五十六話、なんでこれ戦ってんの
「へえ、助けねえんだ?」
聖女派の怪異が楽しそうに磔を生成してる後ろで、そんな問いをアラカは投げられる。
「正義のヒーローみてーなもんだと思ってたからよ」
「…………」
ムラマサの問いに、微かに瞠目し…アラカは答えた。
「ええ。私は、一人の、人間ですので…」
英雄などではない、と告げて、アラカは敵手を見定める。
「慈愛主義者…そう言った方がいるのは心得ています。
ただ私はそうで、なかった…それだけでしょう」
「なんでだ?」
その問いを投げてから、問いを投げた本人……ムラマサは軽く頭を掻いて言葉を足す。
「あ、すまねえ。オレは頭が上手く回らなくてよ。
本当にただの興味なんだ。オレも人助けは苦手だし、殺した方が早えと思う。
なんつーかな…お前の考えが知りてーっつーか…あー、くそ」
そのしどろもどろな言いように、アラカは瞳を疼かせる。
その奥にある何かすら観測し続けている。
「…正義のヒーローなら、慈愛主義者なら…今のような人も、たすけていたでしょうね」
そして続ける、ムラマサの問いに答える形で。
「弱き善人も、弱き悪人も。それこそ平等に」
今の人、アラカからすれば気に食わない猿だった。故に助けない、何故ならそれが人間らしい感情ということだから。
「許して、救って、助けて、祈りを聴いて」
初めての試みに、まだ怒りは収まりそうにないな…と自重しながら。
「だけど、ねえ、それって」
アラカは己の道を定めた。
「相手を微塵も観てないと、何も変わらないじゃないですか」
————両者の間に、風が吹く。
「慈愛主義者というのは、結局のところそういう生き物で、す。
何もかもを許しているというのは……初めから向き合っていないのと同義」
ムラマサは、ピクリ……と指を動かす。
「自己の考えがない。自己の価値観、同時に客観視で相手を観測しない……。
怒りを抱かない……それは酷く空っぽなガラス玉みたいでしょう」
慈愛主義者は余りにも気に食わない、それをどう表現しようか悩み…。
「私は、そうは、なりたくない…つまり、ええと、そうですね」
そして。
「————私の趣味です、文句ありますか」
己の意思をここに表明した。
◆◆◆
「……あは」
ムラマサは決壊するように、口角が上がり…声が漏れ。
「はははははははは!! 趣味か、そうか、そうか、そうかあああ!!」
大喝破とともに手を額に当て、腰を曲げ、天をあまりにも馬鹿らしいと見上げて笑い続けた。
笑い、嗤い、爆笑い、嘲笑い————殺意のこもる眼光を向けた。
「ただよぉ、それは救う側の考えだ。
救われる側には、そんなのどうでもいいんだよ」
足元のアスファルトに、ミシリと亀裂が走る。
「だって救われたいんだから」
亀裂から、煙が浮き…
「そうですか、そちら側の視点……とても貴重ですね」
それがやがて、微かな火を放ち……。
「お前もこっち側だろうが。笑えること言うなぁ! あはははは」
「…そう、ですね」
火はアスファルトを焦がし、黒い煙は夜へと溶ける。
「嗚呼、また、無意識のうちに…自分が助ける側、と認識、していた、ようです…ふふ、ふ。岡目八六、でした」
そして、アスファルトが、微かな溶岩となって……周囲を焼き焦がし始め
「____常に外側から、しか見れない、人の意見は、とても助かり、ますね」
「あははははははは!! そうだろうそうだろう!!
常に悪意向けられて惨めな想いしてた〝ある意味〟の中心人物だもんなぁ! お前。
是非とも参考にしてくれ! 独りぼっちの中心人物様」
刹那に。
「ふふふ」
「あはは」
「「____」」
互いの合図なるように、パチンッ、と弾け。
「来い、天堕剣」
「邪竜の加護よ」
両者がここに、戦闘を始めた。
読んでくださりありがとうございます…!
というか聖女派がアラカ攻撃始めた理由もまだ語れてないのですけれど、どうしよ




