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英雄達のレクイエム Ⅰ  作者: 城華兄 京矢
第一部 白と黒の魔導師編
1/10

第1話 ドライ=サヴァラスティアとローズ=ヴェルベット §1

オーソドックスな異世界ファンタジーモノです

魔導歴九九九年、歴史はそこから動き出す。

世界の文明は、中世に酷似し、数万人からなる街規模の都市国家が点在し、街道がそれらを繋ぎ、馬車が流通の主軸を担っていた時代のこと。

平和と混沌が拮抗した時代でもあった。

都市国家は、外部の混沌から身を守るため、その外周に強力な外壁や、バリケードを築き、自警隊を組み、絶えず警戒をしていた。

外部の混沌とは、盗賊達などの無法者の事である。

そんな時代なものだから、自治だけでは手が足らず、世界中の領主や富豪は、盗賊共に賞金をかけ、それを犯罪の抑止力とした。そして、そんな賞金を目当てに、生計を立てている者達も決して少なくはなかった。

人は、彼らを賞金稼ぎと呼ぶようになった。


軈て賞金稼ぎ達は、盗賊退治以外だけに止まらず、その腕を買われ,古美術品や、遺跡探索をこなす者も現れるようになる。



時代背景はそんなところだ。



それは、とある街周辺の出来事だった。

不気味なほどに真っ暗な夜道を一つの馬車が猛スピードで駆け抜けていた。馬は馭者に鞭打たれ、今にも口から泡を吹いて倒れてしまいそうな程に、死に物狂いな様子だ。

馭者は馬が潰れるのも構わず、鞭を打ち続け、盗賊共を振り切るのに必死だ。

夜間を走る駅馬車の殆どは、運行予定が狂ってしまった馬車であり、途中何らかのトラブルに見舞われた後のものが多かった。

運行予定の遅れた馬車は、盗賊にとって、正に格好の獲物なのである。

「ぐあ!」

馬車を必死に走らせていた馭者の胸に、ボウガンの弓が刺さる。

どうやら、この馬車は既に、盗賊共に目を付けられたいたようである。

馭者はそのまま、気を失って席から転落してしまう。

馭者の居なくなった馬車はもう、馬に運命を任せるしかない。


車内の乗客は、貴族服のような上品な着衣の者達で、ただ怯え、明かりの消えた場所の中で互いを庇い合っていた。


幾人かが馬車の屋根に飛び乗り、綱を切り、馬と馬車を切り離し、車内にある物資を奪う準備を屋根の上で整え始める。

ブレーキをかけられ、動力を失った馬車は、やがて停止し、いよいよ盗賊共の餌食となろう瞬間だった。

馬車から乗客達は我先に逃げ出しては、次々盗賊の牙に掛かって行く。これこそ盗賊共の遊興である。必死の形相で逃げ回る者達を追い詰め、斬り殺し、恐怖に狂った断末魔を楽しむのだ。

幸か不幸か、腰を抜かした一人の女性だけが、馬車の中に取り残された状態となる。盗賊達が脊髄反射的に、外に逃げた獲物を追いかけ回した僅かな時間だけ、生き延びることが出来たのだ。

しかしその幸運は、そう長くは続かない。盗賊達は決して一人たりとも獲物を逃すことなどないのだ。だが、その差こそが、生死を分かつ差ともなる。幸運の女神は何時何処で、誰かを拾い見捨てるか解らない。

彼女が正に殺されようとした、その瞬間、盗賊は一瞬にして首を跳ねられ、己が死に直面したことにすら気がつかないまま絶命する。


「レッドアイだ!ドライがでたぞ!!」

誰かが叫ぶ。恐らく盗賊達の声だ。其れと同時に周囲が一気に騒がしくなる。馬車の周囲から、歪んだ快楽に満ちた気配が遠ざかり、当たりは急に静けさを取り戻すのだった。


山間で一つの事件が起ころうとしていた時だった。

街のとある木造建築のウェスタンスタイルの酒場に、場面は移る。

傷だらけの古めかしい木製の丸テーブルで、黒い戦闘用ジャケットに、いぶし銀に光る鋼鉄製の防具を纏った剣士姿の女が、スコッチを飲んでいた。

背中には軽量でスマートなロングソードが背負われており、それは真っ赤に染まる鞘や束に細かい装飾がされた見事な逸品だった。恐らく名のある名匠により生み出された剣であろう。

そしてそんな彼女もまた、盗賊を狩りを生業とした剣士であった。


酒に酔った男共が、そんな勇ましい彼女に絡む。

「ねぇちゃん、偉く威勢が良さそうだなぁ、ヒック……」

その視線は既に、彼女の値踏みを始めている好色なものだった。

彼女は真っ赤に燃えた髪を靡かせ、真っ青な瞳で、その男を睨み付け、気怠い口調でこう言い放つ。

「消えな、お呼びじゃない」

だが言葉とは対象に、男共をジロリと睨んだその視線は凍てつく青さを潜ませていた。あまりに殺気を帯びた視線に寒気を覚えた男共は、酔いが覚め、押し黙ってしまうのだった。

そして何もなかったように、彼女の側を離れて行く。

彼女は興が冷めた様子でグラスを一気に空けると、小銭を適当に取り出しカウンターに散蒔き、何も言わず酒場を後にするのだった。

あれくらいで、震え上がってしまう男など、一々相手にしていられない。彼女の背中がそう語ってるようだった。

彼女が酒場にいた理由は、何らかの情報が得られると思ったからだ。そう、酒場は単なる娯楽の場ではない。目を配れば陽気に紛れ陰気な話が飛び交い、耳を澄ませれば、様々な情報が転がっている。

彼女はあるものを探している。だが、その夜はそんな雰囲気すら感じる箏が出来なかった。彼女の知りたい情報は、少なからず陽気なものではなかたし、どちらかというと、広がれば周囲が騒めくものだった。


活気と陽気で、騒がしく明るい盛り場を抜け出し、街灯も薄暗く、静寂の眠りに包まれた通りに行き着き、そこを歩く。

コツコツとブーツの音だけが響く、なんとも静かすぎる通りだった。女一人で歩くには少々物騒な場所でもあったが、彼女はそんなことも全く気にせず、やがて都市を守る防壁と外を繋ぐゲートまでやって来る。

街で情報が得られないのなら、外の空気に直接触れ、その騒めきを見極めるのも、また一つの方法なのだ。

「おい、夜だぞ。何処へ行く?」

煌々と松明に照らされた頑丈な鋼鉄の門の前に立つ街の砦の衛兵達が、長い槍を交差させ、ゲートの前に立ち塞がり、彼女を止めようとした。

彼女もすぐに言い返す。

「この辺をのさばってる盗賊を殺りに行くの。アジトも大体わってるし、団体相手には夜襲に限るでしょ?」

適当なことを言い、クスリと笑い、腰に手をやり、度胸の据わった目で、衛兵達を見上げる。腰には小銭をため込んでいる袋が下げられている。彼女はそこから金貨を取り出し、衛兵達の手に強引に渡した。

「お願い。百ネイ(百ネイ=1万円くらい)あるわよ。それがあれば一晩、陽気にやれるんだから、ね?」

今度は頼み込むようにして、ウインクをして両手を合わせ、可愛い子ぶってみせる。

衛兵達は、少しキョロキョロしながら、こそこそと話し始める。それから少しして、周りに人気がないのを確認すると、ゲートを少し開け彼女を通す。その際一人の衛兵が、彼女に一つの情報を与える。

「此処だけの話だが、この辺りに、ドライが来てるらしい、先越されんなよ」

この言葉に彼女は一度足を止める。だがすぐに、何も言わず歩き出す。この時すでに彼女の表情は殺気立ち、戦士の目に変わっていた。冷たく凍てつく青い瞳が、皎々と闇の中に輝く。


彼女の名前は、ローズ=ヴェルヴェット、身長は百七十センチ手前くらいで、見事なまでに紅い髪を靡かせている。ヨーロッパ系アメリカ移民のスッキリとした顔立ちで、睫も目元切れ長で、睫も長く、彫りの深い美人だ。

この世界では、エウロパ系セルゲイ人という血統となる。


賞金稼ぎの仕事を始めたのは、一寸した悲劇からだった。

彼女には一人の姉がいた。姉の名前はマリーといい、その姉の夢は、考古学者として魔法発生の紀元を掴み、それを探求し、世界に名を馳せることであった。

しかし五年ほど前、ローズが十六の時に、マリーがその探求の途中、ある地方で死んでいたことを風の便りで知るのだった。

ローズは、姉を確認するためにマリーの遺体が発見された場所へと旅に出る。そして手厚く埋葬されたマリー墓の側に残されていたのは、一本の剣だけだった。それだけがマリーの残した唯一の所持品だった。

マリーの死に際を見ることの出来なかったことと、彼女が死んだのだという現実を目の当たりにしたローズは、悲しみに暮れるのだった。

その剣には、たった一つ名が彫り込まれており、その名が「ドライ=サヴァラスティア」という名前だった。

そしてそれだけを手がかりに、今日まで流れに流れて此処までやってきたのだ。

剣の状態から、可成りの銘刀、年期物だと言うことが解る。赤く細い刀身に赤い束、本当に剣全体が鮮やかな赤色だった。その剣は、今もローズの背中にある。マリーの最期を看取ってくれた人の話だと、この剣は彼女の腹部を貫いていたという。マリーの死因は失血死らしい。今マリーの死の故を知るのは、ドライ=サヴァラスティアと言う男だけなのだ。

彼が殺したに違いない。マリーを殺して何を奪ったのか……。マリーはよほどの財宝を手に入れたのか?それとも偶然か。少なくともマリーが辱めにあったような事実は無かったらしい。ただ、一撃で殺されたらしい、腹部を貫く傷が一つ。


自分からマリーを奪った彼を、なんとしても捜し出さなければならない。


その後、ドライ=サヴァラスティアは、伝説的なほど残忍で、狡猾な盗賊狩りを生業とした賞金稼ぎであることが解った。今日まで、その二つの手がかりが、彼女を強くし、ここまで生かせてきた。虎穴に入らずんば虎児を得ず。ということだ。


街を出たローズは暫く歩き、街道から外れ山道に入り、不気味に暗い森へと差し掛かる場所までやってくる。木々の葉が擦れる騒めきのの中に、人の気配の騒めきを感じる。きっと何かが起こると、彼女は確信する。

しかしそのようなことは、今更珍しいことではなかった。森に入れば夜盗も山賊もいる。可成りの規模を誇った盗賊団もいる。賞金稼ぎが其処へ身を投じるのは何ら不思議なことではなく、彼女は一人、そんな森を進み続けた。

暫くすると、騒めきが狂気の声へと変わる。野卑な声が興奮した叫び越えとなって、森中に響き渡り始めた。明らかに盗賊が誰かを追い回している。

「誰かぁ!助けて!」

その主が声を上げる。声からして女性である。その声の主は、ローズの方へと近づいてきた。女性は半裸で、顔も打たれているのか、口から血を流し、頬も腫れ上がっている。ローズが目に入ると、彼女は藁をもすがる鬼気迫る声で、ローズに助けを求め、彼女の足にすがる。

「お願いです!盗賊に追われてるんです!助けて!!お願いだから!!!」

震えながら必死で、裾を掴み、懸命に引っ張り、保護を求める。

ローズは口元をわずかにも開くことなく、女性を見つめた。その直後、今度は盗賊共が目の前に姿を現し、薄暗い夜の中、盗賊の持っている松明の明かりが、二人を照らし出した。


「へへ……、女が一人増えたぜ」

「ああ、活きの良さそうなネェチャンだ……」

ローズを眺める盗賊共の目は、盛りの付いた野獣より劣っていた。


彼等の次の行動は大体目に見えている。女を犯した後、用が無くなると、腹を切り裂いて殺してしまうのだ。だが賞金稼ぎである彼女にとって、この視線も、もはや見飽きる物となっていた。

「怪我をしないように、下がっておきなさい」

此処でローズが漸く口を開き、女性を庇い、盗賊との間に割って入った。そして背中から、スラリと剣を抜き構える。

その剣は、束に劣らず刀身も燃えるように紅く、松明に照らされ、なお赤く光を放つ。

ロングソードにも関わらず。彼女は軽々と左手一本でそれを軽く振り回し、一度両手で持ち腰を落として、いつでも動ける体勢に入る。ローズは左利きの剣士だ。

盗賊も彼女が身構える様子を見て、斧や剣、ショートボウなどを持ち出す。

「女如きが、俺達に敵うと思っているのか?俺達はなぁ、あのドライ=サヴァラスティアを……、赤い目の狼を殺ったんだぜ」

余裕ぶった態度で、ローズを上から見下ろして、角張った厳つい顔をニタニタとした笑いで溢れさせる。

だが、ローズの反応は変わらない。

「笑止、お前等はそういえば、皆が驚くと思っている。御託はそれだけ?……いくよ」

ローズが、至近距離をさらに詰め、盗賊共の懐に飛び込む。そう思うや否や、クルリと旋回すると同時に、あっと言う間に、横一文字に数人を切り殺してしまう。

ローズは、次に後方からクロスボウの矢が飛んでくるのを、弦が弾ける一瞬の音で察知し、上空に飛び上がり、木の枝の飛びつき、上に立つと同時にしゃがみ込む。そして盗賊共が彼女を捜している間に、剣を木の枝に突き刺し、左手を前に、右手を胸元で握りしめ、弓を引き絞る型を取る。

「ライトニング・ボウ!!」

声と同時に、握りしめた右手を解放する。すると、そこから黄金に輝く矢が現れ、あっと言う間に、クロスボウを持っていた盗賊の身体を貫く。それから再び剣を手に、枝の上から飛び降り、着地と同時に残り数人を連続的に斬り殺してしまう。

まるで大地を掛ける疾風の如く、素早い動きで、あっという間のことだった。


盗賊を殺し終え、周囲に騒めきを感じなくなると、転がっている盗賊の死体の側にまで寄る。

「ドライを殺したって?そんな腕で、世界一の男を殺せるもんか!」

すでに死んでいる相手に対して、怒り気味に捲し立てて言う。自分が殺すまで、ドライに死んで貰っては困るのだ。それがこんな三下にと考えると、其れだけで腹立たしい。


それから目星いと思われる盗賊共の首を賞金との引き替えの証明にするため、一つ二つ切り落とす。そして鞘に括り付けていた、鞣し革で出来た袋を取り出し、首をその中に放り込む。袋の口は閉じられたものの。血の臭いが直ぐに断たれることもない。それから女性の方に近づく。荒っぽい仕事をするローズだが、丁寧に、彼女の肩や背中に怪我がないかどうかを調べ始めた。

「大した怪我は無いようね、それにしてもそこまでされて、良く無事で済んだわね。他の連中は?」

「……みんな、死んだ……、死んでしまったわ……、でも、その時、一人の男の人が助けてくれて……、そう、盗賊が、ドライだっていってた」

「それじゃぁ……、……ゴメンだけど、一人で街まで行けるわね?此処を真っ直ぐ下ればすぐだから……」

街はもう直ぐ其処だ。盗賊達も単独ではその警備範囲にまで近づくことはない。それでも決して安全とは言えなかったが、ローズにとってそれは、千載一遇のチャンスなのだ。

ローズは、女性を残したまま森の中を駆け行く。

その方向は、先ほどの盗賊達が向かって来たと思われた方角だった。暫く行くと、途中壊れて扉の開いた馬車があり、その周囲には、数体の死体が転がっているのだった。彼女の証言と一致する。

ローズはその位置から、足音を潜めて歩き出す。もしかしたら、まだドライ=サヴァラスティアが、近くにいるかも知れないという期待の元での行動であったが、逆に襲われるかもしれないという警戒感もあった。一瞬気を緩めたのは少し迂闊だったと思い、緊張感がより高まる。

彼女は夜襲を得意としているため、暗がりには慣れていた。松明などが無くとも、周りを見ることが出来る。

しかし、やはり周囲が暗い。後方、左右を警戒して歩いていると、足下がおろそかになって、何か固くて太い、丸太のようなものを踏んでしまった。ドキっとして気になり、足下を覗いてみる。

「なに?これ、足……?誰のかしら……」

軽く足で転がしてみる。脚の形状をしているが、明らかに堅い。

「いや、義足だわ」

気にはなったものの、辺りの警戒を解いている暇なく、更に周囲の探索を進める。夜目が利く彼女とはいえ、盗賊団とドライを同時に対処することは難しい。まずどちらかの位置を把握しなくてはいけない。

その時何かを焼いている臭いがする。風に乗って臭いが漂ってきたのだ。色々な臭いが混ざっており、渾然一体となっている、それでも肉の焼ける香ばしい香りが少し漂ってきている。どうやら誰かがキャンプを張っているようだ。状況を把握するために、息を潜め更にそちらへ近づいてみる。


もう少し足音を潜めたまま森の中を歩く。すると熱源を感じる明かりが、暗い森の木々の隙間からローズの方へと届き始める。ゆっくりと茂みに身を潜めながら、灯りの方角を覗き込む。

くべられた薪に火が灯り、その周囲に置かれた石や丸太に腰を掛け、盗賊共が座談していた。焚き火には串刺しになった肉類が掲げられており、彼らは食事をしている最中のようだ。焚き火に直接当たることが出来ず、その周囲に取り巻いている者も沢山おり、其処には序列があるように思われる。

一人、周りの盗賊達と違い、強奪したであろう立派な装飾品を体中に纏っている男が居る。恐らく其れが彼らのリーダーであろう。

彼らは団を成しているようだ。人数が多いためか緊張感もなく、大きな声で、無警戒に話をしている。


「それにしても、あのドライを殺れるとはなぁ……」

リーダーの前で一人の男が得意げに、其れを口にした。

「しかし、誰か死体を確認したのか?」

当然伝説的な男の噂を知っている彼らは、一様にそれを盲信するだけではなく、慎重な意見を持ち出す者もいる。もし殺し損ねていたときの事を想像するだけで、震え上がる思いだ。今にもドライが出てくるのではないだろうかと、彼は恐る恐る周囲を警戒する様子を見せる。

「いいや、だが彼奴、矢が三本も胸に打ち込まれたんだぜ、それで生きている奴がいるかよ」

もう一人は、安易且つ希望観測的に、常識的な判断をする。ヘラヘラとしながら、目の前の食事を貪るのだった。


話の内容から、どうやら彼等は、本当にドライと接触したようだ。しかも手傷を負わせているらしい。死んだと思っているようだが、死体は確認してはいない。

兎に角、死体でも良いから彼を確認しておきたい。ローズはの心は、真偽の狭間で、焦りと動揺で揺らぐ。

だがもう一つ彼女は考えた。この盗賊団を、このまま放っておく手はない、と。賞金首となる盗賊が集まっているのだ。

ドライが生きていると仮定し、彼との対決の最中、余計な邪魔が入られては困る。

そして彼女は、一撃で片を付けることを考えた。今なら敵が無警戒であり動く気配も見られない、それに自分の存在も気づかれていない。全滅を狙うには絶好のタイミングだ。彼等を仕留める準備のため、暫く両の掌にエネルギーを集中させる。そして、両手を天に突き出し、呪文を唱える。


「サウザンド・レイ!」


すると、エネルギーは光弾となって、盗賊達の上空に飛び上がった。そして、彼女が両手を大地に振り下ろすと、光弾は、幾千もの赤く光る豪雨となって、次々に盗賊共を襲う。無警戒だった彼等は、上空の深紅に降り注ぐ光の雨に気がついた時には、息も着くこともできず、それを躱すことも出来ず。貫かれ、ただ血の海にその身を沈めた。


光の雨が降り終わると、ローズは木陰から身を乗り出し、盗賊共の死を確認する。これで追うべき獲物はドライだけとなる。

もし、噂通りのドライなら、派手な殺戮に血肉沸き踊らせ姿を現す可能性も考えられる。何せ彼も盗賊共を仕留めにやってきたのだ。

盗賊狩りの勝負に関してはローズに軍配が上がったことになる。

「これだけの人数を証明するのはホネね、めぼしい奴のだけにするか」

ついでに、賞金稼ぎとしての仕事を忘れる事はない。

左右を確認しながら、焚き火の近くまで来る。一つの死体が、彼女の目に留まる。そのあからさまにボスだと言わんばかりの貴金属、装飾品を身につけている死体は、権力、武力を主張するかのように、年代物の厳つい青龍刀を握りしめていた。間違い無く先ほどのボス的存在の男だ。

だがローズは美術品には目もくれず、ボスの首をすんなりと刈り取ってしまう。

少し、その場で待機しているが、それらしい気配を感じる事も無い。どうやら彼は来ないらしい。

「ふぅ、ドライは見つからなかったけど、お金は出来たわね、こんな間抜けな奴等に、伝説の男が殺られるわけないか……」

盗賊共の話しはデマだったのか、真実だったのか……。死体であるなら、確認は日中のほうがいい。

出来れば、ドライは自分の手で仕留めたい。複雑な気持ちで彼の生を願った。一度終えなくなった獲物を深追いすると、碌な事はない。

次の情報を待つ方が、恐らく奔走されるよりよほど効率的な方法だろう。その間は、街にでも滞在して、休息の時とするのも、一興だ。


ローズは、元来た道を歩く。その際に松明を一本失敬する事にする。やはり暗いより少しでも明るい方がよいと思ったのだ。先ほど通りすがりに見た馬車の位置まで来る。

「あれ?確かさっきは……」

通りすがりに見ただけなので、詳しい情景が頭にあったわけではないのだが、開いていたと思われる筈の馬車の扉が、閉まっていたのだ。

抑も脱兎の如く逃げる間際に、誰が丁寧に馬車の扉など閉めて行くのか。物色した盗賊達が、丁寧に馬車の扉を閉めたのか?そんなはずがない。何かのために閉められたと考える方が自然だ。

感覚的に周囲の状況を把握する彼らにとって、やはり不自然な配列、在り方というのは、心の騒めきとなって、足の向く方向を決めるのだ。

この時はどうしても立ち去ろうとすると、足が前に動かなくなった。


何かがあると意識した瞬間から、感じられなかった人の気配も鋭敏に察知し始める。やはり誰かが居るようだ。

ローズは足音を殺しながら、馬車に近づいてみる。

殺気は感じられないが、念のため松明を地面に突き刺し、剣を抜いて、更に壁際まで耳を澄ませて近づいた。

馬車の中からも息を殺しながらも、乱れている呼吸音が聞こえる。お互い息を殺している状況らしい。

それから新鮮な血の臭いがする。扉が閉められている事により、臭いの拡散を防ごうとしていたに違いない。だからこそ馬車の扉が閉まっていたのだ。暗がりであるなら、扉の開閉も気づかれる可能性も余りない。ローズの勘が勝ったといってよい。

だがこれで馬車の中に人がいることを確信する。誰がいようが彼女の知ったわけではない。

少なくとも息の殺し方はプロ級である。もし盗賊の残りなら、首を頂けるかも知れない。とにかく馬車のドアを開け、中を確認してみる。


馬車のドアを開けると同時に、すばやく中へ乗り込み、気配のする方に剣を突きつけた。予想はしていたが、案の定相手は、反撃をしてこない。車内は酷く血の臭いが隠っていた。

「ちっ!見つかった……か、盗賊共にでも……頼まれたのか?殺るなら一気に殺ってくれよ……」

馬車にいたのは、身の丈二メートル近くある男だった。馬車内の椅子に背を持たれ、右胸を手で押さえ苦しそうにしている。彼の指の間からは、三本の矢が、突き出ており、目を閉じて眉間に皺を寄せ、苦しそうに呼吸している。きっと呼吸の度に、痛みが走るのだろう。一呼吸する度に彼の額から汗が流れ落ちている。

「どう……した。殺るなら……殺れよ」

相手を確認しないまま、彼はそう口走っている。死の覚悟は潔い。其処には彼の生き方を感じる箏が出来る。潮時を心得ているようだ。

「怪我……、してるのね、安心して、私は盗賊じゃないわ。少し待ってて」

ローズは、一度馬車を出て、先ほどの松明を取りに行く。彼の怪我の状態を確かめるためである。そして再び馬車に戻る。その際に、男の右足が、膝から下が無いことに気が付く。先ほどの義足は彼のモノのようだ。松明で一度、彼の顔を照らした。

髪は燃えるような銀髪で、左眉の少し上から、頬の中ぐらいまで、ナイフか何かで斬られて出来たと思われる、あまり深そうではない古傷がある。ただ妙にハッキリとついた傷なのは確かで、まずその素性は素人ではないだろう。と、其れがまず彼に対する第一印象だった。

口元から血が流れている、肺を傷つけられているのだろう、息を殺すことが出来なくなった彼は、時折咳き込み、血を吐く。

彼の顔立ち全体は、如何にも一匹狼と言う感じを受けるほど、切れ味のあるワルの顔をしている。彫りが深く、北欧系と思われる。痛みで顰めっ面をしていることも、その印象の一因を担っているだろう。

彼の彫りの深い顔立ちと、端正な顔立ちは、この世界では、プロージャと呼ばれる民族の顔立ちである。この大陸との裏側の人種でもある。

顔の話は、また後ほどにして、今は、彼の傷を治療してやることが先だ。

馬車内に掛けられているランプを開け、松明から火を移し、再び壁に掛け、邪魔になる松明は、一度外に置くことにする。間違って火事になってしまっては大変だ。

ローズを盗賊と思いこんでいることから、彼は盗賊でないのは確かだ。この状態でそのような芝居が打てるはずもない。

そんな彼の右腕をそっと退けてやると、矢が本当に彼の胸板を突き破っていることが解る。胸から突き出ているのは矢羽で、シャフトが可成り見えていることから、貫通はしていないようだが、間違い無く肺には届いている。

この間際に、彼がぼそりと独り言をぶちまけるかのように、息を乱して、話す。

「へへ……、盗賊と、女剣士の気配も区別がつかねぇなんて……、相当やばいな……」

どうやら、ローズが彼女が盗賊でないことは、理解したようだ。

「お喋りはその辺にして。矢を抜くときに舌噛んじゃうわよ」

ローズは、彼の額の汗をそっと手で拭うが、彼の右手が、それをはらりと除けた。

「そんな事したら……、血が吹き出しちまう」

助かる見込みが出てきたというのに、余計な事をされて殺されてしまうのが、納得行かなかったのだろう。この状態でよく其処まで判断出来るものだと、ローズは関心を覚える。

其れと同時に意識が確りしているのなら、彼が助かる見込みは十分あるという確信をする。

「安心して、回復魔法の心得があるから……」

ローズがそう言うと、男は意外にも素直で、逆らう様子を見せなくなる。

確率論の問題だった。矢の刺さったまま街で手術を受けるか、矢を抜きこの場で治療を受けるか。どちらがより、生存への確率を高められるかと、たったそれだけの算段だ。

しかし問題なのは矢の刺さり方だ。貫通しているのなら、そのまま矢の進行方向へ抜いてしまうこともできるが、このままでは、矢尻が体内に引っかかって、一本一本抜いていては拷問だし、激痛で自ら傷を深くしかねない。どちらにしても出血は酷くなる。

ローズは考えた。掠め取るようにして、三本の矢をほぼ同時に抜き、せめて痛みだけでも一瞬に押さえるしかないと。

「ほんの一瞬だから、動かないで……」

ローズの指示に、彼は苦しいながらも、息を止め、震える身体を必死で止める。そして、ローズが、一瞬の間を見極め、矢を一気に抜き取る。

「がぁぁ!」

激痛に、物凄い力で馬車の壁を叩く。その瞬間に、ミシミシ!という音がした。目を見開き、首に筋を立て苦痛を懸命に押さえている。彼の服が目に見えて血で染まり始めた。

「天なる父よ。この者の傷を、癒し給え……」

素早く治癒の魔法で、彼の傷を塞ぎ始める。

「よし、傷は塞がる。これでもう……大丈夫な……はず……」

その時ローズは、自分が傷を治している相手が誰なのかを知った。痛みも通り越し、虚ろに天井を眺めているその瞳は、血に飢えたような真っ赤な瞳をしていた。この男こそ、ドライ=サヴァラスティアだったのだ。

怪我の治療は、進行していたものの、何を考えたらよいのか、一瞬解らなくなる。

彼はまだローズの素性を知らない。体力的にも彼に勝てる見込みはないはずだ。大丈夫だ。殺すならマリーを殺したその理由を吐き出させてから殺してしまえばよい。ローズは何度も思考の奥で、そう言葉を繰り返した。

少し痛みの癒えたらしい彼が、突然声を発する。

「死ぬかと思ったぜ、これで、治癒の魔法を掛けてるのが彼奴だったら……、マジで死んでたな」

しかし、ローズの表情は硬直したまま、ドライを見つめているだけだった。

飽和状態になりかけ、複雑で不快感も入り交じったローズの表情は、ドライには理解できない。尤も面識のない二人が意思を疎通させることなど有るはずがない。

「……、おい、女、どうしたよ。ぼうっとして……」

次のドライの呼びかけに、ローズは我に戻る。そして、少し殺気だちながら、彼を再確認する。

「おまえ……、ドライ=サヴァラスティア……?」

緊張で震えた声が詰まる。脈拍が徐々に加速していくと同時に、彼女の脳内がチリチリと熱を持ち始める。

「ああ、そうだぜ。俺の紅い目が何よりの証拠だ。おいおい、そんなに殺気だつなよ。命の恩人を殺しはしねぇよ」

ドライの方は、全くと言っていいほど、無警戒だ。幾ら痛みが少し癒えたところで、彼は武器も保持していなければ、立ち回りをおこす体力など到底ない。致命的なのは、右足が膝から下がないこと。警戒したところで、相手に剣を振るわれればそれまでだ。相手の実力も、雰囲気で何となく解る。ジタバタしても仕方がない、彼はその事を知っていた。だから無駄な足掻きは止めにした。この状況で最後のリラックスをしている。

「黙れぇ!ドライ=サヴァラスティアと知っていれば、誰がお前など!!」

ローズは、猛り狂って剣を抜き、ドライに矛先を向ける。

彼女の一振りは凄まじく、振り抜いて構えるまでの動作で、馬車の天井も壁も、一瞬にして切り裂いてしまうのだった。一度彼の眼前に矛先を突き立て、それからドライの心臓より少し下に切っ先を押し当てた。狭い車内で実に見事な抜刀だった。

ドライに突きつけた矛先は、マリーに突き刺さっていた剣の位置とほぼ一致していた。殺気が殺意へと変わる。歯を食いしばり、ドライを睨み付ける。だがこのまますんなり殺しては、自分の気が収まらない。彼の怯え狂う瞬間を見たいとすら思った。

だが対照的に、ドライは、殺意に満ちたローズより、彼女の突きつけた剣を見て、妙な表情をしている。

「レッド……スナイパー……、おい女!この剣をどうやって手に入れた!!」

言葉と同時に、渾身の力を込め、白羽取りのように剣を両手で挟み、左足でローズを蹴り倒し、剣を奪う。

ローズは、狭い車内で、反対側の壁に、叩きつけられ、その反動でドライの方に倒れ込む。が、もう一度彼の軽い蹴りが入り、反対側の席へと飛ばされてしまう。ドライは、彼女が倒れ込んでいる間に、剣を上から下まで、見回す。そして、刀身に書かれた名前を見つける。

「やっぱりだぜ!さぁ、早く答えな!答如何によっちゃぁ、命の恩人でも殺すぞ!」

先ほどの彼と違って、声に気迫がこもっている。腕は震えているものの、今度は彼が、ローズに矛先を向け、彼女の喉元を指す。その事情を聞くまで、死にきれないといった危機感が、ドライから感じられた。

「黙れ殺人鬼!私は今日まで、お前を殺すために、女を捨てて地に落ちたんだ!」

ローズは、追い込まれているにも関わらず、目の気迫だけは、ドライに負けてはいなかった。

「その目、仇討ちか?残念ながら、俺は星の数ほど、賊を殺ってるんだ。いちいちそんなのに立ち会ってる暇はねぇんだよ。それよか言いやがれ!!この剣を何処で手に入れたかを!」

ドライは、自棄に剣に固執している。彼の名前が刻み込まれているのだから当然なのだろうが、ローズが持っている訳を知りたがっている。そして答によって、態度を変えるつもりだ。

「白を切るな!お前は、五年ほど前、一人の女を殺したはず。その剣は、お前のだろう。彼女は私の姉……、これだけ言えば解るだろう!」

更に憎悪の眼がドライに向けられた。暗がりの中、ローズの憎しみと悲しみがはっきりと捉えられる。

「馬鹿言え、俺は女を殺った覚えはねぇ、賊じゃあるまいし……、それにこの剣は俺のじゃない、俺の……、女の……マリーの………………」

ドライは、そこではっと何かに気がついた表情をする。

「まさか!マリーを殺したのはてめぇか!」

彼はすっかり熱くなってしまっている。自分の頭の中だけで、結論を先走って決めつけた。ローズから見れば、途轍もなくずれた方向の結論だ。

「姉さんの、名前を気安く呼び捨てにしないで!この殺人鬼!」

ドライが、冷静さを失っている隙に、彼女は矛先から逃れ、ドライの腕を引き寄せ、頭突きを食らわす。その隙に剣を奪い返そうとしたが、逆にドライが彼女の腕を、左手で掴み、後ろ手に固める。

「信用できるか!!いいか、俺とマリーのことは、その筋じゃ少し有名だったんだ。彼奴が死んでから、俺の前に彼奴の妹だって輩が、何人か出てきてよ。一寸気を許そうとしたら、どいつも比奴も、俺の寝首を掻こうとしやがった。それでも、女だから、一発ぶっ叩いて勘弁してやった。だが、今回は、別個だ。俺は彼奴の黒子の数まで知ってるぜ、足の付け根の一番セクシーな所と、左胸の乳首の脇のも含めて七つだ。彼奴が一番感じやすかったのは、背中に息を吹きかけてやることだ。俺は彼奴個人のことなら何でも知ってるぜ、お前はどうだよ!?」

マリーの左胸の黒子は、それ程目立つモノではなかったが、幼い頃からその位置にあるのは、ローズもよく知っている。彼の言っていることは事実だった。

「そんな……、将来有能な魔法考古学者に成る筈だった姉さんは、世界でも注目を浴びていたわ。そんな姉さんが、アンタみたいなゴロツキと一緒にいるわけがない!」

「いいから言え!テメェだけが知ってるマリーを!!俺の知っているマリーを!!」

「頭の良い姉さんだった。でも、料理もダメ魔法も下手くそ。大きな事ばかりいうのに、生活感まるでゼロ。でも、とてもキラキラしてた。夢に輝いてた!!姉さんがいつも山の上を見てこういうの……」

「『この場所も昔は海だった。見えなくても、世界は少しずつ確かに進化している』」

二人で同時のその言葉を口にする。

ドライも、ローズの言っている言葉を、マリー本人から直接聞いたことがある。その度に、マリーは笑顔を輝かせていた。

彼女の声からは、ひどく嫌悪感が滲んでいる。それは、あらゆる理由を包括しドライに向けられた。

「じゃぁ、お前、マジで……」

ドライの腕がゆるむ。ローズはその勢いで、前に倒れ込んだ。それから起きあがり様に、ドライの方を振り向いた。彼女の目は涙で濡れていた。次第にそれが滴となって、音を立て始める。なんと悲痛は表情だろう。姉を奪われた悲しみを、眼だけでドライに訴えかけた。

ドライの方は、彼女をマリーの妹だと認識したが、ローズは、まだドライの事を認めていない。マリーとドライが関係を持っていたことが、ショックだったのだ。それを嘘だと思っていたいのだ。薄汚れたこの世界で、血に染まって今日まで生き抜いた彼女は、そんな血塗られた男と、将来を有望された姉が、堕ちたことが信じられなかった。恨み辛みのこもった目で、ドライをじっと見つめる。

「この剣は、姉さんを貫いていたのよ。それが死因だって、姉さんを看取ってくれた人が言ってた。そしてこの剣には、ドライ=サヴァラスティアの名前が……」

今度は涙を見られまいと俯き、涙を拭う。

「そうか、それで俺を……、とんだ勘違いだ。実は俺もマリーを殺した奴を捜してる。それについては、互いに共通って訳だ」

ローズは、妙にしんみりしたドライの言葉にふと顔を上げる。

「共……通?姉さんを殺した奴」

一瞬目的を無くしかけたローズにもう一度道が見え始める。

「ああ、俺は、マリーと出会った頃から、彼奴と一緒に遺跡なんかを漁ってた。彼奴は考古学の研究のため、俺は、盗掘のため、彼奴口うるさくてよ。いつも言われた。『考古学のために、残しとけ!』って、で、ある日、新たな遺跡を探してよ。盗賊狩りしながら渡り歩いて、二人でいかにも未開の地って感じの森を歩いてた。その時に、奇妙な連中に囲まれて、俺はマリーを連れて逃げた。するとツイて無いことに崖っぷち、下は激流の川、だが俺だってプロだ。ギリギリまで粘って、向こうが飛びかかってこれる人数が、制限される所を、一気に切り込もうって……、で、二人とも腹くくった。だが、その直後、崖を真二つにする。豪雷が落ちて、二人とも川に真っ逆さま。あの時考えれば、奴等普通じゃなかった。黒装束着て、冷たい目でこっち見てよ。まるで、何かに憑かれたようにフラフラしてやがった。何処の誰かもわからねぇ、とにかく二人は落ちた。俺が気が付いたときは、名もない村で、そこで世話んなった。足は崖から落ちて脚を失った。動けなくなったおれは、ヤキモキしながら、ある日考古学者の卵、マリー=ヴェルヴェットが、死んだって噂で聞いて、事件のことが頭に浮かんだ。野郎共が、何考えてんのかは解らなかったが、とにかくマリーが死んだのは、奴等のせいだ。そして俺は、情報掴みながら、仕事を再会、そして、彼奴のレッドスナイパーを持ったお前さんが、俺を殺しに来た訳だ」

ドライが再び、ローズの方を向く。その頃には、少し辺りが薄明るくなっていた。ローズもドライも、互いに敬尊する者、愛する者を、殺した相手ではない事は理解した。複雑な気分は癒えないままではあったが……。

「いいわ、貴方はドライ、でも私の姉を殺した奴じゃなかった。取り敢えず、街に戻って、貴方の傷の手当をきちんとしなきゃ」

マリーのことを語るドライの瞳が、妙に穏やかであることで、ローズはドライへの怒りに終止符を打った。切り替えなど、急に出来る訳ではないが、彼のいうことが、嘘でないことがわかる。何故か、そう解るのだった。

「と、その前に、俺の剣と、義足を探さないとな」

二人して、ドライの無い右足の方向を見る。

「いいわ、剣は私が探してきてあげる」

ローズは、腫れぼったくなった瞼で、穏やかに微笑みを作りながら、涙の乾いた目の下を拭く。

「恩に着る。剣は此処から少し下った所の、小川の付近に落ちてる筈なんだ」

足のないドライでは、この足場の悪い山中では辛いものがある。ローズはそれを察した訳だが……。

それにしても、探していた相手とまさかこの様な繋がりがあるとは思いもよらなかった。そして、彼女の旅も、殆ど振り出しに近い状態に、戻ってしまったことになる。


足下を取られないように、ある程度急な坂を下ると確かに小川の潺が聞こえる。辺りを注意深く見て、歩いていると、ドライの言った通り、剣が落ちてあった。その剣は、レッドスナイパーと束の特徴がよく似ている。だが、大きさが遥かに違う。やたらと剛刀なのだ。見た目も重そうだ。種類としてはグレートソードだろうが、其れよりももう一回り大きさを感じる。剥き出しのまま、薮の覆い茂る土の上に転がっている。その近くに、鞘も落ちていた。

ローズは、それを見つけると、早速拾いにかかる。

「うわっ!おっもい……、何これ、彼奴化け物ね、義足も折れちゃう筈ね、ん?」

ローズは両手で持ち上げているのだが、実際は一般人が持ち上げることなど不可能な重量だった。二メートル程にもなる厚めの平板を持ち上げているに等しいのだ。

その時ローズは、刀身に文字が彫られていることに気が付く。それは紛れもなく、英文字でマリー=ヴェルヴェットと書かれてある。その文字が目に飛び込んできた瞬間、ローズの瞳から、再びぼろぼろと涙がこぼれ出す。これで、ドライが本当にマリーに本気だったかが解る。そして自分の尊敬していた姉も、ドライを愛していたという事実を知るのだった。レッドスナイパーに彫られたドライ=サヴァラスティアの文字、そしてこのマリー=ヴェルヴェットの文字は、愛し合った二人が、互いの絆を示すために彫ったものだったのだ。

ローズは、泣くのを止め、剣を鞘に収める。鞘は、刀身の半分程度なのだが、剣を鞘に収めると、鞘が機械的に、スライドして、ちょうど収まるようになっていた。剣があまりにも長いので、抜くときに、すばやく抜ける仕組みのようだ。何とも機械的な鞘を持つ剣である。

鞘に、入った剣を肩に担ぎ、再び馬車で待つドライの所まで行く。ついでに、馬車の近くに落ちていた義足も拾い上げる。そして馬車に戻った。

「ほらこれ、それと義足」

「サンキュー、でもこの義足は修理しなきゃ使い物になんねぇな、留め具がいかれてやがる」

少しの間、壊れた義足を眺めるドライだった。


剣を背負ったドライは、ローズの肩を借りながら、街まで歩く。彼の瞳は目立つので、町に出入りするときは、サングラスが欠かせない。町に出入りしているときは、いつもそのスタイルだった。

日が昇り始めているため、ゲートの鉄門は開放され、流通を受け入れる体勢になっている。

街のゲートをくぐると、昨夜の衛兵が、眠そうな顔をしている。

「よお、ねぇちゃんどうだった?仕事の方は……」

「ええ、取り敢えず全部済んだわ」

軽く声を交わし合うと、ローズは無駄な口を開くことをせず、ゲートから離れて行く。衛兵達は、ローズが肩を貸している大男が気になったが、あえて其れには触れなかった。


ローズは、ローズを連れ、取り敢えず借りていた宿まで行くことにする。

いくら治癒の魔法を掛けたとはいえ、あれほどの深手を負っていたのだ、ドライを休ませてやる必要がある。少し蟠りはあるが、今はもう憎い相手でも何でもない。それにもっと自分の知らない姉の話が聞きたかった。

宿に着き酒場を兼ねたフロントで、早速手続きをする。全体としては木造で、二階部分が宿となっており、素性を問わず簡単に受け入れられる、彼らにとって都合の良い場所となっている。

「え?部屋が満室、本当に空き部屋無いの?」

「ええ、悪いねぇ」

宿の女主人が、申し訳なさそうに頭をぺこりと下げる。ローズの借りている部屋はあるのだが、ドライの部屋がない。

「しかたないわね、私と相部屋で良い?」

「いいぜ」

簡単な問いかけに、簡単な答、最も女に誘われて、イヤだという男も珍しい、特に荒くれ共は喜んで付いて来る。部屋まで着くと、中に入るのだがベッドが一つしかない。

「さ、横になって、傷を見てあげる」

ドライを横に寝かせると、有無も言わさず、彼の服を破き、胸の傷を見る。ローズは、思ったよりも上手く傷が塞がっているので、ホッとした顔をする。彼はもう大丈夫だ。

「私は、これからこの首を、賞金に換えてくる。何か用事はない?」

「そうだな、魔法を扱っている鍛冶屋と、それと……、必要経費、このバンクカード(預金通帳)から、好きなだけ引き出してくれ、俺に合いそうな、ナイスな服だ。それを頼む。番号は57916F」

ドライは、ズボンのポケットから、バンクカードを出し、ローズに投げ渡す。

「えっと、服ね、それと、鍛冶屋ね、私も一寸高めの買い物したいな……」

ローズは、意味有り気に、にやにやと笑ってドライを見る。

「好きにしな、命の代金だ」

カードに入っている金額には、ローズも可成りの自信があったのだが、思わず出し惜しみをしてしまった。それから、少し彼を試してみたのだ。ケチではないのは確かだ。


まずは賞金首を賞金に換えるためにシェリフの所に行く事にする。そこで賞金首の認定を得るのだが、この時、賊の身元が分からないと、当然のことながら、認定書はもらえない、大抵大将格は高いのだが、それでも身元が分からないと、認定書はもらえない。

ちなみに言うと、シェリフは職務上、この判別を行っているが、賞金稼ぎとは犬猿の仲だ。厳しい身元判定も、出来れば賞金稼ぎに金を払いたくないためのものだ。

本来自治は、彼らのような公職者の特権のはずで、ローズ達は其処に介入し、腕っ節で彼らの手柄を横取りしている事になり、自治安定を盾に殺人を繰り返している事にもなる。言わば超法規的措置を政府が始終認めていることになる。

ローズは、交番に入ると、暇そうにテーブルの上に足を投げ出し、低俗な雑誌を読んでいるシェリフの前に立ち、影を作る。すると、向こうもそれに気が付き、賞金稼ぎが現れたと解ると、怪訝そうに様子を伺った。

「何か……、用かね」

まるで自分達の身分を格上げするかのように、横柄な口繰りで用件を訊ねる。

「これ、この付近の賊の首だけど、賞金になりそうなの、ある?」

シェリフ達が横柄なのは、いつもの事だ。ローズは、それを無視し、皮の袋を開き、首を床の上にぶちまける。

血抜きをするまもなく摘められた首は、黒くこびり付いた血と共に転がった。

彼もこの仕事になれていて、一つ一つを足で転がし、手で顎を撫でながら、考え込んだ様子で、それらを眺める。

「確かに悪人面だが、どいつも見覚えがないし、小物だな、頭の飾りでヒートウルフ団の者だと解るが……」

それでもシェリフは疑い深く、足で転がしながら首の出所を探る。

「ん?待てよ。比奴は奴等のボスじゃないか!ウウェハンス家から、高額の賞金が出ていたな。むぅ…………ヒートウルフ団の頭と、そのほか四名と認定しよう」

しぶしぶ、これを認めるシェリフ。

「どうせなら、盗賊団一団にしてよ。森の奥にたくさん転がってるから」

これだけでは、今回のドタバタの報酬として割が合わない可能性がある。ローズは交渉を試みる。

「おい!欲張るなよ。お前さん等なぞ、近い内にでも非合法になるんだ。ミイラ取りがミイラになる前に、せいぜい踏ん張っておくことだ」

シェリフは一度、ローズの襟首を釣り上げ、そう言い放つと、彼女を突き放すのだった。

「ふん!」

ローズは負けん気強く、クビを横に、ぷいと振る。

シェリフの書いた認定書を、彼から奪って、そこを後にする。今度はこれを金に換える。これは銀行に行けばよい話だ。別段難しいわけではない。


ローズは、そろそろ人が行き来はし始めた通りを歩き、銀行に到着する。銀行には賞金稼ぎ専用の窓口が存在しており、取引は一般人とは異なる場所で行われる。

ローズ以外にも、幾人か依頼をこなしたと思われる者達が、窓口に訪れていた。数分待たされた後ローズの手続きが始まる。

「これ、賞金の認定書なんだけど……」

「えっと、ヒートウルフ団、頭、手下四名……、ね、一寸待ってておくれ」

銀行員は、台帳を調べる。それから少しして、それを見つけたようで、ローズの方を向いた。

「頭は、二〇万ネイ(約二千万円)、手下は一人につき五千ネイだね。しかし、ウウェハンス家も張り込んだんぇ。なかなか腕の立つ盗賊として聞いちゃいたが、此処まで掛ける金普通……。と、しかし何だね、人殺しが金を稼げる時代だなんて、治安が悪い証拠だね、お嬢さんも綺麗な顔をして……、もっと女らしくしたら?」

丸眼鏡で湿っぽい、小柄で猫背気味な行員だ。

「何れはね……」

こんな事を言われるのは、これが始めてではない。むしろ日常茶飯事に言われる。だが彼女には、姉を死に追いやった者を探し当て、敵を討つという目的がある。それまでは、この荒れた生活をするつもりだ。度の資金は多い方がいい。

それに今ではすっかりこの仕事が、身体に染み着いている。

「ねぇ、この口座の残高解る?えっと、番号は57916F、それと49915Y」

ドライに渡されたカードと、自分のものをだし、受け付けに渡す。どちらも、少し血糊で汚れている。今度は先ほどの作業と違って、一旦奥の方に姿を消す。それから暫くして、メモ用紙を眺めながら、此方にやってくる。その顔には、歴然とした驚きが見られた。

「凄いねぇ、この金額だと、二つとも賞金稼ぎとしては、トップクラスだね、片方はローズ=ヴェルヴェット。随分溜め込んでるねぇ……。もう片方は……、これが本当なら、あんた偉い人と知り合いだね。ドライ=サヴァラスティア、赤い眼の狼じゃないか!さすが世界一、でもこれじゃ、逆に盗賊から賞金がかかっちまうね、せいぜい寝首を掻かれないように、お二人とも気をつけて」

そう言って、金額を書いたメモをローズに渡しながら、彼はいうのだった。

彼はなかなかの、事情通であるようで、ドライの名前が出ても、差ほどは驚かなかった。金額には驚いたようだが……、なんてお喋りな奴だ。それにしても、ドライは相当の金額を、ため込んでいるようだ。ローズは顔にこそ出さなかったが、一瞬度肝を抜かれた。これを好きなだけ使えと言われても、一生かかっても、使い切れるかどうかである。それほどの金額が書き込まれていた。

「それじゃ、下六桁の端数を除いて、49915Yの口座に、さっきの賞金の半分を振り込んでおいて、それから、残りを、サンドレア地方にあるシンプソン孤児院口座に……、残りは、壱千をキャッシュに、その残りをこのクレジットカードに……」

クレジットカードは今で言う電子マネーのようなものだ。

「シンプソン孤児院……ね」

これで、当面の資金繰りは大丈夫だ。次は、彼に頼まれた鍛冶屋と服だ。彼女は町中を歩く最中に、難なくこれを見つけることが出来る。ただしど義足造りが出来るかどうかは、定かではない。

確かに金具なら鍛冶屋なのかもしれないが、少しピントがずれている気もする。尤も彼の要望だ。疑問は兎も角、用件は片付けておく必要がある。

それにしてもドライは、よく義足であれほどになれたものだ。賞金稼ぎにとって、機動力は命だ。彼はそれを一本欠いている。おそらくこの五年間、あのようなことは、何度かあったはずだ。いや、あれば今頃彼はこの世にはいない。運の良さと実力を兼ね備えてのことだろう。

取り敢えず。賞金稼ぎとしての今日の仕事は終わった。後は旅の疲れ、昨夜の疲れ等を取るため、数日間、町でエンジョイするだけだ。肩の凝る重いプロテクターをぎ、楽な格好に着替えるために、一度宿に戻ることにする。その際に、受け付けに寄った。

「ねぇ、もう一つベッドだけでも増やせない?」

「悪いねぇ、此処は安宿だからねぇ、そう言う気の利いた物は……、シーツと毛布で良かったら何組もあるんだけど……」

「しょうがない、ドライには床で寝て貰うか……」

シーツと毛布を一組もらったローズは、部屋に戻ることにする。扉の前まで来ると、中から豪快な鼾が聞こえる。今、部屋にいるのは、ドライしかいない。彼女は呆れ顔でノック無しに中に入る。

「私の五年間って、何だったのかしら、比奴見てると虚しくなっちゃう」

見れば見るほど、何も考えてない顔つきで、豪快な大の字を描いて、ひたすら無警戒に爆睡している。大男がそうしているのだから、尚更のことだ。

「むにゃむにゃ、ベル、サンディ……」

にやけた表情でドライが寝言を言っている。夢の中で幾人かの女性とバラ色の時間を過ごしているらしい。マリーを愛していると公言しておきながら、そんな浮気発言に一発殴ってやろうかと思い拳を振り上げ、殴ってやろうかと思ったその瞬間だった。

「マリー、愛してる……俺の子供……、むにゃむにゃ」

「え?……」

彼はあいも変わらず無邪気な寝顔をしている。だが最後の言葉は、何だったのであろうか、将来の約束か、または事実か?取り敢えずドライを殴るのだけは止めておくことにした。その時、お腹の虫がしきりに食事を要求していることにローズは気が付く。物騒な装備を脱いで、朝食としゃれ込む事に決めた。

だが、その前に汗を流したい。スッキリしなければ、何をしても憂鬱になってしまう。

ローズは寝ているドライの目の前で、お構いなく平然と下着姿になる。プロテクターをを部屋の端に片づけると、そのままの姿で、シャワーを浴びに、バスルームに行く。汗で汚れた下着を篭に入れ、気分良く鼻歌を唄いながら、シャワーを浴びる。

「う…………ん?何の音だ?シャワー……」

ドライが、その音に気が付き、目を覚ます。プロテクターが部屋の隅に片づけられていることで、ローズが帰っていることに、気が付く。

「そういや、彼奴の名前聞いてなかったな……、でもその前に……、目の保養を……、へへ」

ドライは、ベッドから降り、匍匐前進でバスルームまで忍び寄り、静かに進入し、脱衣所を通り抜け、バスルームの扉をかすかに開け、下からそれを覗き上げた。まるで敵陣に乗り込む一人の兵士のようだ。

〈良い躰してんな。正面向いてくれねぇっかな〉

湯煙でぼんやりとしていたが、彼女を十分に拝む。ローズは、相変わらず鼻歌を唄っていたのだが、なかなかドライの思う通りには、動いてくれないのである。それどころか、いきなりこんな事を言った。

「ねぇ、バスタオル取ってくれない?」

それから、簡単に、バスルームから出てくる。ドライの前に真っ裸の彼女が、堂々と立っている。引き締まった肢体に括れたウエスト、水滴を弾くほどよく白い肌の色艶。

ドライを追い続け続けてきたためか、少々細さを感じさせるが、それでも彼女のプロポーションは男が泣いて喜ぶこと、間違いなしである。

「あ、いや、俺はだな……」

「何よ。男らしくない、それより、早く……」

「あ、ああ」

調子を狂わされたドライは、足下にあるバスタオルを引っ掴み、ローズに渡す。

「ねぇ、窓際に袋あるでしょ。そこからパンツとブラ取ってくれない?」

「な、何で俺が……」

ドライはぶつぶつ言いながらも、彼女の指示に従う。それから、袋を漁り、ブラジャーと、パンティを取り出す。それから、彼女の所に、運ぶついでに、それを頭に被って行く。

「お前覗かれても平気な奴かよ……」

そのままの格好で、脱衣所に入る。すると彼女はまだ体を拭いている。別に隠す様子も伺えない。それどころか、ドライにタオルを渡し、こんな事を言い出す始末だ。

「ねぇ、背中拭いてよ」

「え?ああ」

タオルを渡されたドライは、唖然として面くらいながらも、彼女の背中を丹念に拭いてやる。

「それにしても、男の人って、みんな同じ行動に出るのねー、面白いわ、前組んでた奴なんて、夜這いまでしようとしたのよ。ドライもその口?」

間違い無く男に対する嘲笑が入っていた。ケタケタと笑いながら、ドライの一部始終の行動を思い出しているのだった。

「ふん、覗きは、お前がどれだけ周りの気配に、敏感に反応するかを、試しただけだ」

何とも醜い言い訳をしてしまったと思いながらも、平静を装っているドライだった。

「まぁ、そうしておきましょ」

今更何をいても、言い訳にしかならない。ローズは一つ高い目線でドライをあしらうのだった。

「ホラ、何時までもパンツなんか被ってないで、かして」

ドライの頭からパンティをはぎ取り、さっさと穿いてしまう。ドライが、手に持っているブラジャーも色気なく付けてしまう。何ともサバサバした着用で、ムードもなにも有りはしない。

それから、また下着姿で、部屋中をうろうろする。そのあげく、胡座でベッドに座り込むみ、バサバサと適当にバスタオルで球を拭いた後、手鏡を見ながら、赤い髪を不器用に解かしている。この時ドライが、思い出したように言った。

「そういや、お前さんの名前、聞いてなかったな」

「そうね、ローズ=ヴェルヴェット、ローズで良いわ」

ドライも、また、ひょこひょこと、ベッドの上にやってきて、座り込む。リラックスして手を後ろに、ベッドにもたれ掛かかった。だが、よくよく考えればマリーから、彼女の名前くらいは聞いていたはずだった。

その当たりがドライ=サヴァラスティアという男のいい加減さを物語っている。

「へぇ、じゃぁ、あのレッドフォックスのローズってお前か、最近急に伸びてきたって言うあの女賞金稼ぎの……、その赤い髪を見て、気が付くべきだったかな?」

ローズは髪を解かしながら、これに少し口元をニコニコさせながら、答えを返す。

「そうよ。別に有名になんか、なりたくなかったけど、生きてく為に……ね」

「おまえ、女のくせに、髪を解かすのが下手だな、その点は、マリーと姉妹ってのもうなずけるな、ほれ貸してみな、それから背中こっちに向けろ」

ドライが、櫛を奪うと、ローズも背中をドライの方に向ける。すると、彼は小器用に彼女の髪を解かし始める。そこには慣れを感じた。

「上手ね……」

「へへ、まあね。女の扱いには、一寸ばかし五月蝿いぜ、俺は……。なんせ、『紳士』だしな、女に夜這い掛ける真似なんて、野暮なことはしないぜ、だから安心しな」

覗きをしたのは、何処の誰だというツッコミが入りそうな瞬間ではあった。

「あら、あたし夜這い掛けたらダメだって、言ってないわよ。ただ、後でガッポリ慰謝料貰うだけ、出来ないなら、労働で返して貰うだけよ」

「はは、逞しい奴……」

「だけど、男と女がパーティ組むとき、ある程度のコミュニケーションは、取っておかないとね、そいつの本質、短期間で見抜けないから、夜が勝手な奴って、大概肝心なとき逃げ出しちゃうの。ドライはどうかなぁ」

半分誘っているようにも聞こえるこの台詞、だが、ドライはぴくりとも反応しない。

「へっ、俺は、そんな事しなくても、逃げないぜ、俺はドライだ。どんなときでも、クールでドライ、臆病風に吹かれねぇ、逃げるなんてみっともねぇ真似はナシだ。ほれ、終わったぜ」

ドライが髪を解かし終えると、ローズは立ち上がり、袋の中から、Tシャツとジーパンを取り出し、それを着る。それから、先ほど寄った服屋で買った服を、ドライに渡す。一見何処に出もあるカッターシャツに、何処にでもあるようなズボンだ。彼もそれに着替える。ドライは身長も高く、胸板も厚く、普通のサイズでは難しいところだが、ローズの見立ては良く、予想以上に良い着心地のものだった。


二人はその後、食事に出かける。ドライはローズに肩を借りながら、店を眺めては、二人で、ああでもない、こうでもないと、揉めながら、街を歩き回る。

「朝からなんなんだが、とにかく血液になるのもが欲しい。俺は、肉から野菜から……」

ほんの少し眠っただけだというのに、ドライは元気だ。治療も功を奏したのだろうが、やはり相当なタフネスを秘めている。この世界で名を馳せるだけのことはある男だ。

「そんなの朝から食べたら、胸焼けおこすわよ。と……、言いたいところだけど、私もお腹すいてるし……、それで手うつか……、アンタの奢りで」

チャッカリしたローズであった。別に強欲であるのではない。ただ、ドライの無尽蔵に近い預貯金を知ってしまえば、意地でも減らしたくなってくる。

「ふん、飯ぐらい全部俺持ちでいいぜ」

と、ドライは気前の良いことを言ったが、いざ店にはいると、ローズは片っ端から、高い物を食べ始めた。上等な肉に、年代物の酒、それこそ朝から食する物ではない。だが、ドライもそれに引けをとらない量を食べた。

「よく食うな……」

「うん……」

「俺より食ってるじゃねぇか」

この際どっちでもいい。気持ちいいほど図々しく食べていくローズは、ある意味気持ちが良かった。ヘタをするとちょっとした依頼分くらいは、飛んで行くのかもしれない予感は十分にあた。

二人は。兎に角食べた。店の者の開いた口が塞がらない。


二人は食事の後、今度は、彼の義足の修理をして貰うため、鍛冶屋まで行く。ローズは、馴れない町の情景を思い出しながら、目的地を探す。

「確か、そこの角を曲がって、あ……ホラ!」

二人は、目的の鍛冶屋を見つける。表向きは、一般的で、繁盛しているかしていないか、まあ生活を何とか営んでそうに見える。とにかく中に入る。

「おい!誰かいるか!客だぜ」

ドライは元気良く声を掛ける。半ば自棄に聞こえる。すると、中から普通の商店主が出てきた。身体も大柄ではないし、武器を扱っていそうな感じもない、唯一貫禄があるのは、上唇に生えた、もじゃもじゃした髭だけだ。良く見ると、壁にはフライパンや、鍋が掛かっている。

「なんだね」

殴り込みっぽいドライの口調に、少しばかり、むっとした表情をみせている。

「おやじ!ここ、義足の修理なんかやってるか?ちょい特殊なんだが……」

ドライが、義足を手に持ち、店主に見せる。別段変わった義足でもないのに、イヤに神経質なになっている。

「ああ、留め具が壊れてるんだね、見た目で解るよ。それくらいなら……」

と、今度は客だとわかったのか、普段町の人間と話をしているような、穏やかな口調と表情に変わった。

「ああ、ちょい待ち、これには特殊ゴムをかぶせてある。とにかく椅子に座らせてくれ、説明はそれからだ」

「ああ、構わないよ」

彼等は奥にあるテーブルに行き、それをを囲むように、座る。それからドライは、窮屈そうにそのゴムを外す。すると驚いたことに、中からは、仰々しい機械じみたパーツを組み合わせた金属の固まりが出てきた。当然ながら、これを始めてみるローズと、鍛冶屋のおやじは目を丸くして驚く。どうやら溶接さえすればイイというものでもないらしい。

「ドライ、これって、古代魔法の……」

「ああ、錬金術でもニアリーエンシエントマジックを使う古代魔道師たちの成せる技だ。見てろ」

ドライが、ズボンを捲り上げ、義足を、足に組み込まれてある金属板にあて、両手で押さえ、ニヤリと笑う。すると、義足の足首の部分が、前後に動く。その際に外に出ているファイバーケーブルのような物が、光ってみせる。そういうデモンストレーションを何度となく繰り返す。

「比奴は、俺が助けてもらった村に、偶然いた錬金術師に作ってもらった物だ。全く良く出来てやがる。でもそれだけに、こういう時が大変なんだ。それで、此処へ寄ったんだが、見た目も中身も普通の鍛冶屋みたいだし……、それじゃ、邪魔したな」

ドライが義足の修理を諦め、再び立ち上がり、歩きだそうとしたときだった。元々大きな期待はしてなかったのだろう。ただ伝があるなら、その可能性を信じたかった。それに鍛冶屋はここだではない。

「確かにうちじゃ無理だ。でも彼なら……」

顎に手を当て、少し記憶を探っている感じで、声を出す鍛冶屋の店主。どうやら心当たりの人物がいるらしい。

「なんだ?何かいい方法があるのか!?」

再びテーブルに身を乗り出すドライ。その顔が鍛冶屋の近くまで押し寄せる。すると店主は吃驚して頷く。それから用意したメモ用紙に何やらを書いてくれた。どうやら紹介状のようで、彼の名前らしき物を書いている。それからサインも、である。

「きっと彼は、良い腕してるから、それくらいの物なら修理してくれると思うんだが……」

「だが?」

店主の言い方に、疑問符で返すドライとローズ。二人で彼の顔をのぞき込む。

「……が、住んでる所が厄介でね……、地図書いて解るかどうか……」

と、言いつつも、ご丁寧に地図まで書いてくれている。しかし地図には、丸く楕円に囲んだ部分に、森と書かれ、その中央に、川らしき線が、一本引かれ、更に森の中の川の両側に、二本線を引き、渓谷と書かれただけだった。最後に申し訳ない程度に、方角と点を書く。

「おいおい、何だよこれ……」

「まるで、こどもの絵みたい……」

ローズとドライが、その地図を上下左右にクルクル回しながら、一応の確認をしている。点は、渓谷の右付近にぽつんと書かれている。どうやら川の付近を行けばたどり着くらしいが、寸法も何も解らない。

「お、一つ忘れてた」

店主は、森の中に丸く円を囲って、湖と書いた。点の位置が、湖に行くまでと、多少は位置に限定が見られる。

「殺すぞ……てめぇ」

ドライが少し切キレかかっている。本場の睨みで、鍛冶屋を捉える。

「そんなこと言われたって、こう言う所に住んでるんだから、仕方がないじゃないか!彼はあまり街の人間と接触したがらんのだよ」

今にも鍛冶屋の襟首をつり上げそうなドライを、ローズは押さえながらいった。

「まぁまぁ、ドライ、在り来りの設定よ。あてになりそうな人は、必ずと言っていいほど、人嫌いで、頑固で、此方の目的につけ込んで、無茶な要求してきて、挙げ句の果てにエロジジィなのよ」

ローズは溜息半分でドライを説得する。一人で賞金稼ぎをしているときの彼女と違って、何だかリラックスした雰囲気が見られる。

「最後のは違うけど、まあそんなところだ。お嬢さん良く知ってるね、彼の知り合いかい?」

「口から出任せ……」

ローズは肩をすくめ、両手の平を天井に向けて、首を横に振り、外人ジェスチャーをする。

「なんで、もっと探しやすい場所にいねぇんだよ。むかつくぜ」

ドライは、鍛冶屋から出るくらいまで、そんな感じでぼやいていた。

「まぁ、とにかく人の足じゃ無理だね!馬か何かじゃないと!」

鍛冶屋から出る直前、店主がよく透る大きな声で、二人の背中に呼びかけた。

と、言うことなのである。二人は、地図と紹介状を持って、鍛冶屋を出た。

「あぁあ、せっかく十日くらい、この街でゆっくりしようと思ってたのに……」

何とも残念そうに、両手を組んで空に突き上げ、背伸びしながら、ローズは仕切り直しをしている。

「別に良いぜ、マリーの件はそれぞれの思惑で片づけても、無理に俺と組むことはねぇ、でも俺は行くぜ、足をなおさなきゃ商売も上がったりだ」

ドライが辛そうに、片足で跳ねながら、通りを行く。一点物の特注義足には代理品などない。それだけ彼は一刻も早くマリー殺しの犯人を探す旅に出たかったのだ。松葉杖は、彼の賞金稼ぎとしてのプライドが、頼ることを許さない、かどうかは、知らないが、松葉杖をついた賞金稼ぎなど、前代未聞だ。

尤も片足のない賞金稼ぎも、考えられない。どのみち戦闘が起こったときには、松葉杖など使えたものではない。

ローズは、少し軽いところはあるが、元々普通の女だ。こんな彼の姿を見ていると、一人にしてはおけない。それに自分の姉が唯一愛した男だと思うと、その心の内の寂しさに共感してしまう。色々考えながらも、やはり彼と行くことにした。

「ホラ、肩に掴まりなさいよ」

ローズは、ドライの背中にそっと手を添え、彼を支えてやるのだった。

「なんだ?来るのか」

「その代わり良い?これからの仕事の報酬は、どんな時でも五分五分、衣食住に関しては、貴方持ちね。解った?世界一君」

「へっ、可愛くねぇ女、まっいいや、旅は道連れだ」

ドライは、彼女の肩に右足分の体重だけを掛け、再び二人で歩き出す。

しかし、どう考えても足のない彼の方がローズの足を引っ張る立場にある。ローズの器量の良さは、上辺だけの物ではないようだ。


一応の計画を立てるため、二人は宿に戻る。ローズも服を脱ぎ、プロテクターを着込む。やはりドライの前で平然と下着姿になるのだ。準備が整う頃には昼になっていた。軽い昼食を取ると、必要な食料、水などを揃えた。残るは、馬だけだ。早速馬屋に寄ることにする。

「おい、ジジイ!此処で一番利口で、上等な馬くれ」

歳のいった店主を見つけると、ドライは怒鳴る。

「何じゃ!ジジイとは!最近の若い者は、全く!馬なら奥の厩にある」

歳のいった店主は、頭に湯気を昇らせながら、それでも仕事のプロとして、彼を案内するために、先頭を切って奥に向かうのだった。

何処に行っても喧嘩になりそうなドライの受け答えに、ローズは少し可笑しくなり、ぷっと吹き出してその光景を見ていた。

案内されると、ドライは早速馬を選別する。一頭一頭じっくりとだ。そのドライの表情は、バスルームを覗いた情けない顔でも、森で見せた苦痛に満ちた表情、そのどちらでもない、至って真面目だ。その真剣な目は、思わず吸い込まれそうになってしまう。赤い瞳が何とも神秘的だ。集中力を持っているときのドライは、なかなか知的な雰囲気もある。

ドライが、真っ黒で大きな馬の前で止まる。

「いい顔だ。足も太い。少々の道でもしっかり歩いてくれそうだな、スタミナもありそうだ。比奴キープだ。さて、次はローズの分だ。悪いが勝手に俺が選ぶぜ」

「どうぞご勝手に」

ローズは興味なしと言った雰囲気で、用事さえ済んでしまえば其れでよいと感じだった。

その時だ。老店主がドライに不服そうな顔つきで、前に立ちはだかり、渋々言い出す。

「お前さん、馬体に関してはいい目しとるが、彼奴の性格はねじ曲がっとるぞ、途中で客を落として戻ってくるなんて事は、日常茶飯事、売っても必ず此処に戻って来るんじゃ、彼奴には、損ばかりさせられる」

「良い節介だ。買うのは俺だから、気にすんな」

忠告を全く聞き入れる様子もなく、片手で店主を払いのけ、馬を選択する。

「よし、美人の馬を見つけたぜ、お前みたく……、でも比奴は鎧着た人間と食料、諸々を乗せて何日も歩くのは、無理かな、頭良さそうなのは、間違いなんだが……」

と、目は馬を、口はローズに向けながら、馬の鼻面を撫でながら、馬の目の奥を覗く。どうやら、賢さと体力面で悩んでいるらしい、賢いと言うことは、滅多なことで逃げ出したり、暴れたりしないと言うことだ。幾ら馬力があって長旅でも持ちそうでも、一寸した衝撃で暴れて逃げ出し、此方の足を失うのは痛い。しかしすぐにばててしまっては、賊などに追い回されたときに、すぐに捕まってしまう。だが、ローズが、そのドライの迷いを強引に、押し切った。

「これに決まり!私に似て美人ってのが、気に入ったわ」

「おいおい、俺に任せるって……」

「良いの!これに決まり!」

先ほどは好きにさせていたローズなのに、ドライの余計な一言で、勝手に決め込んでしまう。これ以上言っても、聞いてくれなさそうなので、ドライも仕方がなしに、決めることにする。が、またもや店主が、これを嫌った。

「お前さん、問題馬ばかり選ぶねぇ。比奴もすぐ客をホッポリ出して、此処に戻ってきちまうんだよ」

「ジジィ、諄いぜ。買うのは俺だ。好きにさせてもらう。で、如何ほどだ?」

全く店主の言うことを聞こうとしないドライは、彼の目の前にクレジットカードをちらつかせる。

「わしゃぁ、保証せんぞい、二頭でおおまけにまけて、八万ネイだ。レンタルなら、その百分の一」

問題馬といっている割には法外な値段を付けてくる。その金で一体何頭の馬が飼えるというのだろう。しかし、馬を買うと言うことは、彼がこの土地には戻らないことを意味しており、それは店主として働き手を失うという意味でもある。其れまでの代賃まで、取ろうという確り者だ。

「買いだ。さっさと勘定しな」

商談成立だ。ドライの金銭感覚の悪さに、ローズは少しゾッとする。金銭力に任せて、買いたい物を買うドライ、その値段は普通の馬の値段ではないだろうと、ツッコミを入れたくなった。まあ、お金の出所は、彼の財布なので、あえて文句は言わなかった。


二人は、早速あのデタラメな地図を見ながら、北の森の方角に向かう。ローズとドライが出会った森だ。あれからまだ一日と経っていない。なのにローズは、不思議に彼の存在を疑問に思わなくなっていた。互いに何も知らない筈なのに、スムーズに会話が出来る。

「ドライって幾つなの?」

「んん?俺か、確か大体二十六、七?そんなところだ。そう言うローズは幾つだ?」

「二十二、ドライは何時からこの世界に、入ったの?」

「忘れた。でもガキの頃から、だな……」

どうやら彼は、生まれついての賞金稼ぎらしい、でも彼の出生は彼も知らない。捨て子のようだ。赤く煌めいた瞳のせいで、捨てられたのか?兎に角もっと互いに知り合う必要がある。ローズはそう考えた。互いに何か通じ合う物がないと、一緒にいても心にそれが引っかかって仕方がない。彼女にとっては、姉を死に追いやった者を見つけるまでの仕事だが、それでも互いを知っておいて損はない。

「ねぇ、姉さんと出会ったのって、どういうきっかけ?初めての二人の夜は?あの身持ちの固い姉さんが……、ねぇ」

少し目をキラキラさせて、他人の過去を興味深げに聞くローズ、どうやら互いの連携の為だけではないようだ。そこには趣味的な物が混じっている。

「ったく、お喋りな女だぜ。ますます彼奴そっくりだ。やだね、女ってのは……、そんな面倒くせぇこと、今話してられっかよ。あとあと」

ドライは本当に面倒くさそうに、ローズの方をキッと睨む。だがローズの方は、意地でもその事を聞きたくなった。彼女は、自分から聞かれてもいない、過去を、話し出す。

「あのねぇ、私が初めての時は、十五歳だったの。私ませてたからね、でも、すっごく痛かったんだから……、それで其奴……」

などと、本当に、突っ込んでもいない話を平気でしだす。

「解った!話す!だからそう言う話はするな、ったく。マジかよ。この女は……」

ドライは、面食らって仕方が無くマリーと出会った頃の話をし出す。

「俺と奴が出会ったのは、七年前、俺が仕事を一人でこなせるようになって五年くらいの頃だ。二人が出会ったのは、ある古代遺跡で、俺は盗掘、彼女はもち夢である魔法考古学の研究のため、まず遺跡のそばにいたのは俺で、彼奴は、俺が遺跡を見つけてから、何日か経ってからのやってきた。普通盗掘ってのは、何日もかけて、ちんたらやるもんじゃねぇんだが、その時は、ゲートのロックが硬くて、なかなか中まで、入ることが出来なかった。ぶち壊しても良かったんだが、その時は何故か、ヤバイ気がして、攻略に手間取ってた。ホントに何でか、わかんねぇ。で、俺がモタモタしてるうちに、奴が来て、盗掘をしようとしてる俺を見つけて、こう言ったんだ。『あんたみたいなのがいるから、世界の遺産がことごとく無くなるんだ!』って、挙げ句の果てに短剣振り回して、切りつけてきてこの通りの顔だ。マジでイキナリだったから、躱せなかった。その時に、あのバカ、俺が外し損ねたトラップを踏んで、怪光線に襲われまくって、すったもんだしだぜ。それが出会いかな?」

ドライがそこまで話していると、道は少し上り坂に差し掛かる。川のせせらぎが、少し深く聞こえる。

「あの頃のマリーは、まだ駆け出しで、人を雇う金もなかった。ちょうど人手が欲しかったんだな、仕方がないから、二人は取引をしたんだ。遺跡のロックは、彼女が外す。俺はトラップを外す。あと重労働と。でもって、遺跡の中の秘宝の半分は、暗黙の了解で、俺の取り分、残りは彼女の望んだ方向に行く。あれで魔法の何が解ったのかはしらねぇが、とにかくマリーは、考古学者の卵として、名前が載った。俺は表向きの人間じゃないから、手柄は彼奴一人の物、で、相変わらず金のないマリーと、彼女の側にいれば、簡単に金が入ると思った俺は、つるむようになって、世界中を渡り歩いた。そのうちに、俺は、夢に輝いた奴の目に嬉しさを覚えるようになって、いい女だと思うようになった。彼奴は俺の強さを気に入ってくれてよ。あちこち連れて回されたよ。何時しか、互いに『ない物』を感じるようになってよ。そして二人は行き着くところまで行って……、てか」

ドライは少し切ない表情をしながらも、思い出の邂逅に浸っている。その日々の充実ぶりを伺うには、十分な微笑みだった。

「互いにない物って何?」

「俺に無くて、奴にあった物は、切り開かれた将来って奴だ。でも俺にあって、奴にない物は、奴にしか解らなかった。なんだかな……」

そちらの答えは、探せないままらしい。それが少し一寸寂しい気もしないでもないローズだった。辺りは次第に、薄暗くなり、樹木が茂る風景となる。川は左手にある。その事だけを認識しながら、話すことの無くなってしまった二人が行く。


辺りの景色が、少し赤く染まり始めた頃だった。

「ねぇ、ドライって、どんな人間なの?見た感じじゃ、いい加減で、女好きそうで、悪党って感じだけど、何だか少し、ただの悪党じゃないような気がするのよね」

なんだか、随分と噂と違う彼を見て、多少戸惑いを感じるローズだった。

「どうだかな、俺もわからん、一つ言い忘れてたけど、俺よ、ガキで、いつの間にか賞金稼ぎになってた頃以前の記憶が全くねぇんだ。オメェがそう見えるっつうんなら、、その頃の人格が残ってんじゃねぇかな?」

ドライは、まるで他人事のように自分を分析してみせるが、いい加減なモノだ。へらへら笑って、それで話に落ちを付けようとしている。


荒れ果てた道を行くと、すこし崖に近い道のりになる。下には川が流れている。道はあっているようだが、陽が本格的に暮れはじめている。今日は此処までのようだ。

「今日は此処までだな、さてと、野宿だ」

ローズは、取り敢えず虫に咬まれ難いように、香をたく。それから下に麻で出来た茣蓙のような物を敷く。焚き火をしたいがドライがそれを嫌った。

「どうして、焚き火しないの?」

「普段なら焚くんだが、今の俺じゃ賊に勝てない、これでもやばいんだぜ、香を焚いてるからな」

ドライは、ローズが賊を全滅させたことを知らない。それに自分の置かれた立場を十分考慮していた。だがローズが、その緊張を打ち砕くように、アッサリこう言った。

「あの盗賊団ね。でもそれなら心配に及ばずね、私が全滅させちゃったから」

準備をしていたドライが、これに不服そうに、口をとがらせ、彼女の方を向く。ローズが強いのは気配で解っていたが、女にそんなことが出来るわけはないという先入観もあった。

「どうやって!?」

「こうやって、サウザンド・レイ!!」

手を天に差し出し、呪文を唱える。すると二人の少し遠めの位置に、無数の赤い光りが落ちる。如何なるドライでも、これには驚く。そして納得した。

「へ、へぇ、古代呪文か、さすがマリーの妹!それじゃ、お前さんのその腕を信じて、今夜は熟睡させて貰うかな」

ある意味で自分を凌ぐ能力に、強がって、平静を装おうとするドライだった。

早速焚き火の準備にとりかかる二人、それから、軽く食事を済ませた後、朝早くに備えて、眠ることにする。その間際、ローズは再びマリーの事について、ドライに話しかける。

「ドライは、姉さんのこと、どのくらい愛してた?」

ローズはけろっとした表情で何事もなく、前向きさを感じる表情で二人の恋愛に興味を持つ。

「何だぁ!?諄い奴だな。カビの生えた話しばっかすんじゃねぇよ……。俺が此処にいるっつーことはよ。そう言う事だろうが。寝るぜ!」

ドライは、毛布にくるまり、ローズに背中を向けて、寝てしまう。

確かにローズの質問は、ドライにとって、あまり蒸し返したくない話だ。すこし邪魔っ気に、ローズを突っぱねるドライだったが、それは彼に賞金稼ぎらしくない、ホットでラヴな感情があるせいだ。その証拠に、彼の答はハッキリしていた。ローズは、ドライが自分でクールでドライだと言っていたが、本当は、誰よりも熱くなりやすい性格ではないか?と、そう思えた。

色々考えては見たが、感情論ばかりで、彼に対して纏まった何かが得られない、そんな彼女の目の当たりも、次第に薄暗くなり、眠りについていた。


朝になると、ドライがローズの頬を軽く叩いて、目を覚ますよう促す。彼女もそれに気がつき、目を重たくさせながらも、辺りの薄明るさに気がつき、「起きなければならない」ということに気がつく。たき火を消し、食事も最小限に、二人は馬にまたがり、再び森の奥へと進む。

そんな森の奥を進むだけの日々が、四日ほど続き、やがてを抜け周りが開けると湖が見えた。

「湖が……。ねぇドライ、確かこの辺よね?例の目的地……」

「ああ、だがこの地図じゃいい加減すぎて、本当に此処なのか解ったもんじゃないな」

ドライが疑い深く、湖を見渡すと、向こうの方に、赤い平板の屋根を持つ、白い石造の簡素な小屋が見える。地図の寸借がいい加減で、正確性に欠けるが、恐らくその小屋が目的地なのだろう。アイコンタクトで語ると、馬を軽く走らせる。

小屋の側にまで来たが、こぢんまりとして人気がない。だが、生活感は伺える。その証拠に周りの草は、手入れがされているし、家自体もそんなに荒れ果てていない。が、やはり肝心な人の気配自体がみあたらない。

「ちっ!遠路はるばる来てやったってのに、誰もいねぇのかよ」

ドライは、面倒くさそうにキョロキョロと周囲を伺って、自分の都合通りに事が動かないことに、少々イライラした様子を見せる。

「ええ、でも、誰かは住んでいるみたいね、暫く此処で待ってみたら?」

ローズもまた、落ち着いた様子で、一度馬を三百六十度旋回させて、周囲の様子を覗う。

ドライが、無言のままに、馬から飛び降り、入り口の前で、ドカリと座り込み、壁にもたれ掛かり、目を瞑る。それを見たローズも、飛び降り、ドライの横に座り込んだ。

「ローズ、すまねぇが、馬達の荷物を降ろして、休ませてやってくれ」

「そう言うことは、座り込む前に言ってよ。手綱は?」

落ち着くのか……と、ローズも気を緩めた瞬間に、ドライは我が儘な指示をだす。ローズはプクっと頬を膨らませながら再び立ち上がるのだった。

「別に括る必要ねぇよ、自由にして全部外してやれ、賢い奴は、逃げたりはしねぇ」

ドライは、イヤに意味無く自信満々だ。口だけで指図しておいて、自分は目を瞑ったまま、半分眠り誘われている。森の中と違って、日差しが陽気なせいだろう。ローズが振り返った頃には、もうすっかり寝入っていた。無警戒に寝息を立てている。確かにぽかぽかとして、眠るには丁度良い陽気である。

「緊張感の無い奴、誰のためにこんな奥まで来たのか、わかりゃしないじゃない」

再び彼の横に座る。本当に良く眠っている。首が、コクリコクリとしている。だが、よく見ると、彼の目の下に、隈が出来ている。

「何比奴、いっつも私より早く寝てるくせに、なのに隈なんか……」

そう、いつも自分を朝早く起こすのは彼だ。ローズからドライを起こしたことは、一度たりとも無かったのだ。それに、焚き火の番をした覚えがないのに、いつもドライが食後にひを消している。

ふと、自分が気を配らなかったことを、彼がしていたのだ。いつもなら野宿では、仮眠程度にしか眠っていない筈なのに、此処四日は、熟睡することが出来ていた。パーティでも、夜の見張りは、もめ事の種だ。二人ではなおさらのこと、だがそれもなかった。

「私が女だから?」

フェアではないとローズは思った。自分も一流の剣士である。自尊心に傷がついたが、彼の本質を少し知った気がする。世間ではレッドアイ、若しくは紅い目の狼と言われるドライが、それほど非道い人間ではないことを覗かせた瞬間でもあった。

「しかたがない……」

ローズは、毛布を取り出し、そっとドライに掛けてやる。

その時だった。普段通っているであろう獣道となった場所を、踏みしめる音をさせながら、紺のローブを纏った白く立派な顎髭の生えた一人の老人がやってきた。そして、二人を見るなり、こう言った。

「帰れ!悪党にしてやることなど無い」

気迫のこもった、落ち着いた渋い声で、ローズと視線を合わせることなく入り口の前に行く。しかし、ドライの身体が邪魔で、戸を開けることが出来ない。

「すまんが、このデカイ奴をどけてくれぬかの、仕事の邪魔だ」

「自分で言ってみれば?」

悪党と言われたことに、少々ムッと来ていたローズは、突き放すように言う。確かに、今の自分等は、善人とは言えないにしろ、悪党までは落ちていない。特にローズは、目的が目的で、賞金稼ぎは、生計を立てるための手段だ。好き好んで賊を殺しているわけではない。

「ふん、何の用かは知らんが、邪魔はせんでくれ、儂には探求せねばならぬ事がある。人殺ししかせぬバカには、解るまいが……」

これを聞いて、ますますカチンとくるローズ。

「バカ?人殺し!?悪党までは我慢できるけど、後の二つは撤回して貰いたいものね!そこまで言われる筋合いなんて無いわよ!」

思わずローズは立ち上がり、怒りの言葉を吐きかける。ただし、距離は一定以上に詰めることはなかった。

「血の臭いしかせぬ者が、人殺しではないのか?人殺しは、バカばかりじゃ」

その目は、人殺しに対する憎しみで、満ち溢れていた。そこには、何や等の理由があるようだ。だが、それと、彼女に対する侮辱は別だ。

「言っておくけど私たちは、賞金稼ぎ。法で認められた職業よ。無闇に人殺し扱いして欲しくないものね。盗賊ほど無秩序に、人を殺したりはしない、殺すのは奴等だけ、解る?お爺さん」

取り敢えず、無駄と思える説明をあえてしてみせるローズ。少し自分を落ちつかせるものでもあった。賞金稼ぎと盗賊は、紙一重だ。説明されなければ、解らないところがある。

「同じ事じゃ、法で許される殺しなど……、其れこそなんと無秩序な世の中じゃ!!」

やはり、先ほどと同じ目で彼女を見る。この時ドライが、また寝言を言う。

「マリー……、愛してる……ぜ」

緊張感の無い声で、ぼそぼそと言う。だが、彼の言っていることは、二人にはハッキリと聞くことが出来た。呟くようではあったが、そこには何とも言えない、愛情深さがあった。ドライは、相変わらず。コクリコクリとして、目を覚ます気配はない。それでも、マリーを愛してるといったドライの表情は何とも満足そうなのだ。賞金稼ぎのくせに、何とも平和そうな寝言である。

突然だったので、老人も吃驚した様子で、ドライを見下げる。

「マリー?お前さんの、名前か?」

どうやら、ドライの、「愛している」の言葉に、心を少し動かされたようだ。先ほどと違って、少し凄みが取れる。こんなヤクザな男が愛する女の顔を見てやろうと、ローズを見たのだ。

そんなローズは、サバサバとして少々ワイルドな部分が感じられるが、確かに美人であり、薄汚れた表情をしていない。

「違うわ。私の姉さんの名前、マリー=ヴェルヴェット、言い遅れたけど……、私の名は、ローズ=ヴェルヴェット。彼は、ドライ=サヴァラスティア」

老人はドライの名を半分で聞きながら、口の中でマリーの名を反芻する。

「マリー……、マリー=ヴェルヴェットか!確か、あの魔法考古学者の将来の星と言われた、世紀の発見をし、不慮の死を遂げた。あの?……、彼女の妹?お前さんみたいなのが……」

マリー=ヴェルベットの名を聞いた瞬間、今まで不機嫌だった表情が驚きで満たされる。大変な食いつきようだった。思わずローズの両肩を掴み、マリーの妹であるローズの顔立ちに興味を持ち始める。

「悪かったわね、私みたいなので……、でもどう?少し興味ある話じゃない?その原因について……」

彼の反応に併せるかのように、ローズは切れよく切り札っぽく、決めゼリフを言った。それから手慣れた様子で、老人をサラリと払い退け、一度背中を見せる。マリーは、知るところには、知られているようで、彼はぐうの音も出なくなってしまう。その秘密を知りたいらしい。

「入れてくれたなら、考えないでも無いけど……、その前に、と」

ローズはドライに近づき、彼の頬を叩き、起こしにかかる。が、彼の反応は、こうだった。

「お早うのキス……んん…………マリー……」

ドライはムニャムニャと夢の世界に入り込んで、ご機嫌になっている。

「何を訳の分からないことを……」

ドライはまだ寝ぼけているのか、寝言を言っているのか?ローズには理解できない状況にある。仕方がなく、だが、あっさりとマリーの代わりにその唇にキスをしてやる。

「チュッ、ほら起きた!起きた!」

仄かに女らしい香りとフンワリとした唇の柔らかさに、ドライの目がゆっくりと開く。そして目の前にローズが居ることに気がつく。

「なんでぇ、いい気持ちで寝てたってのに、ん?」

目を覚ますと、すぐに状況を理解したらしく。すくりと立ち上がる。だが、その際に、バランスを崩し、すぐに転んでしまう。

「いっけね、足がなかったんだ。全くやりにくいぜ」

もう一度ゆっくり腰をあげる。今度は、まともに立てたようだ。取り敢えず老人は、渋々ながらも二人を中に入れてくれた。

少し広めの一部屋で、中には鍛冶に使われると思われる道具が多数と、申し訳なさそうに、テーブルと椅子が数脚あるだけだ。生活の臭いは、皆無だ。

老人は、二人が隣り合って座ったちょうど向かいの真ん中辺りに座る。それから真剣な眼差しで、先ほどのローズの答を求めた。

「それで、マリー=ヴェルヴェットの死因は?」

ところが、である。

「実は言うと、姉さんが誰に殺されたのかは、全く持って皆無なのよねぇ」

お手上げの状態をジェスチャーで、表現してみせるローズ。そのあまりにもいい加減なやりとりに、ドライは大声で笑い出す。ローズは中まで入るために、ワザと知ったか振りをしたのだ。元々ドライが、マリーを殺したと思っていた彼女に、真犯人が分かる筈もない。

「ハハハ!なんでぇ、お前は……。俺、一瞬マジに全部知ってんのかと、思ったぜ。吃驚した」

「この小僧共が!!いっぱい食わしおって!!出てけ!!」

当然の行動だが、彼は啖呵を切って!テーブルを激しく叩き、怒りを露にする。

「でも、ドライなら何か知ってるでしょう?」

意味有り気に、ニヤリと笑い、ドライの方を向く。ドライも少し意外な様子を見せ、ローズに目線をあわす。それから、自分の知っていることを話し始めた。

「良いか、俺は同じ話を何度もするのは、性にあわねぇ。俺とマリーを襲った奴は、黒装束を着た妙な連中で、誰を狙ってたかって言われると、両方だ。奴等賊じゃねぇ、今まで色々嗅ぎ回ったが、埃もでやしねぇ……。とにかく黒装束だ。修道院の尼さん風の……、でも連中男だったっけかな?」

ドライは、半ば古い記憶を絞り出すように、一つ一つを区切って話した。その様子に、老人は顎に手をやり、髭を撫でながら、ドライの言葉の中に、何か思い当たる節があるかのように、言葉をこう繰り返した。

「黒装束か……もしやの……」

老人は立ち上がり、部屋の中をぐるぐると回りながら、その言葉ばかりを繰り返す。それからぴたりと立ち止まる。

「どうしたジジイ、何か思い出したか?」

この言いぐさに、少しムッとしながらも、思い出したことを、二人に話し始める。

「古代魔法が生まれ、幾年した頃か、とある魔導師の伝記があっての、もしや其れを模しておるやもしれぬな。伝記なら、魔導師を仰ぐ者達は、世界を統べるために、人のある感情を利用したのじゃ」

「何だそりゃ!?」

「しっ!ドライ、だまってて……」

ローズに手で口を塞がれるドライ。ローズの目は、深く瞳を輝かせながら、老人の方に向いていた。考古を語る老人は、ローズにマリーを思い出させる。

「信仰心じゃ。魔導師が黒を好んだ事で、黒の教壇と呼ばれて居るが。力を得た魔導師は、途轍もない力を手にし、世界を思うが儘に作り替えようとしたらしいのじゃが。しかし、密教じみた彼ら故、表だった行動はあまり好まぬはずじゃがな……」

少しだが、間が空く。ローズは少し息をのんだ。まるで子供が、映画のクライマックスに、息をのむように、である。その後その魔導師がどうなったのか?尤も、現状を見ればその支配の影もないことで、失敗したことは想像に難くない。

「俺には関係ねぇや、で、その何や等が、何で俺達を狙ったか……だ」

だがドライは、全くそんなことには無関心なようだった。

「そうであったな、お前さんにとっては、その方が重要じゃったな。お前さんの事はわからんが、何故マリー=ヴェルヴェットが、狙われたかはうっすらと解った。あくまでも推測じゃが……」

再び老人が、椅子に腰を掛ける。ドライは、その勿体ぶった態度に、テーブルに指を立て、騒がしく音を鳴らした。

「なぜ、儂が彼女の死を知りたかったか……、じゃ、そこにお前さん達との、共通点がある。だから、悪党でも話だけはしてやる。解ったな」

「解った解った。早く言えよ」

ドライは、イライラしながら落ち着き無く話の続きを求める。テーブルを突いている音が何とも騒がしい。

「よし、だがその前にいくつか質問をする。彼女が有名になった遺跡で、何を見つけたのか?じゃ」

老人は再び話の腰を折る。だが、其れを語る目は真剣そのものだった。

「いいや、知らねぇ。だが彼奴は、何かは解んねぇが、これは魔法を大きく越えた物だと言ってた」

少し話がそれたような気がしたが、ドライも馬鹿ではない。話をスムーズに進めるため、疑問を心に残しながらも、これに答える。

「―――じゃろな、彼女が魔法考古学学会に送った資料は、古代魔法の中でも凄まじい物じゃった」

「早く言えって」

今度は、拳を握って、テーブルの上に、三回ほど、コンコンコンと叩いて話の続きをせかす。

「うむ。それは、大陸をも空に浮かべてしまうほどの、凄まじい魔法じゃ。三年前それが学会で解った。その力はやがて、古き意志に従う彼らとしては、必ずや大きな障害となり得る」

予想だというのに、何だか確信めいている。そんな老人の目は力強かった。しかし、直ぐに虚しそうに溜息をつくのだった。

「惜しいのぉ、つまらん過去の幻想のために、将来の星が欲のために消えてしまうとは……」

此処で老人は、がっくりと肩を落とす。よほど、将来のマリーに、期待を寄せていたらしい。肘をテーブルの上につき、両手を組み、その上に額を乗せる。

「で、ジジイは、何でそんな事を知ってる?」

ドライが、淡々と、次の疑問をぶつけた。自分が世界中をかけずり回っても殆ど情報が得られなかったというのに、此処へ来て妙にトントン拍子に話が進む。出来すぎだ。こういうストレス無く進みすぎる話は、警戒するのだ。うますぎる話の流れには、必ず落とし穴がある。話の内容にも、現在にも、老人にも警戒感を覚える。長年こういう世界にいる、彼の悪い癖でもある。真っ直ぐに他人を信用することは出来ない。

「わしは、その学会の長、バハムート。そして一人の鍛冶屋じゃ、今は一人で、静かに此処で暮らしておるがな」

学会とは、考古学会の事であり、アカデミーとも呼ばれている。この世界において考古学会は、単なる学会と言うわけではなく、人類が失った技術を再び世界に蘇らせるために集まった、世界に唯一無二のエリートテクノロジスト団体であり、敬意を表してをそう呼んでいたのだ。

学会またはアカデミーと言えば彼らであり、それ以上それ以下も存在しない。

世界の秀でた人材達が此処に所属することを夢見ており、マリーはその中の逸材であり、ドライと巡った遺跡で、一つの謎に直面したのである。そして、その遺産がアカデミーにより解読されたという事なのだ。

ただ若すぎるマリーには、実績がなく、その研究費用もままならなかった。そんな中、マリーはドライと出会い、二人は愛を育んだのだ。

ローズは姉の影響で、バハムートの話には関心をしていたが、ドライは相変わらずだ。椅子に凭れて、彼の話をつまらなそうに聞いている。だが決して、その視界から老人を外すことはなかった。ただ、難しそうな話に対して退屈なのも本音である。

「で、俺はマリーの話をしにこんな辺鄙なところに来たんじゃねぇ。実は俺の義足をなおしてもらいてぇんだ」

ドライは、投げ遣りな態度で、テーブルの上に、剥き出しの義足を無造作に置く。

其れを見たバハムートも、それがただの義足で無いことに直ぐに気がつく。

暫く、集中力のある鋭い表情で義足を眺めている。かなり複雑そうな表情だ。機能を複雑に思っているのか、修理を難しく思っているのか解らなかったが、とにかく複雑な表情だ。

バハムートの表情から、彼が適当な言葉で自分達を追い返す気が無いことを、ドライは悟る。

「どうだ?」

もし義足が修理できないものだとして、黒装束がバハムートのいうように、何らかのカルトであったとし、マリーの足取りとその敵討ちの旅をするドライには、不利すぎる条件となる。彼にとって、重要なことだ。まさに固唾を呑む一瞬だったのだ。

「うむ、修理自体は、すぐじゃな、じゃが……」

それから暫く、また義足を眺め続ける。正し、最初に義足を調べていたときのような、気むずかしい表情ではなく、表情は興味と探求に満ちる鋭いものへと変わっていた。テクノロジーに対しての探求は衰えていないようだ。

「だが?なんでぇ」

タメのあるバハムートの言葉に、ドライは驚かされながら、義足の修理に対しては、それほど難解な表情を見せないバハムートに、ほっとする瞬間だった。

「お前さん、この義足は、歩くときに、本当の足と同じ様に、触れた物を感じることが出来るのか?」

「もっと解り良く言ってくれよ」

そんなドライの頭の周囲に「?」が、クルクルと軽快に回り始める。バハムートの言わんとしている言葉の意味が理解出来ない。

「つまり疑似神経が組み込まれておるか、じゃ」

どちらにしても、ドライには難しい質問のようだ。暫く首を捻っている。「?」が更に増える。

「焦れったいのぅ、どれ!!右足を出してみぃ」

バハムートは、重たそうにテーブルを押しのけ、ドライの右足の金属板に、義足を当て、それから手で、何回かコンコン!と義足を叩いてみる。ドライの反応は、全くと言っていいほど無い。だがこれでは、誰でも反応はない、別に痛くも痒くもないからだ。何かをしたいのだろうが、何をしたいのかが解らない。

今度は、奥の方から、金槌を持ってきて、義足の臑の辺りを、強めに打ってみる。だがやはり、ドライの反応は皆無だ。それからバハムートは、ドライの方をチラリと見てから、今度は、左足を打ってみる。あまり遠慮のない叩き方で、唐突すぎてドライはビックリして身じろぎしてしまう。

「イッテテ!なにしやがるジジィ!!」

反射的にバハムートから金槌を奪い、自分の後ろにいるローズに渡す。

「なるほど、この義足には、疑似神経は組み込まれていないな」

「だから、何だってんだよ!!」

ドライは、まだ何のことかは、理解できていないようだ。

「早い話が、痛みとかを、感じるかってこと」

そこでご丁寧に、ローズが簡潔な説明をしてくれる。ローズにはバハムートがなにをしたいのかが、理解出来たようである。

「その通りじゃ、痛みは重要じゃぞ、義足が折れてしまった原因は、お前さんがその限界を察してやらなかったからじゃ。それと足場を掴むのに、やはり地面の感覚を知るのは重要じゃ、戦士としてこれは致命傷じゃな。お前さん、よくこれまで生きて来れたのう」

関心をしているようではあるが、あまりにも命知らずなドライの生き方に、呆れた溜息をつたバハムートは、少し蟹股気味に座った両膝に手を突いて、首を左右に振る。

「俺は天才なんだよ。戦闘じゃ、千対一でも勝てる自身があるぜ」

この前、賊に殺されかけたことなど、もう忘れてしまっているかのように、自慢げに言っている。これに対しては、バハムートは呆れるしか術がないと言った感じで、ふっと、再度溜息をつく。

どうやら、ドライに命の大切さを説明したところで、あまり意味がないようだ。

「どうするね、疑似神経を組み込めば、おそらく義足の自由度は、従来の比じゃ無くなるぞい」

いくらドライが向こう見ずな賞金稼ぎだといっても、その行動がマリーのためだというのなら、態々致命的になり兼ねないハンディキャップを放っておく訳にはいかない。彼の義足を元に戻さなくても、彼のような男ならば、道を諦める事は無いだろうと考えたバハムートは、ドライが持っていない、もう一つ上を行く結論を持ちかける。

「ああ、よくなるんなら、好きなようにしてくれ……」

「五日ほど、時間を貰うが構わんな?」

「そうか、んっじゃ任せるわ」

全ての問いに簡単な返事だ。だがローズはこれに対して、少し吃驚した感じだ。素っ頓狂な声を出して、ドライの肩に手を置いて、彼を前後に揺さぶる。

「五日?ねぇ!こんなお風呂もないところで、五日も足止め!?冗談じゃないわよ。先に進むなら、我慢するけど!」

ローズは、ただ一所にじっとしているのが、苦手なようだ。マリーもそうだった。ドライはまた、ローズとマリーを重ねてしまう。センチメンタルな気分になるつもりは無いが、やはり姉妹なのだろう。それを思うと、思わずクスリと笑いたくなる。ドライが、イヤにニタニタしていると、ローズが不服そうにもう一度席に座りなおす。

ここに来てドライが時間に拘りを持たなかったのは、やはり機動力がないことは、この先の旅により大きな遅れが生じてしまう事を知ったからだ。

思わぬ所で、足止めを食ったローズが、ふくれていると。

「風呂はないが……、温泉なら沸いとるぞ、少し東へ行けばじゃが、ついでに儂の家もある。寝泊まりはそこでするがいい」

義足を眺めながら、半ば譫言のように、ローズの不服に答えるバハムート。だが、この答に一番に声を出したのは、ローズではなく、ドライだった。

「温泉?か……」

「温泉……」

その後に、ローズが、声を出す。考えてみれば、ドライは、怪我をしてから此処まで、全くと言っていいほど、身体の手入れをしていない。森の中を彷徨っていたことを考えると、もっとになる。

「俺、行水したのが、十日前だから……」

「不潔……」

別にドライは不潔な訳ではない。盗賊の追跡が必要な場合は、そんな悠長な事など言ってられないというだけのことだった。今回は移動中だったり、義足が壊れていることに気を取られていたりと、彼なりに心のゆとりが無かっただけの事なのだ。


早速二人は、必要な着替えを携帯用の袋に詰め、その温泉に向かって歩き出す。湖の横手を歩くことになったので、その道のりはさほど複雑では無かった。その際に一軒のこぢんまりとした家が見える。恐らくそれがバハムートの家だろう。こぢんまりとはしていたが、漆喰の壁をもった、なかなか確りとした建造物だった。バハムートは、無駄に広い場所を住まいとして好まないようだ。そんな彼の寝屋を通り過ぎ、湖から少し離れた位置に着た。


「これ、マジかよ」

まずドライが驚嘆する。

「なんなのこれ……」

そしてローズはその馬鹿でかい池に手を入れてみる。それは正しく温泉だった。熱くもなく、冷たくもない、ちょうどよい温かさだ。周りは少し、岩場のようになっており、中央には、上部が平らで、上れそうな岩がある

静かな湖面に映し出された青い空と、万年雪を頂いた峰峰と、濃い新緑の森を映しだした、その光景は何とも雄大で、心にリラクゼーション効果をもたらしてくれる。

温泉の深さも深さも丁度良いようだ。と、確認が取れると、ローズの顔がとたんに、にぎやかにニコニコと喜び出す。

「よーし!」

勢いよく、鎧を脱ぎ、下着を脱ぎ、簡単に裸になって、そこに飛び込むと、気持ち良く水が飛び散る音がした。それから背泳ぎで、すいすいと泳ぎだした。見ていて実に気持ちよさそうである。取り敢えずドライも、数日の汚れと疲れきった肉体に、休養を与えることにした。荷物を置き、服を脱ぎ、静かに身を沈め、岩場に腕をかける。

「ああ、いいねぇ……」

何となく親父臭くなっているドライだった。湯に浸かると解る事だが、体中が冷えていることに気がつく。緊張していた筋肉が、少しずつほぐれて行くのが解るし、身体が溜まった炭酸ガスを吐き出したがっているのが解った。

ローズは、相変わらず泳いでいる。そんな彼女を、ドライは鼻の下をのばしながら、目の保養にしている。だがローズは、そのようなことは全く無視している。

ややもすると、気分転換が終わったのか、その場に立ち背を伸ばし、ドライに背を向け、向こうの森の後ろに小高い山の碧く綺麗な景色を眺めている。

それにしても彼女は、見事なプロポーションをしている。一人で気を張り旅をしていた事もあり、少し痩せて感じたが、無駄のない背中といい、括れた腰つきといい、引き締まった太ももといい、張りのあるお尻といい、どれを取っても一級品である。

「良い景色ねぇ」

ローズは、額に手をかざし、雄大な自然の景色にすっかり心を奪われているのだった。

「ああ、いい眺めだ。マジで……」

ドライも眺望している景色に、感嘆する。

二人の言う景色の対象は、全く違っていたが、寛いでいることに変わりはなかった。景色を眺め終わったローズが、ドライの方にやってきて、横に座る。

「いい眺めだったぜ」

ドライは済ました表情で、一度目を閉じる。

「男の人って、可愛そうねぇ……」

おかえしとばかりに、湯船の中のドライを横目で眺める。だが、ドライも別に、自分を隠すような事はない。

「へん!どうせ男の性って奴よ」

ローズに、痛いところを突かれ、開き直りつつ、お湯の温もりを味わう。どうやら下半身の反応は収められそうもない。澄ましたドライの顔と下の対照的な態度に、ローズが面白半分に腕に絡んできた。柔らかい感触が、ドライの目を開かせた。

「な、なんだよ」

ローズがさばけた女であることは何となく解るところだが、此処まで距離感を無視されてしまうと、ドライの方が照れくさくなってしまう。

「我慢しちゃってさぁ、ふふふ、可愛いじゃん」

「てめぇ、犯すぞ……」

ドライの目が一瞬、マジになった。だが、顔だけはすぐ平静を取り戻す。それから、ローズの肩を抱く。特に意味はなかった、何となくだ。それに勝負を挑まれているのに、逃げ回るのは性に合わない。

「おめぇよぉ、もうちょい弁えろよなぁ、それとも俺を誘ってんのか?」

「ゴメン。少し試した。でも安心した。尤も酷い男だと思ってたから……」

その時、本当に作っていない、にこやかな笑みを見せるローズ。ドライの腕に、本当の柔らかみが伝わってくる。自分がテストされていることにを知ったドライは、妙な落ち着きが戻り、ただ単に沸き上がるだけの衝動は、徐々に収まりを見せ始めた。

「そうまでして、お前をつき動かすマリーって、一体……、お前にとってマリーは、何なんだよ」

そう、ローズは、マリーを愛したドライという男を知るためのテストをしていたのだ。ローズはドライという男を知りたがっていたのである。ドライは自分がマリーに相応しいかどうかなどは、考えていなかったが、ローズという女が、胸に刻んだ思い一つで、全てをかなぐり捨て、此処までやってきた事を凄く思ったのだ。その原動力がマリーなのである。

「そうねぇ、何なのかしら……、ただの強烈な感情……、かな?夢のない賞金稼ぎが、夢のある姉の夢を奪った。潔癖にそれが許せなかった。大好きな姉さんだもの。ドライは?」

そう言ったローズは、もう一つ距離を縮めるべく、大胆にドライの足の間に入り込み、彼の胸板に後頭部を付ける。ドライは、軽く彼女の下腹部あたりに手を回した。

「無性に気にくわねぇ、それだけかな、俺の中の彼奴に収まりを付けるためだ」

「あと、何年続くのかなぁ、こんな事……」

ローズは、湯の心地よさに目をとろけさせ、首を傾けて眠りに入って行く。そんなローズはほっとした表情をしている。

「全くだ……」

ドライは体中の力を抜き、自分を委ねているローズをギュッと抱きしめた。ローズは自分の身体をドライに預けると言っているのだ。何をしても許すと言っている。彼女の脱力感が其れを良く表していた。

だが、ドライはそれ以上ローズを求めなかった。それは、今、衝動的にローズを抱いてしまえば、自分の愛したマリーを、自分で失ってしまいそうな気がしたからだ。

ローズを愛したマリーの為、自分の愛したマリーの為、マリーを愛したローズの為、ドライはただローズを抱きしめるだけに止めるのだった。自分達は旅を続けなければならないのだ。


ドライの義足が、完成するまで、退屈すぎるほど平和な生活が続く。久しぶりに人間的な生活に、ドライは欠伸の連続だった。暇を感じては湯に浸かり、だるくなっては、ベッドに潜り込む。噂では強者だが、これの何処がそうなのであろうかと疑ってしまいたくなるほど、緊迫感に欠けた生活態度だ。でも彼がドライであることは間違いない。


いよいよ義足の完成した日、ドライは早速試着してみる。

「お、これは良いねぇ、歩いてるって感じがして……、ナイスだぜ」

壊れた留め具も直っており、踏みしめたり膝を捻ったりしても、全く違和感なく体重を乗せることが出来る。

「ふん、悪党に誉められても、嬉しくともなんともないわい。それで、やはりマリー殿の敵を討ちに行くのかね?」

バハムートは、彼の目的を知っているし、そのために足を修理したが、それでも彼の心次第で、新しい世界や生活がある。本当にマリーを愛しているのならば、日の当たる道を望んだはずだ。口には出さなかったが、彼がその気があるのならば、アカデミー直属の護衛兵になることも可能だ。

敵討ちなど、全てが終わってしまえば、こんな不毛なことはない。今まで費やしてきた時間と気持ちの行き場をどうすればよいのか解らなくなり、新しい生き方を失ってしまうからだ。まだ先のある若者の将来を心配する一人の老人としてのバハムートの姿が其処にあった。

しかし、ドライの目は既に、前に進むことにしか集中していなかった。バハムートは、今ドライに何を言っても無駄な事を知る。

「ああ、気がおさまらねぇ」

そしてドライはその一言で全てを片付けてしまう。バハムート本当に言葉を失ってしまい、首を横に振り、命を無駄にしかねないドライをもったいなく思った。


「世話になった。サンキューな」

ドライが義足の礼を言うと、二人は早速、森の中を行くことにした。今度は東だ。また別の街へと向い馬を走らせる。言い忘れたが、街の鍛冶屋は彼の息子さんだそうだ。不出来で仕方がないと、この五日間思い出したように愚痴の連発だった。結局あの紹介状よりも、マリーという一つのステータスの方が説得力を持っており、あの紹介状を見るなり、バハムートは捨ててしまったというのは、余談である。


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