表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゆめにっき  作者: 狐鞠
2/2

2日目

  まるでお粗末なアニメのような木でできた釣竿に、おもちゃのようなルアーをつけて、ぼくは釣り糸を垂らしていた。腰掛けている岩肌は決して座り心地が良くはない。比較的波は穏やかだ。

  くんっ、と釣竿がしなる。ぼくはすぐさま不安定な足場の踏ん張りどころを探した後、ぐい、と釣竿をこちらに寄せる。

  ――が。ぷつり、と糸がきれ、ぼくはその場で尻もちをつく。


「ああ……」


  思わず溜息が漏れる。釣竿が無事だったのはいいが、ぼくにはもうエサになるものがない。もう帰ろう。そう思って岩場を登っていると、背後からばしゃり、と音がする。水面にはヒレのようなちいさな山が浮かんでいた。


「さ、サメ?」


 ぼくが恐る恐る近寄れば、水面に浮かんだ目の部分に白い模様が見えた。


「シャチだ!」


  ぼくは嬉しくなって水面ギリギリまで下りると、シャチもこちらに寄ってきてくれた。そのうち、シャチが口元をこちらに寄せてくる。そこに咥えられていたのは、先程までぼくが使っていた粗末なルアーだった。


「ぼくのルアー!」


  手をのばせば、ぼくの手元にそれが戻ってくる。


「きみが釣れたのかな? すまなかったね」


  シャチの背を撫でてやると、まるでおねだりをする犬のように尾をばたつかせながらぼくの傍らに寄り添う。


「気持ちいいかい?」


「ああ、気持ちいいな」


  低い、テノール歌手のような男性の声が聞こえてきて、ぼくはびくーっ、と体を跳ねさせる。


「ああ、すまないね。あまりに気持ち良かったから、つい」


「きみは話せるのか!?」


「長年生きているからね。それよりも、私は鼻の下あたりを撫でて貰う方が好ましいんだ」


  そう言うと、シャチは口元をぼくに向ける。


「ここかい?」


「いや、そこじゃない」


  シャチはヒレでぼくの手を誘導する。


「ここ?」


「そうそう。あー気持ちいい」


  満足気にキュ、キュ、と鳴くシャチを見て、ぼくは口元を綻ばせたのだった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ