二十六話、聖女の悪意
「……擬似人格共有/タイプ17 解除。
認識調整/持続————異能【聖女】 発動」
レヴィアはそんな声を漏らして……顔に手を添えて何処からか、能面を取り出した。
「…………兄さん、いけました〜?」
能面を膝に置き、背後の柱に隠していた男へ声をかける。
影からは男————ムラマサが現れた。
「配信な。しっかり出来たぞ」
画面をくるりと回して、既に止まっているその配信とコメント状況を聖女に見せる。
『アラカちゃん傷が増えてる……』
『頼むから休んでほしい』
『手を拾うな、ボッキするだろうが』
「ああ、本当に————みんな他人ごとなのねえ」
殺意に染まった瞳。
「まあ良いです〜。
初めはそんなものでしょう〜」
ニコリと微笑んで、その奥にある闇を滲み出しながらも平静を保つ。
「はぁ……にしても」
膝に乗せてる能面の頬を撫でる。
————実際に生きていた頃を、思い出すように。
「(何度使っても慣れませんね〜。人骨の能面は)」
能力の発動条件。それに辟易しながらため息を吐く。
「……自分以外の人格…………か」
彼女の異能……【聖女】。
その身を焼き焦がす殺意の炎。
狂信的な属性を宿す。
そして————自分以外の人格。
「ほんと……皮肉が効きすぎてるわよ…ね」
それらの能力、その大元とされる【聖女】。
————それが誰なのかは、最早言うまでもない。
「聖女ジャンヌダルクは神の声、とやらを聞いた……」
顔を上げて、空を見上げる。
鬱陶しい太陽が、視界の端に映り……その繭を顰める。
「その後、彼女は
……己の言葉は神の言葉である。
神を信じれば全て上手くいく……というような趣旨の発言を、何度もした」
声が、少しだけ濁る。
うちに秘められた闇、それが腐敗してじゅくじゅくと……侵食を繰り返しているのが分かる。
「アラカさん。あなたは神様は……本当にいると思うのかな」
風が………………花弁を宙へ流した。
「それとも…………」
色とりどりの花弁は……ひらひら、ひらひらと舞い。
「………………聖女は……」
ただ全ての花が、無意味に、地面へと堕ちた。
「聖女は……ただの狂った女、なのかしら」
空には、綺麗な太陽が映る。
「……こっちを見るなよ……」
世界全てを照らす太陽に、しとしとと、声を漏らすように……。
「惨めになるだろうが……」
誰もいない庭園で……その声は小さく……風に攫われた。
壊れたカップに注がれた真紅の涙を残して……
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