四十四話、桜は好き、嘘、やっぱ嫌い
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アラカが精◯で噴水みたいにされた挙句、蓋をされて気絶させられて抱き枕にされている頃。アリヤは森の中にいた。
「はぁーー、はぁーーー、怪異でよかったぁぁぁ……支援型の怪異でも怪力くれた御母様マジ邪神ーー、はぁーー、はぁーー」
膝に手をついて荒く息をし、必死に心音を整えている女性。
その話から女性が怪異であることは明確だった。
「怪異……?」
ポツリ、と呟く。それに対してハッとした表情でこちらに向き直り、何処か罰が悪そうな顔を浮かべる。
「あ、えっと、ごめんなさい。お姉さんは怪異なのだけれど、大丈夫かな」
怪異。
「怪異の義妹がいますので、私は別に偏見はないですよ」
とは言っているものの、それでも警戒心は拭い切れなかった。
————記憶にない存在。
それだけで警戒するには十分過ぎる。
「よ、よかったぁー(………………私支援型で怪力も常識の範疇だし、敵意と武器あったらマジでやばかったのよね……)」
そこに来て、ようやく一息ついたのか、抱き上げる形で連れてきていた幼女……幼女アリヤ、通称ロリヤに意識が向く。
一方その頃、アラカは犬耳を優しく撫でられて意識をトロトロさせていた。
「ぅ、ぅ…………」
「わ、わわっ、えと、大丈夫、大丈夫、だ、大丈夫だよ、大丈夫、お姉さんにお任せ、だよー」
泣きそうになるロリヤを慌てながらあやす姿は、本当に根っからのお姉さん気質だった。
「サバイバー、遊びに来まして、よー!」
その時、バーン! という効果音が出そうな碧眼の女性がその場に現れた。
「あ! 丁度よかった、来てくれてすぐに悪いのだけれど力を貸してくれないかしら?」
「? よく分かりませんが、別によくって、よ!」
碧眼の瞳をして、大きな本を腕に抱えているロリッ子……。
過去の私……ロリヤと並べても、ギリギリ大きいかなぐらいに小さい。
「そうそうサバイバー! 司書は、この前御母様に膝枕してもらいまして、よ!」
「ええ! いいなー、お姉さんも御母様に甘えたい……じゃなくて!!」
「へあ? ————あ! そうでしたわ、ね! なんか力貸すのでした、わ!」
………事情説明中…………。
「なるほどです、の。なんかやべー奴が森にいるから、防衛線を張りたいんですの、ね!」
事情を了解すると、碧眼の怪異は肩から下げていた大きな本を広げ始めた。
「ええ……と、じゃあ、ね」
本を広げて、碧眼の怪異は。
「————」
そっと目を閉じた。
空間が微かな振動を始める。
周囲の草木が風を起こし、彼女の頬を木の葉が掠める。
「〝愛犬は鳴いて、老害は泣いた〟」
怪異は詠う、それは清廉な湖のような神秘性を秘めているようで
「〝愛犬は灰となりて日々を彩り花咲かす〟」
どこか、名状し難い吐き気を混ぜ込んだような声で、
————彼女は告げた。
「-花咲か爺さん-」
本は蒼い光を放ち、それがある種の魔法陣を描いて
————小人のような影法師を召喚した。
【♪ ♪ 〜♪】
「あ、ども……」
私の腰までほどの背丈しかない影法師がタップダンスを踏んでから優雅に頭を下げた。
思わず私も返事をしてしまう。それを見て碧眼の怪異は恥ずかしそうに頭を下げる。
「ご、ごめんね。司書が召喚する子、なんか全員こうなってしまいます、の」
その何処かおかしげな様子に、先程から声を発していなかったロリヤも興味を惹かれたのか……横目に影法師を眺めた。
【♪ ♪】
影法師はタップダンスを踏み、近くの木へとまるでミュージカルのような軽やかさで登る。
そして、淡い光を放つ粉を、木々へと振りかけた。
「…………桜……?」
その際に起きた変化、それをロリヤは見たままに告げる。
時期は恐らく晩夏のはずだろう、少なくとも先ほどまでは桜など存在しなかった。だというのに。
————桜が開花していた。
「あれ………あったかい」
ロリヤは次に訪れる変化も感じ取っていた。そしてそれを趣向しながら碧眼の怪異は告げる。
「ええ、春の概念を空間に付与していまして、よ。
暖かく、優しく包んでくれるベール、この童話にはそういった能力を求めていまして、よ。
この空間では精神面での回復に加え、悪しき(司書基準)を弱らせるデバフが掛かりますの」
そして同時に、私はこの怪異の正体を知っていた。
実際に会ったわけじゃない、それはお嬢様からの〝報告書〟で存在を知った怪異で、ああ…。
「改めて保護された二人に自己紹介しまして、よ!」
物語の祝詞、物語に準じた能力、それは、その能力は。
「司書は怪異! 物語を現実に召喚する【幻想郷】の加護所有者にして————」
間違いなく、この怪異の名は。
「————〝司書〟と呼ばれております、の!」
————怪異〝司書〟
冒険活動教室で綴さんに喰い殺された存在がそこにいた。
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