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1日目
ぼくの左側でキャリーバックの中からにゃあにゃあと不満そうな声が聞こえる。ごめんよ、出してやれないんだ。そう言ってあやす様にネット越しに彼女をなでる。
ガコーン、ガコーン、と時折音が聞こえてきて、ぼくはあたりを見渡す。部屋の隅まで同じ列が規則的に並んでいて、球体が闇に飲み込まれていく。
「いらっしゃいませ」
振り向けば黒服の無愛想な若い青年がこちらを見ていた。
「体温測定をお願いします」
ぼくは慣れた様子で手首を差し出す。
「猫も」
「猫も?」
「ハイ。肉球で良いので」
ぼくは猫を出してやり、膝に座らせる。店員は肉球を摘むと、紙の様なもので体温を測った。
「大丈夫です。料金についてですが、ボーリング代と交通費になります」
「交通費?」
「決まりなので」
「それから猫の分ですが、こちらも料金と交通費になります」
「猫の料金!? それに猫にも交通費が居るのか?」
「お客さん、何を言っているんですか。市の条例です、当たり前でしょう?」
「そんな……」
馬鹿な、そう言いながらぼくは朝日を浴びたのだった。