五十七話、守護騎士戦 前半
ひるやすみのじかん、費やした
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「来い、天墜剣」
「邪竜の加護よ」
片方は炎熱を纏う剣を抜き放ち、片方は身体に不死の異能を行き渡らせる。
ムラマサの腕は一秒ごとに焼き壊れ、アラカの周囲にはどす黒い魔力が、霧のように漂い続ける。
「死ねよ」
「えと、気にしてること、いって…ごめんね?」
ズドオオオオオオオオンッッッ!!
上段からの叩きつける様な太刀筋。それだけの動作だ。
それだけの動作で舞い上がる爆炎に、アラカははあ、とため息混じりに解析する。
「火力特化の武装…どこまでもそれしか考えていないのですね。
持っているだけで腕が溶けているではないですか……肩は焦げて、本当にひどい欠陥武装」
ムラマサの腕を見る。ムラマサの…………もう半分以上が〝熱に耐えられず溶けている〟腕を。
全身の皮膚が、まるで地獄の鬼のように沸騰していながら……それでも、と。
「そりゃああああああそうだろうがあああああああ!!!
あはははははは!! そもそも聖者は旗印って、相場が決まってんだろおおおおおおお!!!」
「使用者のことを何一つ考えない…観賞用の武装ということですか…、っ!!」
正解だ、とでもいうかの様な斬撃に周囲は熱気の嵐に包まれる。
「(近寄るだけで皮膚が焦げる。数秒でも至近距離にいれば骨まで溶ける。
これが、溶かす能力などではなく……ただ〝熱を放つ剣〟を振るった結果、ですか……!)」
その熱気の異様さに——軽く3000度は超える焦熱の世界————その危険度を正しく認識し…その上で。
「___で、だから?」
ムラマサへと〝焦げながら〟見切りを行い、手を掴み、引き寄せと同時に鳩尾へ肘鉄。
流れ作業のように怯んだムラマサの瞳に抜き手を放ち…戦闘を終える___刹那に。
「っ!?」
腕が熱に耐えられず消滅した。
焦げるという工程は省かれ、壊されたのだ。
「ら、いあああああああああ!!!」
「…!」
即座に背後に飛ぶも、足を炎熱の剣により切断される。
瞬間の機転でカポエイラの真似事のように蹴りを放ち、どうにか逃げ延びる。
「箇所によって…放つ熱量が違う、ということですか」
既に治った腕をふり、面倒な敵手に観測を行う。
防御不可能の炎熱能力者。
それを相手取る上で、菊池アラカは相性が良過ぎた。
「___ま、いいか」
アラカは再び疾走し、腕が溶ける痛みを〝無視してそのまま殴り抜いた〟
「ぐ、ぁ゛ッ!?」
「再生させながらならまあ、殴れますからね」
耐性が違う、経験が違う、技量も魔力も見切りも何もかもが違い過ぎた。
「腕、溶けてるよ、だいじょぶ?」
煽りと同時に焼き溶けた腕を、そのままムラマサの顔面にぶちまけて目眩し。
しかし顔面に届く前に消滅するため、不発に終わる。
「は___たりめえだろうが」
その状態で起き上がり、ふはは、とムラマサは不敵に笑んだ。
「聖女は死なねえし俺も死なねえ!! 死んでいいのは弱者だけなんだならよおおおおおおおおお!!!」
再生は痛みは無くさない、それどころか天墜剣の火力で腕を今なお壊れ続けている点を見るに身体中に常に激痛が走っているのだろう。
___その上で発狂しながら動く様は最早狂気だろう。
「驚きました。そうまで、して戦いますか。
あと、酸素焼き尽くすの、やめて、もらって、いいですか」
流れる様な貫手により、ムラマサの瞳を潰す。
それでもまた壊しきれていないのは、アラカが無手による戦闘を行っているからに他ならない…というのも。
「あのナイフ、融点それなりに高かったのだけれど…それでも溶けてしまいますか…熱量それ、アーク溶接並み?」
「アークならお前、目が潰れてるだろうが、ヨォッ!!!」
武装は溶かされていた。
服もほとんど焼かれており、それでも原型を保てているのは一重に彼女の持つ〝首輪〟の力によるものだ。
「はっはー!! しかしなんだその首輪、マジで気持ち悪いなああああああああああ!!!」
「失礼な。執着が気持ち悪いと言ってください。デザインは好きです。
そして気持ち悪いとは思いますが、結構そういうの、好きなのですよ」
首輪に仕組まれた術式によって、真っ暗ではあるが服の原型が残っているのだ。
「しかし、本当に復活しますね」
「騎士は死なねえんだよおおおおおお!! 何回言えば分かるんだろうなあああああああああ!!!」
「騎士は死なない、とは言いますが…厳密にはそうではない、でしょう」
飛んでくる斬撃を見切り、拳による応戦をしながらアラカは視線を動かした。
「死ぬ度に、後ろの聖女が魔力供給を行う。
つまり騎士の不死は〝能力〟なの、ですよ。そして同時に、私の不死の、下位互換とも言える」
手首を掴み、関節部をへし折る。
それに対して負けじとムラマサがアラカへと手を伸ばし
「私の、不死とあなたの不死…その違いがあると、すれば」
___その手をアラカは片手で掴んだ。
不敵に笑むアラカは…片手は視線を誘導させ
「効率と、速度でしょうかね?」
ムラマサの手を、握力で握り壊した。
ボロボロ、と壊れるムラマサの手に対して、アラカの手は無事である。
燃えに燃え、黒焦げになっているものの、アラカの不死はその熱量に拮抗しているのだ。
「再生速度がおそ、い。
消費魔力が、たかい。
聖女から、距離を取れば死ぬ。そし、て一番の欠点は」
もう片方の腕を壊してから、アラカはムラマサへ足払いを放ち転ばせ___
「魔力供給が尽きた瞬間、隷属の眷属は死ぬ」
___炎熱の世界で、ムラマサは床へ押し倒された。
両者の瞳を真正面から激突する。
片方は瞳の奥すら、覗き込み
片方は瞳から逃げる様に睨み付ける。
そのどちらが、どちらなのかは、言うまでもない。
「炎熱、凄まじいですね。
死からの復活も、かなり多い」
まるで機械が物質を観測する様に、アラカはその奥すら観測する。
「魔力が一切減っていない…ほうほう、そう言う仕組みですか」
観測は終えた、とでも言うかの様な笑みにムラマサは背筋に何か、怖気が走ったのを察知し、
「じゃあ、仕方ないですね」
___次の瞬間、彼の目には胴体を切断されたレビィアの姿が映った。




