四十二話、縁とアラカ
遅れてすみません。リアルが少し忙しいのが理由です。
追記:今年 大事な大事な行事があります。 そのため 超 遅れます
◆◆◆
「わ、失礼しました。女性の頬に勝手にハンカチを……」
「かわいいショタが無垢な…瞳を浮かべたまま、純粋な心でハンカチを目尻に……って、英雄さん、女心を貫く天然さんなのね」
慌てて頭を下げるお嬢様、それを別に大丈夫だと手を制しようとする。
「失礼します」
だがお嬢様♂は慌てた様子でどこかに去って行こうとし……。
「あ、ま、待っ」
手を伸ばし、手を掴んでしまった
「……?」
「(あ……)」
その瞳を見た瞬間、お嬢様♂の気持ちが、強烈に伝わった。
————————首が刎ねられる瞬間を幻視した。
「ぁ…」
私の知るお嬢様は本当に優しかった。
理性で殺意を出来る限り抑えていたのだと、今なら分かる。
瞳に宿る不信感、嫌悪感がそれを物語る。
「あ、ご、ごめんなさい……」
しかし即座に殺意が解かれ、頭を下げられる。
一瞬なのに、一年以上の時を過ごしていたような心地に、息を大きく吸う。
首に触れて、繋がっていることを確認する。
「…いえ、こちらこそ」
冷や汗の中でどうにか声を繋ぐ。
————敵ではないか——コイツが怪異なのではないか———何故自分の存在を知っているのか————涙の意味————アンノウン————敵————————殺害必要?————判断材料少ない————殺してはならない。
猜疑心と悪意に満ちた思念が、こちらに伝わってくる。これが、綴さんに会う前の、お嬢様♂。
優しさを得る因果を一切持たないお嬢様♂……強烈すぎて、言葉を失う。
「…………では、失礼します」
お嬢様♂が頭を下げて、背を向けて去っていく。
「あ……」
だめだ、追わないと、追わないと…その小さな背中を、怖がるのではなくて、追わないと、こんなまだ10歳の—追わないと、真実に近い存在——追わないと———この孤独——殺意——怖い、追わないと、それは、聖女の突破口——追わないと———
——追わないと。
「オラっ」
————背中に衝撃を受けて吹っ飛んだ。
「アリヤ、恐怖は飛んだ?」
「……お姉ちゃん」
「お洋服は後で洗濯したげるから行ってきなさい」
「…ありがとう」
叱責(物理)を受けてお嬢様♂を追う。
◆◆◆
森の中へと入る、お嬢様♂の足は想像を超えて早く、お嬢様がどれだけ優しく、扱い易くあってくれたのか…今更ながらに
お嬢様♂の背に、何か銃のようなものを向けて……撃ち込んだ。
お嬢様はすぐに倒れ、その瞬間に髪を掴まれて近くの木の根に顔面を当てられる。
顔にあざが出来たお嬢様の首……系動脈を締めて、見事な手際で気絶させる。明らかに訓練されている。
「回収、終了しました」
『被害は』
「はい、今回は爆発はありません」
『了解……毎度のことだが、それの扱いには気をつけろ』
「分かってますよ、以前は湖を蒸発させたのでしたっけ?」
身体に拘束具を嵌めて、次にお嬢様♂の手足が切断され、その切断面を止血用バーナーで焼いていた。
「四肢は残ってさえいれば後で治せるらしい、一緒に箱に入れろ」
「はー、本当に化け物ですね〜」
「魔力開発も進んで、もうこの子用済みなのに外に出す必要とかあるんですか?www」
「まだ魔力式の弾丸より優位性があるんだとよ。
まあそれもあと数年で終わりだよ、このガキ以上に成果を上げる銃もすぐ出来るさ」
お嬢様♂を鉄の箱に物みたいにしまって、それを車に乗せてその男らは姿を消した。
まるで獣のような扱い、それに私は困惑する。待ってほしい。あの扱いを何度も何度も繰り返してきたのだろうか。
世界守護を単独で成していた英雄を、こんな風に扱っていた…?
獣のような、いや手足を切り落として移動なんてものはそれ以上の……まるで肉を扱うようなその行動に、私は只々唖然とした。
「っ……いた…」
瞬間、肌が焼かれたような痛みが走る。
これは……
「(……あれ?)」
痛みで気が逸れた瞬間、周囲がらりと……まるdr瞬間移動したような、いいや否。
————時間ごと切り替わったような違和感が起きた。
「(お嬢様♂が消えた瞬間……変化が起きた……?)」
————アラカくん。君は結界を広げなさい。
「(な、に……頭に、響くような……音……これ、じゃ)」
————この世界全てを覆えるほど、巨大な結界だよ。実験はこちらで改竄しておくから。
「(この声、どこかで……ッ。金持ちでイケメンで常識的で紳士的な変態の声のような…?)」
————魔女のシチューと同じだよ。余りにも美味しいからこそ、抗うことができない。
————空腹はスパイスで、毒は旨味と成り代わる。
「(なんだろう、この声……紳士的なのに性壁が捻じ曲がり切って、果てはお嬢様を監禁しそうな声だな……)」
————それが毒と気付いた時、全てが終わっている。
「(どうしよう、高スペックなのに性壁が捻じ曲がり切っているせいで色んな人に嫌われてそうだな、この声の人)」
————魔力の開発……ね。あの子が楽にならないなら、この資料は必要ない……か。
そう吐き捨てて、大量の紙束を焼却炉に捨て……ハァ、と白い息を吐く研究者の男性の姿があった。
————さて、と。■■■シス■ム……ね。
ぴーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ぴーーーーーーーーーー ぴーーーーーーーーーー
ぴーーーーーーーーーーーーーーー
ぴーーーーーー ぴーーーーーーー ぴーーーーーーーーー
ぴーー ぴーーーーーーーーー
「————ッ」
その雑音が聞こえた瞬間、強烈な頭痛で膝を折る。
「ここ、は……も、り…?」
森に舞台が変わった。そして、今までの情報で、それが何なのかを私は即座に気付いた。
「え……どうして、急に……」
困惑。ただ頭に浮かぶ二文字に心が不安定になる。
「っ…!」
————で? だから?
私は自分の腕に即座にナイフを突き刺して、痛みで強引に精神を戻す。
「(待って、情報を整理しよう。
たぶんだけど、情報はもう揃ってる《・・・・・・・・・》)」
息を整えながら、近くの木の根に背を預けて精神を落ち着かせる。
「(考えよう。プリセットは……背理法でいいかな)」
背理法————もしもそうであったら?
と言う切り口で回す思考回路。本来は二つのケースを比べる上で使えるモノだが今回は応用。
「(考えよう。恐らくだけれど、この世界は聖女の力で具現されたもの。
目的は情報収集と仮定……情報の大半が空想で埋められてる、けれど術中ではないよりマシ。
補足、この思考は〝妄想に近い仮定〟と定義)」
思考回路はここ数年で菊池さんに鍛えられた、何度か知恵熱になったが、その甲斐はあった。
霞程度の思考回路だが、時間があれば何とか回せる。
「(考えよう。
情報は主な二つほど、
1、この世界が聖女の……〝縁〟の力であること。
2、聖女は〝お嬢様〟の情報を求めていると妄想)」
妄想なので思考としてはあまりに拙い。正直言えばもっと情報がほしいし、妄想はすればするほど思考が腐るゆえにしたくない————だが今はそんなプライドはゴミだ、燃えるゴミの日に出しておけばいい。
「(考えよう……なら、コレは何……。
……私が聖女の立場なら、欲しい情報だけを抜き取るはず。
なのに何故、こんな場所を生み出した…?)」
森を眺める、近くにいたよく分からん虫を潰して食ってみる、不味い。
「(————————能力には条件がある?)」
口の端から虫の足をぺっ、と吐き出して口を拭う。
髪を腕でかき上げて不快感を噛みちぎる。
「(お嬢様と、私の縁……それを起点に能力を発動してるのなら)」
————全て妄想、ゆえに思考はまるで晴れない。
不快感は増すばかりの結論に、微かに震える。
「ま、さか……」
私と、お嬢様の縁。それが条件なのだとしたら、それは必然的にお嬢様と会った日が強いのは言うまでもなく。
そして、お嬢様と、私が初めて会った日、ということは————
「————私の家族が、殺された日……?」
読んでくださりありがとうございます…!




