姫(4)
兵舎での女勇者の活躍は瞬く間に城中へ広がった。
初日で並の兵士を尽くなぎ倒し、2日目にはこの城で彼女に勝てる者が居なくなってしまったのだ。
「魔王を倒すんですからこれくらいの力が備わって無いと駄目なんですよ。決して貴方が弱い訳ではないのでどうか気を落とさないでください」
膝をつかされ悔しさに言葉を失う兵隊長を慰める少女の姿は、私を含めそこにいた者全員に魔王討伐を確信させる。
「ところであの新米兵士さんとっても可愛いですよね…手出したら王様に怒られちゃうかな…」
「勇者様、姫様の御前です。お控えください」
もちろん良い噂だけで終わらないのがこの女勇者なのだが。
「良いのです、好きにさせなさい」
私の言葉に困惑を通り越し呆れた表情すら見せる兵士達だったが、そんな彼らを尻目に女勇者はスキップしながら新米兵士の元へ向かい楽しそうに話し始めた。
私の世話係の話によると、この女勇者はたった2日でありとあらゆる女性従者を節操無しに口説き落としているらしい。
これが勇者の血のせいなのかはたまた彼女きっての才能なのかは定かではないが、初日に私がそうしてしまったように、彼女には不思議と身も心も委ねたくなってしまう魅力があるのは確かだ。
加えて愛らしさと強さを兼ね備えた少女だ、彼女の熱の篭った目に堕ちていく従者が続出するのも無理からぬ話である。
そして何より彼女の様子を語った若い世話係の恍惚とした表情が、この話の信憑性を最大まで高めているのだった。
さて、彼女の兵舎での様子を私は初めて見たのだが、私の前でも遠慮のない彼女に私は安心感さえ覚えてしまった。
どれだけ大きな使命を背負いどれだけ強大な力を得ようと、彼女は彼女のままでいて欲しい。
感覚が麻痺しているのかも知れないが、重い責務を抱えても尚楽しそうに振る舞う彼女を見ていると、どうにも束縛する気にはなれない。
「許可くれてありがと…夜は沢山可愛がってあげるからね、お姫様」
通りすがり、女勇者が耳元でそっと囁いてくる。ゾクゾクと後ろめたさのある快感が身体中を駆け巡り、すぐに立っているのがやっとの状態になってしまった。
「…浮気してるくらいが丁度いいのかも知れませんね」
消え入りそうな声で呟く。彼女の魅力は山ほど知っている気になっていたが、その実、性欲が彼女への執着の一部となっているのも確かだ。
「姫様、今なにか仰いましたか?」
「いいえ、何も」
熱くなった頬を見られぬよう、私は付き人から顔を背ける事しかできなかった。