3部29話
「ここか……?」
「うん、そうだね」
冬休みに入ったある日、俺と鏡花は病院の一室を訪れていた。
「失礼します」
ノックをして、一応声をかけ病室に入るが、返事はない。 その代わり心拍数を測る機会の音が、ピッピと鳴っていた。
山田雅之、ゆりと鏡花の同級生だ。
事故にあい、今も眠り続けている。
コンコン。部屋の外からノックの音が聞こえる。俺たちの他に誰か来たようだ。
「白石鏡花と高島秀介……!」
やってきたのはゆりだった。
「お前もお見舞いか?」
パジャマ姿に頭には包帯。右腕にギブスをつけた姿だ。
実はゆりが入院している病院と雅之が眠っている病院は同じ場所だ。
「そうですね」
3人で備え付けの椅子に座り、眠っている雅之を囲む。
「私は白石鏡花、あなたが羨ましかったです」
「どうして?」
「才能に恵まれて、理解してくれる恋人がいる。私はいつも1人でしたから」
「私に才能はないよ。ただ周りに認められたくて努力してきただけ」
「努力するのも才能です。私も努力したけど、あなたに適わなかった」
俯きながら言葉を続けるゆり。
「私はこれからどうしたらいいんでしょう?」
「それはこれからお前が探すことだ」
「私が……」
再び俯くゆり。
するとベットから声が漏れた。
「う……ん……?」
「雅之さん!?」
「後藤さん……?」
「そうです!後藤ゆりです!」
「私もいるよ。雅之くん」
「白石さん、無事でよかった」
「こちらこそ、私を庇ってごめんなさい」
「ううん、いいんだ。君が無事なら」
「雅之さん……!雅之さん……!」
わっと泣き出すゆり。
ゆりはこれまでのことを泣きじゃくりながら話した。




