、だからお礼を言う…それを拒まれたら、困ってしまいます」
彼女の片目には、それを覆うように包帯が巻かれていた。それは、彼女が以前……レヴィア様の異能を受けた際、負った傷だ。
アラカ様が言うには、もう完治しており……以前とは違う機能が備わっている……らしい。
だが、彼女は今でも、その片目を覆うように包帯を巻いている。
それを見るたびに、胸がずきりと痛む…………また、守れなかった。
「…ね?」
そう言って、これが御礼だ…と缶コーヒーを渡される…自分の好きなものだった。
「……」
それでも、自分は…彼女の声に応えることが出来なかった。
だって、自分はそんなものを受け入れられる資格など、カケラもないのだから。
「俺は……」
「うるさいです」
「うぐっ」
口にミルクティーのペットボトルを突っ込まれる。口に甘い味が流れる。
「受け入れられるか受け入れられないかなんてどうでも良いです。
私は、私がお礼をしたいからそうしたんですっ、ばーかばーか」
そんな悪戯気に吐かれる罵倒が…妙に、心地いい。
年相応な表情を、彼女は普段見せない……だというのに、彼女は俺に対しては、そんな表情ばかりを見せる。
「さ、護衛対象からの命令です!
この後の買い物手伝ってください。荷物持ちが欲しいんですよねー」
そう言って、背を向ける彼女に敵わないな…と、一人呟く。
手元にある、缶コーヒーを見る……。それを飲むことさえ、躊躇ってしまうから、自分はダメなんだろう。
缶コーヒーを……ついぞ開けることが出来ず、ポケットの中にしまう……そして一人、ごちる。
「向いてないな……本当に」
____罪は自分を傷付けるためのオモチャではないんですよ。
「…俺は、また…」
____それでもクヨクヨするならこれが罰!!
「…………」
____見様見真似だと、まあ、失敗しますよねえ。
「(………………そうでしたね)」
____自分を許せないならその度に蹴り飛ばします。そして気に食わなければまた蹴り飛ばします。
それが罰だと納得してください。
「(……罰は、彼女がくれる)」
____菊池家関係者の男は大体面倒臭い。だから殴るぐらいが丁度良い。
これは菊池家の家訓ですっ。
「(いつか、なれるだろうか)」
商店街へ向かう彼女の背を見て、そんなことを思う。
「(アリヤさんの、面倒臭い男…とやらに…いや、違うか)」
____人が聖人の真似事をするな、分相応を知るがいい。
つまりはそういうことです。
「少しずつ、少しずつ…歩いて行こう。
俺は結局、凡人だからな」
彼女の言葉は、今も胸に残っていた。
◆◆◆
ミルクティーの入ったペットボトルを傾けながら……先ほどのやり取りを思い出す。
「(お嬢様なら…きっとキスしてたんだろうなあ…)」
キスをして、無理やり黙らせるのと同時に……相手へと愛を告げる。
お嬢様ならそのくらい、平気でするだろう。
だが、私にそんな度胸はなくて。
「ふぅ……」
溜め息を吐いて、ペットボトルの口を見る。
そして気付いた。
「……………これ、間接………え、あっ……ぅ」
————私、間接キスしてるじゃん。
その事実に、顔がぷしゅー、と熱くなり……思わずしゃがんでしまう。
「アリヤさん?」
「だ、だ、だ、大丈夫です! 少し足が、その、ワルツを踊りたがってて、それだけですから!」
「ワルツを!?!?」
それを心配そうに覗き込む暁さんを他所に、必死に誤魔化して……顔を覆って、一人呟く。
「向いてないよぉ……本当に」
◆◆一方その頃。
「暁さん、イケメンだよね〜」
「仕事もできるし、とても物腰柔らか」
「あとさあとさっ、時々見せる罪悪感…というか、暗い感じの顔…すごく良くない…? 放って置けない感じでさ」
ありやがんばれ、暁くんはモテるよ
普通のことを普通にする超人です彼は。
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