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旅立ち




「勇者様、もう出発されるとは本当ですか!?」



動きにくそうな重いドレスにも関わらず、愛しのお姫様は私を見つけるなり大慌てで駆け寄ってきた。



「うん、ここで身に付けられる戦闘技術はもう無いからね。魔王がいつまでも大人しく待っててくれるとは限らないし、用事のない場所でゆっくりはしてられないと思って」



自分でも驚く程の成長速度で私が強くなってしまった為、旅立ちの予定を繰上げることにした。

昔から何か新しい事を覚える時に苦労した試しがなかったが、勇者とはこれ程まで武術の才に恵まれているものなのか…と我ながら驚愕したものだ。



「そうですか…」



早まった別れにあからさまにしゅんとした姫様の顔はとてつもなく愛らしく、そして美しい。今日の出発は自分で決めた事ではあるものの、後ろ髪引かれる思いが込み上げてくる。


あぁ、今宵もこの美しい顔が快楽の涙に歪む所をたっぷりと楽しむつもりだったんだけどなぁ。



「まぁこれだけサクサク強くなれるって分かったんだし、ここへ帰ってくるのにそう時間はかからないと思うよ。旅先で移動呪文を覚えたらいつでもここへは来られるし」


「ほ、本当ですか…!?では私、その時の為に例の魔法をお勉強しておきますね!」


「いや魔王討伐前に孕まされたら洒落にならんから」



ていうかここ3日間毎晩啼かされてるのにどうしてこのお姫様は攻めの立場に拘っているんだ。



「あの、勇者様…」



呆れる私を姫が上目遣いで見つめてくる。



「実は貴女に御守りを作っていたのですが、完成が間に合いそうにないのです」



突然の告白に胸が苦しくなった。客間で彼女を好き放題したあの夜からずっと、姫様は私だけを見ているように思う。

こんなにも真っ直ぐに、私は誰か一人を愛した事がない。



「良いよそんな…私なんかの為に」



思わず目を逸らす。


これまでは相手の了承の下、ただただ遊び感覚で色んな女の子を食い散らかして来た。勿論この旅の道中でもそうするつもりだ。

勇者でなければ私は可愛い女の子が大好きなだけの遊び人なのである。


姫様と初めて会ったあの夜も、当然彼女に本気でない旨は伝えたし彼女もそれを呑んだ。

でもその先は、いつもと何処か違っている。



「いいえ、私が貴女の為に何かしたいのです」



濁りの無い透き通った声で、一寸の迷いもなく好意を届けてくる。


彼女の気持ちを受け取りたくない。

これまでも同じ熱量で返せない想いは全て跳ね返してきた。一度でも出来ない約束をすれば、遊び人としての寿命を縮めてしまう。


震える声で絞り出すように呟く。



「…優しいな、姫様は」



断るべきだったのだ。全て終わったら結婚するなどという不確実な約束は、自分も相手も傷付ける可能性を孕んでいる。


それが分かっていたのに、私は了承してしまった。私は守れない約束はしない…つまり約束したからには守ると決めている。



「移動呪文を覚えたら取りに来るよ。それまでに作っておいて」



それを聞くと姫様は花のような笑顔を見せた。


不思議な人だ。いつかこの人だけを見続けられると、私に信じさせてくれる。



「待っていますね」



旅が終わる頃には、堕ちているんだろうな。


愛しい姫君の手にそっと口付けて、私は予感を確信に変える旅路へ進んだ。






読者様の想像の余地を残すべく、登場人物の容姿についてはあまり詳細に書かないようにしているのですが…


むしろ書いた方が良いのでしょうか…



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