異世界初の料理と衛生教育
なるほど・・・・・・
取り敢えず、どう料理するのか見たくて、領主様の所に、蛟の身肉を預けるだけで、自宅に帰ったんだけど、
領主様の所の使用人が、調理の仕方が解らなくて、助けを求めて来た理由が解った。
うん。この世界?この辺りの地域?カニや貝やカエルを食べる事は有るけれど、魚はあまり食べないらしい。
理由は簡単。
極力 水辺に近寄らないのが、この世界の常識だからだ。
まぁ・・・・・・ あんな蛟が存在するんじゃ、釣りも含めて、魚を入手するのが困難だよな。
だから、魚などの水中に棲む生き物の食べ方が解らない。
まして、俺が手渡したのは、これまで食べる事の無かった蛟の身だ。
「普通にお肉みたいに使えば良いんだよ。塩で煮る焼くで美味しくなるから」
そう説明しながら、蛟の身を五センチ角に切って、串に刺して焼く。
イカみたいな感じも有るから、燻製にした二十センチ角程の大きさの身肉は、一センチ幅で厚切りにして、汁物の具にする。
多分 良いダシが出る筈だ。
一センチ角に切って茹でた蛟の身を、ネギの様な野菜と絡めて、ヌタ風に仕上げた物も作った。
味付けは、俺が全部 確認したから、これまでより薄い事は無い。
まぁ・・・・・・ 薄味文化のこの世界に合わせて、極力 塩を控えたけどね。
野菜の中心は芋。
芋とは言っても、ジャガイモやサツマイモでは無い。
里芋の様な芋だ。
ジャガイモやサツマイモみたいな芋も有る様だが、それらの芋は、そんなに作付面積が無い様だ。
里芋系統の芋は、大量に水が必要だから、ここで栽培するのは大変だろうに・・・・・・
洗って皮を剥いた芋は、蛟の燻製を煮ている鍋に入れて、弱火で火を通す。
長ネギの様な野菜も一緒に煮る。
アブラ菜みたいな野菜かな?葉物野菜も加えた。
米や麦と近縁だろうと思われる穀物も有るが、芋よりも貴重な様で、毎日は食べられない。
今日は、お弁当として昼間に握り飯を貰ってたので、夜は米は無い。
って事で、夕食の蛟を使った三品が完成した。
鍋には、カニの身やカエルのモモ肉に殻を剥いた貝も入れてある。
串焼きも、蛟以外に、殻を剥いた貝の身も串に刺して焼き、カニも甲羅を剥いだ胴や脚も殻を割ってから焼き、カエルのモモ肉も直火で焼いた。
かなり完成度が高い夕食じゃないかな?
「うーん・・・・・・ こんな食材が、普通に食べられる環境になると良いんだけど・・・・・・」
「無理ですよ。こんな豪華なのは、ガロン様もそうそう食べられないです」
「そうなんだ?」
「はい。特に竜なんて・・・ そうそう食べられる訳がないじゃないですか」
「そっか?」
領主様の所の調理を担当している使用人に、全否定されてしまった。
でも、便利な日本で生きてきた俺としては、この程度で【豪華】と言われる様じゃ困る。
元の世界の食の再現は、俺としては絶対に成し遂げたい。
まぁ・・・・・・
寿司とか、なかなか難しい物も多いだろうけどね。
「さて、鍋も煮えたし、持って行って食べようか」
「運ぶのは使用人でしますので、アユム様は座敷にどうぞ」
「そう?ありがとう」
料理を運ぶのは任せて、言われた様に座敷に移動する。
「アユム お疲れ様!」
「ああ、ナノ ありがとう」
「お疲れ様 料理はどうだった?」
「美味しく出来たと思うよ」
「そう?楽しみ」
ピコが凄く嬉しそうに微笑む。
「お疲れ様 どんな料理したの?」
「ん?普通だよ。俺にはだけどさ。フェムトも食べた事がある様なのだと思うよ」
「お疲れ様 御主人様の手料理楽しみだ」
「ああ、楽しみにしててくれよ。ハハハ」
「本当 どんな料理なのか、みんなさっきから楽しみしてたよ」
「美味しいと思うから、ガロンもしっかり食べてよ」
「ああ、そうさせて貰うよ」
俺が作ったものを持って来てくれた。
「豪華だね!」
これは見た瞬間にナノが発した言葉だ。
「そう?まあ、美味い食材ばかりだから、豪華と言えば豪華だね」
「それじゃ食べようか?」
「そうだね ガロン それじゃ・・・ いただきます」
「「「「「いただきます!」」」」」
「「「「「「!?美味い!!」」」」」」
みんな俺を真似するかの様に、俺が汁物?煮物?ごった煮の様になった汁たっぷりの鍋をよそった椀に手を伸ばすと、みんな椀に手を伸ばして同じ様に食べたが、一緒に食べた全員が、俺も含めて同じ感想を漏らしてしまった。
いや、本当に美味いんだもん。
旨味たっぷりで、程良い塩加減の具材が、口の中に幸せを広げる。
里芋の様な芋は、汁に適度のトロミを与え、その芋には蛟などの動物から出た旨味を吸い、そのとろける様な食感と相まって、極上の美味しさを感じさせてくれる。
もちろん、カニも貝も骨付きのモモ肉も、元の世界とは種類が異なるが、元の世界でも鍋の具にされていた物に似ているのだから、美味しくない訳が無い。
ただ、カニや貝の身は、ダシが出てしまってて、焼いたり蒸したりした方が、鍋より美味しく食べれそうだ。
カエルのモモ肉は、旨味が鍋に出てはいるが、他の具材の旨味も吸っていて、鍋なりに美味しく食べられた。
もちろん、長ネギみたいな野菜も、アブラ菜みたいな野菜も、それら旨味の溢れた汁を吸い、凄く美味しくなっている。
「さて、次は・・・・・・」
俺が椀を置いて、串焼きなどの焼き物に手を伸ばすと、他のみんなも焼き物に手を伸ばした。
全員 蛟の身を串焼きにした物だ。
「どうかな?」
「「「「「「美味い!!」」」」」」
やっぱり蛟はシンプルに焼いても美味い!
こんな分厚い角切りでも、噛み切れる程の柔らかさだけど、全く歯ごたえが無い訳じゃない。固さとしては、カマボコくらいかな?
でも、カマボコと違って、噛むと溢れ出る肉汁?身汁?旨味が口一杯に広がる。
噛めば噛む程に旨味を感じる。
「次は・・・・・・」
やはり、みんな真似をしてる。領主様 領主なのに俺の食べ方を真似るって・・・・・・
ネギぬた風に作った蛟の和え物を手に取り口に運ぶ。
「「「「「「うっまい!」」」」」」
みんな不思議そうな顔をして食べてる。
「どうしたの?」
「あ、アユム こんな食べ方をしたのは初めてだからだよ」
領主様がニッコニコしながら答えてくれた。
「うん。初めてだけど美味しい」
フェムトも喜んでるみたいだし、二人の言葉に、他の全員も頷いて食べている。
「そうなんだ?味噌って調味料が有ると、もっと良かったんだけどね。俺の住んでた所では、よくやる食べ方なんだよ」
「「「「「へー・・・・・・」」」」」
まぁ そうだよね。味噌も醤油も無いんじゃヌタなんて調理法しないよね。
「ガロン 今日 気になった事が有ったんだけど、今から話して良いかな?」
「良いけど、どうしたんだい?」
「昨日は、本人も居たから言い出し辛くて話せなかったんだけど、衛生の改善が必要かなって感じてさ・・・・・・」
「昨日?本人?えいせい?」
「うん。昨日 シュラがカニとか貝とかカエルとか採ってくれたんだけど、採った後に手を洗おうとしなかったんだよね」
「そう?それが何か問題が有るのかい?」
「うん。凄く有るんだよ。一応 手洗いさせたけど、俺がさせて無かったら、多分 食事の前にも手を洗わなかっただろうと思うんだ」
「うん。それで?」
「手には見えない程に小さい小さいバイ菌って魔物が居てね。それが口に入ると、身体を壊すんだよ。特におしっこやうんちした後や動物を触った後とかに、そのバイ菌が手に増えるんだ」
「えっ?そうなのかい!?」
「うん。そう。しかも、カニとか貝とかカエルには、バイ菌以外にも、同じく寄生虫って小さい魔物がいる場合が有ってね。そんな寄生虫って魔物のいるヤツを捕まえた後に、手に魔物が着いたりするんだよ」
「そのばいきん?きせちゅ?その魔物が手に付いているとどうなるんだい?」
「違うんだ。手に付く事より、そんな魔物が付いた手で、食事をする事が問題なんだよ」
「何故だい?」
「うん。それは、その手に付いた魔物が、食事の時に口に入ってしまう可能性が有るからだよ。まぁ・・・ 寄生虫の場合は、手に付着しただけでも、問題が有るけどね」
「なるほど・・・ それで、その魔物が口に入るとどうなるだ?」
「病気になるよ」
「えっ?病気の魔物は、そうやって身体に入るのか!?」
「そうだよ。だから、手洗いをする習慣が無いのが心配なんだ」
多分 これまでの食事を作る時にも、手洗いをしてなかったんだろう。
「じゃあ、手洗いをしたら、病気にならなくなるんだね?」
「完全に病気が無くなる訳じゃないけど、これまでよりは、かなり減る筈だよ」
「そうかぁ・・・・・・ うーん・・・・・・ 正直 病には困ってたんだよ。それが手洗いをさせるだけで減るのなら、本当に助かる。ただ・・・・・・」
「ただ?」
「手を洗う習慣が無い者達に、手を洗う習慣を身に着けさせるのが困難だ」
「なるほど・・・ 領主として“やれ”と言っても無理なのかな?」
「うん。難しいだろうね。私が見ている所では、手洗いをするだろうけれど、見ていない所では、手洗いなんてしないだろう」
「つまり、読み書き算数だけじゃなく、衛生に関する教育、解りやすく言うと、病の原因が何なのか、どうすれば病気にならずに済むのか、そんな健康的な生活の仕方を学べる方法が必要って事かな?」
「いや、そこまで深くは考えてなかったけど・・・ そうだね。そう言う事だね」
「うーん・・・・・・ 学校でも教えたら良いだろうけど、それだと学びたいって思う人しか、学べないよな・・・・・・ 他の方法も模索するか・・・・・・ ありがとう。良い方法がないか考えてみるよ」
「えっ?それ・・・ 領主の・・・・・・ うん。よろしくね」
だよなぁ・・・・・・
目上の人間に命令されたからって、理由も解らないのに、言われた事を真面目にやる奴ばかりじゃないよな・・・・・・
良い方法がないか、帰ってから考えよう。
同じ世界を舞台にした「異世界『ながらタブ』事情 《異世界タブレット端末普及推進奮闘記》」も書いています。
読まなくても困りませんが、読むとより状況が解ります。




