四十九話、天ぷら粉
今、さ、天ぷら粉が、床にぶち撒けられてるんだよね。
袋を、さ…しまい忘れて、さ。それで、踏んだんだよね。
そうじ、だる…
◆◆◆
その頃のアラカ。
「ひゃふ……♡」
カリカリ、と耳の中で気持ちいい音と、かすかな刺激が囁いてくる。
綴さんの膝枕は男性のもので、筋肉質だけど、硬めのあったか枕みたいで、すごくきもちいい。
「耳かき……しゅき……♡
あとで、綴さんも、します、ね……ひゃぅ……♡」
獣耳を優しく、カリカリされて、耳裏もコリコリ触られる。気持ちいい、気持ちいい……くしゅぐったい…♡
その刺激が、私の意識を蕩けさせて……すぐに、意識が、とよとよに、なって……。
それに、ここ最近……綴さん不足で、不眠気味だった、から、疲れ、が…………おもて、に……。
————耳かきに心を奪われていた。
◆
車の事故、言ってしまえば私に降り掛かった悲劇はそれだけである。
あの日、家族3人で旅行に行く途中に車は事故を起こしたのだ。
そう、車の事故…ただそれだけ。
目が覚めた時、私を迎えたのは身体中の痛みと、炙られたような痛みだけlだった。
「え…? お、とう、さ…?」
目を開けて、私は両親の満身創痍の姿が見えた。
父は倒れ、車のフレームによって顔が潰れていた。
父が死んだことで。私は呆然として車どうやって運転するんだっけ、なんてことを考えていた。
「保護者に分類、される人……怪我かあ……ひどいね、これは死んじゃう」
そんな声が、耳に届いた。ただ私には届かなかった、と、言って仕舞えばそれだけ。
死の直前の父を見て、何も言えずに、ただ、困惑していた。
「うーん……能力でプリオンとか、毒物は問答無用で、浄化されますので、これも食べれます。だから、その」
困惑している方の声も届かず、ただぼーっとしていた。
「お別れ、出来て、落ち着けた、ら…少しでも、食べた方が、いいよ……? 安全な場所に送るとかもお姉さん出来るから」
「ひ!! か、怪異!! アリヤ!! こっち!!」
その時、まだ生きていた母親がそんなことを叫んでいた。
「あー、まあ、まだ保護者いるよねえ……
とりあえずここに道具置いておくね、少し待っててくれたら食糧も持ってくるよ」
怪異はロリヤの近くに解体道具と、調理器具を置いて、姿を消した。
そうだ、そうだ、そうだ、そうだ。そうだったのだ。
母はお姉さんに恐怖して、解体道具から、何か武器を手にすると、そのまま私の手を引いて森を出ようとしていた。
二日目、森からは出れなかった。空腹だったけど、不思議と生きる活力はあった。
三日目、母は暴力を振った、後で涙ながらに謝られた。
四日目、母はヒステリックに泣き出した、お家でもよくあったこと。
五日目、母は楽しげに笑っていた、私も笑うと、母は怒った。
六日目から、母は暴力を振るった。
五日目、母は〝あー〟と、時よりヒステリックになるようになった。
六日目になり、空腹も限界になった時だ。私たちは偶然、自分たちの事故を起こした場所に戻っていた。
空腹、ストレス、そして数日の苦労が全て無駄だと気付いた。
ついに母は一線を超えた。
————母は〝死ねない父〟を食った。
生きたまま、ノコギリでギコギコして、火もつけないまま、食べた。
そして、その日から母だった獣は恐らく、私を〝食糧〟として認識していた。
「わああああ!! 何してるのーーー!?」
その時、私を助けたのは怪異だった。
私を抱き上げて思い切り逃げた怪異。
ずっと、ずっと時より……この場所の様子を見に来ていたらしい。食料は手を付けられてなかったので普通に自分で食ったらしい。
ああ、そうだ、そうだ、そうだ、そうだ。
————私を襲ったのは、怪異じゃない。
なんでそれを忘れてた————
————私を襲ったのは、怪異じゃない。
なんでそれを忘れてた————
————私を襲ったのは
————なぜ————
————怪異じゃない。
「————ま、ま…?」
ナタを手に、けひゃけひゃと、笑うのは母だった。
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