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五十三話、精神保護の秘訣

◆◆


 深夜、誰もいない……夜空と、瓦礫の反射だけが灯りとなる場所で…二人は邂逅していた。


「————お待ちしていましたよ、レヴィアさん」

「…………」



 夜の空港。遠くに赤いランプがポツポツと信号を発信している。


 そこは数日前、レヴィアが戦闘を起こした場所であり…未だ立ち入り禁止の札は降りず……誰もいない世界を顕現されていた。





 遠くで微かに聞こえる車の走る音、こことは違う何処か遠い世界に思えるほど……それは小さな囁きだった。






 風が吹く。




 夜の空港は、ただ虚しくなるほどに風ばかりが吹き荒れる。


 数日前、大規模な戦闘があった。たくさん、たくさんの人が死んだ。




 故に、未だ空港は開かれず……ただそこは、二人だけの夜空だった。




魔力の放流(招待状)を受け取って、くれて、ありがとう、ございます」




 事前にアラカは、この場所で魔力を撒き散らしていた。


 もし怪異がいれば、彼女の位置が即座に分かるであろう魔力量……それは明確な〝招待状〟として機能した。




「へえ、この前とは打って変わって元気そうね」

「ええ、おかげさまで」




 にこり、と微笑む



「あのホモドラゴンがいなくて心の方は大丈夫なのかしら? 依存対象でしょう?」

「綴さんの精◯を溜め込んでおりますので平気です」






 風が吹いた。







 ……ただなんか、微妙に生あたたかかった。



「え? ん? え?」


「あ、絆創膏貼られたので戦闘中に何か起きるとかはありません」


「ごめん待って、全く想定してない方向性の解決策でゴリ押ししてきて脳が処理できてない」


「綴さんはいませんが綴さんの綴さんはいるという発想の転換を…」


「おし黙れ、今は喋るな」






「ご、ごほんっ」




 わざとらしく咳払いをしてレヴィアは意地悪な笑みを浮かべる。



「へえ、そう? 中々斬新な解決策ね」

「はい、ザー◯ンブーストは天啓でした」

「やめろ技名付けるな」




 風が吹く。





 心なしか両者の間に微妙な空気が流れた。




「他の追随を一切許さない性癖やめろ」

「追撃されたし、遠回しに誰もついて、いけない性癖って言われた……」



 綴さんの性癖は異常かもしれないけれど、私は正常な性癖のはずだった。

 残念だった、まさかレヴィアさんがこう言ったプレイを異常だと思っている排他主義者だったなんて。




「それで、招待状を送ったからには、何か素敵なパーティがあるのよね?」




「パーティ、そうですね…パーティ、ですか」




 アラカはそっと瞳を閉じて……微かに魔力の揺らぎを放つ。




 空は美しい星を写す————風は微かに吹いている。




「…………では、こういうのは、どうでしょうか?」





 空は美しい星を写す————風は頬を微かに撫でる。



「……雪」




 空は美しい星を写す————微かな白銀が宙を舞う。




「ええ。パーティ……それがどの、ようなものかは、あまり分かりませんが遠巻きに見たことは、何度かあります」



 白銀が頬に触れる————白銀は音を立てて、頬を焼き殺そうとする。



「あの時も、このような雪でした」



 雪は肌に触れ、触れた箇所から焦がし尽くす。


 小さな火傷…だというのに総体に走る痛みはその比ではなかった。




 ————激痛まみれの雪景色。それがパーティの、最後の記憶であった。



「あなたには、パーティの記憶はありますか?」



 そう問いかけられ、レヴィアは微かに空に浮かぶ星を眺めて…。



「……そうね。私は、暖かい場所から、それを眺めてたわ。

 本当に、小さな、小さな背中を…ずっと、覚えてる。

 暖かい場所と、小さな背中……それが、私のパーティの記憶ね」



 小さな、本当に星から見れば小さな存在。それが自分なのだとレヴィアは気付き……微かに口角を上げた。




「お前はその時、どんな気持ちだったのかしら?」



 レヴィアの問いに、アラカは微かに笑んで……雪に触れる。



「そうですね。

 指が悴んで…誰かに見て欲しくて…」



 雪に触れ————指先が溶け始め、



「惨めな気持ちで肩を震わせて、歯をカチカチ鳴らして……」



 雪が触れ————骨の側を撫でるように通り過ぎ



「期待するのが疲れると気付いて、やめて…でも、肩だけは、止まってくれなくて……微かに震えてたのを……今でも覚えています。そんな感じです」





 雪が……降り堕ちる————真紅に染まり、ドロドロの肉片と混ざり合った雪が。





「レヴィア、さん」

「何かしら」







「————滅私奉公したの、だれ?」

「————————————————」



 ————雪が————積もるのを止めた。



 その問い、その声はかつてアラカが投げたものであり……だがアラカの瞳は、かつて以上に確信に近い色を秘めていた。




「みじめなの、だれ?」




 こて、と首を傾げるアラカ。

 それを見て、レヴィアは呆れたように、乾いた笑みを溢す。




「君は本当に恵まれてるね」

「…………………」



「————一生、お兄ちゃんの気持ち、分からずに生きてるの楽しいでしょ?」

「————————」






「太陽に祝福されてよかったね」

「——うるさい」







「家族から愛されてよかったね」

「黙れ」







「お兄ちゃんみたいな気持ち————一生味わえなくてよかったね!」

「黙れエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエッッ!!!!」



 怒りの暴発。何処まで見抜かれていたのか、そんな思考さえレヴィアの脳裏にはもはや欠片も存在しない。


 怒り任せに雷雨に豪雨、破壊に神威を撒き散らし続ける。



「黙れ、黙れ黙れ黙れ黙れッッ!!」



 1秒ごとに破壊されている世界。それはアラカが彼女の芯の部分に触れたからに他ならず。




「……観測者…ね。

 その属性は、思った以上に危険そうね」



 心底、本当に心の底から滲み出るような憤怒を激らせながら睨み付ける。


 そして、レヴィアは指を軽く弾く。



 ————嗜虐的な笑みを浮かべて。



「……もういい」



 その瞬間。魔法陣が瞬時に展開され、それはそれは愛らしい怪異が召喚され……カーテシーをし、こちらへ……ニタリと嗜虐心に満ちた瞳を浮かべた。




「————殺してやるよ、観測者」




 〜1分後〜




「別に珍しくない、日本ではありふれた不幸話よ。

 養子を取った家族が、後に産まれた実子を愛して……養子を蔑ろにした、始まりはそんなものね」




 瓦礫の上で血を吐きながら寝そべり……レヴィアはそんなことを呟き出した。

読んでくださりありがとうございます…!


こんな僕の作品に、まだブクマをつけたままにしてくださり…本当に心が支えられました。

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