四十八話、鬼と対峙、鬼退治
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「(この空間を探索して早二時間……ここ何、本当に)」
聖女派閥首領 レヴィアは縁の世界を探索してそれなりの時間を過ごしていた。
今は人工物めいた鉄の床を歩いて、探索を続けている。
「元はと言えばあのドラゴン……過保護すぎるでしょう。
まあ気持ちは分からなくもないけれど……」
脳裏に黒いドラゴンを思い浮かべて、はぁ、とため息を吐く。
「(精神干渉無効、魔力干渉妨害、解析妨害に妨害解除妨害、術式解除妨害と合計で300近くの防壁術式が仕込まれてて……加えてダミー回路が三億近くあってどれか一つでもダミーを引けばこっちがダメージ食らうって……しかも解析班総出で調べた結果が〝構造上どう足掻いても突破できない〟って……あれどうやって組んだのよ)」
それは全て菊池アラカに施されていた術式だ、あまりの多さに眩暈がする。
「過保護通り越して普通に気持ち悪いわ……しかも術式埋め込んでるのが〝首輪〟って、首輪って……。
イケメンで金持ちで性格良いのに性壁が歪み切ってるせいで驚くほどモテない男の名は伊達じゃないわね……」
あのドラゴンの執着を受けて尚、愛情で返す菊池アラカ……なるほど、確かにそれは天使だ。
あの可愛い生き物に執着を〝全力しゅきしゅきオーラ〟で返されたら私も無事ではすまない。
「(私たち怪異は、人からは忌諱されるべきな欲望を抱えている……誰しもが。
それを勘違いせず、適切に理解して? その上で優しく肯定して、受け入れてくれる?)」
子宮の中で眠る同胞が、とても心地よさそうに愛されている……そんな思念が伝わってくるのだ。
「(そりゃあ、執着するわ…。
形だけじゃない、叱責も行う……適切に育てもする)」
そんな人間を敵に回す……というだけで気が重くなる。
「(はあ……にしても)」
周囲を見渡す。壁に大量の鉄釘で固定された〝生きている人間〟を見て気が滅入る。
「————この研究施設は一体何…?」
森の中で見つけた隠された地下世界。そこは今なお稼働しており、意味不明なことに〝魔力が充満されていた〟
「どこの怪異のラボよ……こんな大規模なところ、可能性としては理性派閥かしら」
「————————別に怪異のラボではないがね?」
「————————————————」
今、誰の————
◆◆◆
スマブラを初めて6時間、時刻は八時過ぎとなっていた。
司書さん……いやもう億劫だしメスガキでいいや。
メスガキ、サバイバー、私、ロリヤの4名はこの6時間の過酷な戦いで疲れ切っていた。
「しゃああああああ!! 雑魚ダウンwww雑魚ダウンですのwwww」
「テメエ、ネスやめろおおおおおお!! 動きがキメえんだよ」
「おいおい、キレちまったよ…」
「……じゅーすおいしい、和食おいしい」
スマ○ラをしながら腕があったまってきた。
しかしそれも仕方のないことだったのだ。
思えばあれは、ス○ブラを初めて最初の方から始まっていた……。
第43戦目
「あ、魔力溜まったですの」
「————おい、座れよメスガキ」
「へえ、逃げるんだ? ふぅん?」
「……ゲーム見るの、好き」
第57戦目
「おい雑魚、まぐれで何気持ちよくよがってるですの?
マス描くしか脳がねえなら今すぐコントローラー離しなですの」
「おいおいおいおい、負けたクソ犬が惨めにお漏らししてんぞwwww小便かけんのやめてもらっていいすか?www お姉さん洗濯するのだるいんでwwww」
「口悪いなあコイツら……」
「……ちあん」
第75戦目
「雑魚雑魚雑魚雑魚殺す殺す殺す殺す」
「アリヤ……テメエはお姉さんを怒らせた」
「なんかうるさいんで黙ってもらっていいすか?www 口動かすしか脳がねえんか?ww おお?ww
ロリま○こさんに年増ま○こさんは下の口も臭えんだろうなあwww 上の口も臭えしヨォwwww」
「勝った人が口悪くなんのなんで……?」
暴言努力勝利、その言葉を胸にスマ○ラへ没頭していた私たち。
煽り煽られ、それを繰り返していき私たちは友情と殺意を築き上げていった。
何度目かの戦いに差し掛かろうとしていた時。
「キシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!」
そんな化け物じみた咆哮が、私たちの戦争に終止符を打った。
ロリヤは縮こまり、サバイバーはロリヤをログハウスの奥に隠し、私と司書は窓から何者が来たのかを確認した。
「エ○ァ初号機!?」
「いやヴォルフガ○グ・シュ○イバーですの!!」
夜が近く、顔は見えなかったものの、それは人型を取った何かだった。
即座にナイフを持つ私と本を抱える司書————ズザァァアアアアア!! と地面にすっ転んだ。
「ぐっ! ずっと正座でゲームしていたせいで足が……罠ですの…!?」
「わあ最悪なタイミング!!」
足の痺れ。まさかの展開だった、コントしてんじゃねえんだぞ。
「〝夢見る乙女〟
〝ウサギと時計と落とし穴〟」
敵が来てる、キシャアとか叫んでる!!
まずいまずいまずい。立て私の身体!!
「〝世界は嗤う、少女は嗤う〟
〝鏡の国へおいでませ〟」
その言葉で敵を囲うように四方に本棚が召喚される。
本の全てのタイトルが逆さ文字となっている、そしてその光景を私は知っていた。
「〝ルイスキャロル————鏡の国のアリスッッ!!〟」
本棚が破壊される、ナタが見える————だが、こちらの方が早い。
幼い少女と時計ウサギの影が現れ、少女はドレスの裾を摘み、ウサギは時計を開けて大急ぎ。
「ろりっこぉぉぉぉぉぉぉ!!!! 奴を指定の小屋に転移させるですのおおおおおお!!
おえええええええ!!! 魔力切れ!! オロロロロロロロロ!!」
びちゃびちゃびちゃびちゃ!!
「一人ダウン!! ねえ一人ダウンしたよ!?」
「問題ないですわ!! こんな魔力切オロロロロロロロロロ!」
「ナイスよクソ雑魚ロリ! これでお姉さんの必殺の布陣が整った!!」
防音室に転移をさせられた鬼、それを確認したサバイバーが即座にスイッチを入れた。
『『『『『『『『『『『『オッパッピーオッパッピーオッパッピーオッパッピー』』』』』』』』』』』』
「しゃああああああ!! それはお姉さんが十年掛けて溜めに溜めた小島よ◯おオッパッピー全集ッッ!!
おえろろろろろろろろろろろろ、生前フラッシュバックおえええええええええええええッッ!!」
びちゃびちゃびちゃびちゃ!!
「この全自動自爆マシンどもがッッ!!」
「はあ、はあ、けど、これであとは……(アイツが釣られてオッパッピーと唱えたら)いけるわ!」
「おぼぼぼぼ、おろ……はあ、はあ、きめろ、エゴイスト…ですの」
ゲロをぶち撒ける二人をよそ目に、私はナイフを取り出した。
このログハウスのすぐ近くに防音室が存在していた。そこに転移の陣を貼り、討伐する……それが作戦だった。
「ああもうっ! 絶対下がれないじゃないですかこれ!!」
「お前に全てを任せたですの…」
「お姉さんたちはもう、ダメみたい…」
「そうなった原因10割自爆ですけどね!?」
ゲロをぶち撒ける二人を他所に、私は未だオッパッピー鳴り響く防音室の扉に手を掛け————
「————————え?」
中にいる〝鬼〟を見て、私は絶句した。