姫(3)
大臣は納得していなかったものの、魔王討伐後の結婚は一先ず認められる形となった。
何より私が惚れてしまったのだ、駆け落ちされるよりはマシだと判断したのだろう。あれこれと条件こそつけられたものの、父は受け入れてくれた。
「姫様の嫁になったら私はなんていう立場になるんだろうね」
「ふふふ、確かに前代未聞ですものね」
就寝前の沐浴を済ませた女勇者は私の部屋で雑談を楽しんでいた。彼女の上気した頬が艶っぽく、思わず見とれてしまいそうになる。
「でも良いの?私本当に旅先では好き勝手するよ?」
「ええ…最後に私を選んでくださるのなら」
「変わってるね」
「貴女に言われたくないです」
昨夜会ったばかりの彼女と軽口を叩いてはケラケラと笑い合うこの時間が、今は何より楽しいと思ってしまう。
きっとこの人が他の女性と交合えば嫉妬してしまうだろう。
しかしそれも彼女の魅力なのだと思わずにはいられないのだ。恋は盲目であり、それが良い方向へ向かう事もある。
「御出発はいつ頃になさるのですか?」
「数日はここに居させて貰おうと思ってるよ。何せ私には戦闘の心得がないからね、兵舎で基礎を教えて貰う事になったんだ」
聞けば彼女は剣を握った事も無いらしい。
そんな彼女を魔物と闘わせるなど心配でしかないのだが、王家に語り継がれている先代勇者達も魔王が復活してから修行を積んでいたのだそうだ。
父もそこはあまり気にして居なかったし、本人も今後の生活に不安そうな素振りは見せない。
何でも昔から何をしても卒なくこなせるタイプだったらしく、今思えばそれが勇者たる所以なのかも知れないと言っていた。
「でも魔法もここで教わりたかったな。そしたらもう少し姫様と居られるのに」
「そうですね、貴女が器用なばかりに…」
「まあ少しの間でもこんなに可愛いお姫様といちゃいちゃ出来るならこんな幸せな事ないか」
そう笑う彼女は魔法を畑仕事で楽をする為に軽く勉強したんだそうで、初級魔法なら炎や水の扱いは勿論、回復呪文も使えるのだという。
これは唯の一村人には到底出来ない所業であり、勇者の血の末恐ろしさが垣間見える。
この豊かな才能が彼女の自由奔放ぶりを強靭なものにしているのかもしれない。
「そうですね…ではその…」
「なぁに?」
「ここにいる間は、ぜひこの部屋でお休みになっ…」
言いかけた口が塞がれる。
「…最初からそのつもり」
いたずらっぽく笑う女勇者の首に私は腕を回した。
旅立ってしまう寂しさも軟派な振る舞いへの不安も、今はどうでもいい。
狂おしい程に愛おしい彼女を独り占めできる幸せに、今夜は酔いしれる事としよう。
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「ところで…」
「ん?」
「例の魔法はどちらが覚えるのです?」
「そりゃ私でしょ、姫様孕ませたいし」
「お待ちください!私だってある程度の魔法は使えますし勇者様に私の子を産んで頂きたいです!」
「昨日覚えたばっかのお姫様が勇者の上に乗ろうなんて随分な自信だね」
「それは今後練磨を重ねますし…!」
「いくらお姫様でも勇者の上には立てないんじゃない?魔王すら叶わないんだから」
「やってみないと分かりませんよ」
「ふふ、やれるものならやってごらん」
「後悔してもしりませんからね」
「それはこっちの台詞」
こうして勇者と姫の幸せな夜は更けていく。