三十六話、闇の価値、文学の価値
「私を支えて〝当然〟。
私の成長を促して〝当然〟。
養うのも、不誠実とすら言えない失敗も、全てが全て〝自分がして当然〟って…」
胸板に頭を預ける、いい匂いしゅる。
「そんなに自分を虐めないでください…いじめるのは私だけにしてください」
乳首当てゲームして見つけたら引っ張ってもいいのだろうか…。引っ張りたい。
「優しく悪意を悪意のまま肯定する在り方。
家事も腰が壊れたらしてくれる。
キツイ時は抱っこしてよしよししてくれる」
メロメロになりました。はい。悪い箇所は見ないふりとかではないはず…客観視ができているのなら。
「あとこっちに何かを強いることは基本してこない。
間違えてる時は基本抱っこで優しく〝何故間違えてるのか〟を、紐解いて教えてくれる」
あの脳内鋼男の上司も認めてる辺り、この人は相当優秀だと思う、なのにこの人は、本当に…。
「かっこいい癖に、かっこ悪いフリしすぎですよ…」
スカートの横を捲り、下着の紐を…するりと引いた。
それが見えるように、これからすることから逃れられないように…。
「本来はこうあるべきなんです」
この言葉だ。この人は変わらなくていい……誰よりも臆病で、誰よりも誠実であろうとして、精神が軋んでいる。
そんな様子を、私が支えたい。
灰色バニーとかいうドスケベボディ
「私を支えてくれて、あり■■う、だよ。綴さん」
————あ———れ…?————————
————い、ま——声、が————うま、く————
ーーーーありがとう、ございます…はい、うん、うれ、しいです。
————うん、大好きだよ。幸せ、にね。
————あは、■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■。
「ッ!?」
頭に、痛みが、走る。
「ぁ、ぁ……」
ストックホルム、ストックホルム、そうだ、私は。以前、にも。
「ぁっ……ぁ、っ……」
やめろ触るな気持ち悪い、この気持ちは本物なの…? 自分を騙して作ったものでないとどうして言い切れる? 言い切れないじゃないかこんな気持ち悪い感覚、そうだ、どうして、気持ち悪い。
涎が、ぽたぽた、垂れる。いたい、やめて、くるしい。
「やっぱり、そうでしたか。そう、ですよね……あの環境で、自殺してないのなら…必ず自分を騙していると思っていました」
泣きかけた時に、そっと、優しく…抱き締められた。
ただ、ただ…本当に抵抗したら解けてしまいそうなほど優しい抱擁に、身体の力が抜ける。
「大丈夫です。そんな辛いこと、言わせてしまったごめんなさい」
綴さんの、シャツのボタンを外して乳首を吸う。おいしい…精神的においしい。
「…想いは伝わっています、だから無理にそんな言葉は言わないでください」
「(やさしい。雄っぱいおいしい…)」
この雄っぱいのためなら、人生を投げてもいい気がしてきた。どうせもう人生終わっててまともな人生送れないし、いいよね。
「…………あなたは、誠実です、よ」
抱き締められると、意識が希薄になる。
だから、せめて、気を失う前にこれだけは伝えたかった。
「誠実とは、真心を以て接すること」
思考に霞が掛かるように、微睡に溶ける。
「真なる心……私ならば、貴方に対していつも〝微かな恐怖〟を覚えていること。
そして貴方ならば私に対して〝逃げたかった〟と本音を告げること……
————ただ嘘をつかないこと、それを以て誠意とす」
だから、あなたは誠実なのだ。と小さく告げる。
怖い? 逃げた? それを告げてくれたということ、
「こんなこと言っても、貴方は貴方を許せないのかもしれない。
だけど、それでいい……今は、この言葉だけを、覚えて、ください…」
背中に、熱を感じながら……そっと、告げた。
「貴方が苦しいと、吐きたいと思った時、きっとその闇には意味があり、価値がある」
胸を、微かに抑える……だけどそれは、少し意識するだけで触れるという動作へ変わる…
「私はこの胸の痛みを覚えている、そしてそれはきっと、私が〝忘れたくない〟と思っているから……。
だから、この痛みが刻まれている間は、私はきっと……誰かに騙されることが、絶対にできない。
無意識に、過去のトラウマが蘇り……その未来を回避するから」
闇というものは不思議だ。ただ暗くて、人生に亀裂を走らせているように見えて、その亀裂は〝大きな亀裂を防いでいる〟と気づくことが出来る。
「あなたがその過去に苦しんでいるのは、あなたの心がまだ〝忘れたくない〟と泣いているから……。
そして、その苦しみがある限り……あなたは絶対に大丈夫。
あなたはその辛い過去に苦しんでいる限り……そのトラウマが再来することは絶対にないのですよ」
心が泣きたいと、苦しみたいと叫んでいるのならば……素直に苦しんでいるという現実に気付いてあげること。
その〝苦しみ〟に価値があるのだと気付くこと。
「これが普遍の真理でないと気付いていても、そこまで的外れなことでも無いのですよ。
だから大丈夫……あなたは大丈夫」
そして苦しんでいる間は絶対にそれ以上の苦しみが訪れないのだと信じること。
「文学は力で、苦しい時に背を抱き締めてくれる。
それと同じで、トラウマは苦しい未来から私を逃がしてくれる……それだけで私のトラウマは、その価値足りうる……」
エミリーの詩を、地母神のような柔らかな声で詠んでくれた さん。彼女の言葉をなぞりながら、それを伝える。
「貴方がもし、胸の痛みを覚えているのなら……きっとその傷には何かの価値があるのだと、気付いてください…」
「…………」
そこで私の記憶は途切れた、気絶したのだ。
◆◆◆
「傷には、価値がある……ですか。
過去の傷は、それ以上に大きな傷を防いでくれている……と」
眠るアラカくんを、抱き締めながら……その言葉を反芻する。
「……は、はは」
その言葉をなぞり、頭の中に浮かんでいた悪夢を……紐解いてみる。
その傷が齎すナニカを、見つけようとした……すると、とても簡単に、それが見つかった。
そして乾いた声が、微かに漏れる。
「二度と、溺れてやるものか……この胸の傷は、ずっと……あの悪夢の再来を、拒み続けてくれるのですね」
微かに漏れる、悪夢が齎す光の正体。
「……やっぱり君は、天使ですよ……アラカくん」
この子は、自分の闇で人に迷惑をかけることを心苦しく思ってくれている。
それは確かにそうなのだが、私はそれをとても嬉しいと、思っていた。
「(申し訳なさを覚えながら、それでもどうしようもないから私に寄りかかる……罪悪感を、胸に覚えながら。
それが私のような。独占欲しかない男には……ただただ、嬉しくてたまらない……)」
歯車と、歯車が、とても綺麗に嵌ったように……彼女は私に溺れていく。
「……疲れを自覚して、倒れてしまった……ようですね」
その小さく……とても柔らかで、愛おしい甘さを秘めた少女を抱きしめながら……私は、眠った。
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