9話
「白石落ち込んでるかもな」
翌日、学校に続く坂道を登る途中で独り言ちる。
朝の登校時刻で、坂道には俺の他に学校に向かう者で溢れていた。
ワイワイと騒がしい中、俺は昨日のことを思い出していた。
昨日、秘密の趣味がバレて泣いていた白石。
勘違いだが、俺を同類と認めるとすごく元気に話す姿。
俺を信じ、大事なものを託した彼女。
コロコロと表情を変える白石のことを思い浮かべる。結局フィギュアを守りきることが出来なく、捨てられるかもしれないという事。
何故か俺自身悔しかった。
例のものは一応持ってきている。
もし置いていって姉さんが部屋を調べて見つかったら、即捨てると言っていたからだ。
などと考えていると登校する生徒たちが、1人の生徒の周りを避けているのがわかった。
髪を両側から下ろしている少女。
間違いない。白石だ。
なぜ避けられてるかと言うと、後ろ姿からでもわかる。
すごくどんよりと重い空気を放っていた。
意を決して彼女に近寄り肩を叩く。
「おはよう。白石、昨日はーーー」
悪かったと謝ろうとしたが、彼女の表情を見て言葉が止まる。
大粒の涙を流していたからだ。
案の定もう既に知られているのを悟った。
好きなものを否定され、捨てられてしまう。
この悲しい結末から逃れられない。
そう彼女は絶望しているのだろう。
なんて言葉をかければいいのか、わからなかった。
俺が絶句していると、不意に白石が学校に向け走り出した。
「待て!」
慌てて追いかける。
ていうか、足早っ!?
走ることに自信がある方だが、白石の足の速さは想定外だった。
昇降口をくぐり、素早く靴を変え白石を追う。2階、3階へと階段を上り屋上のドアを開ける白石。
俺も後を追い、屋上へと足を踏み入れる。
夏の太陽が照りつけるのに加え走ったせいで、ぜいぜいと息は荒く、身体中から汗が流れていた。
白石は既に柵を乗り越えようとしていた。
「やめろ!」
何をしようとしているのか、理解し、慌てて止めに入る。
「離して!もう生きているのは嫌なの!」
柵越しから腕を伸ばし、白石を羽交い締めにして止める。
「悪かった!お前の大事なものを守れなかったのは俺の責任だ!」
「高島くんは悪くない!悪いのは頭の固い両親だよ!」
「なら両親を説得させればいいだろ!」
「どうやって!?」
「お前はバイトしてるのに成績がいい!バイトもしてるのにすごいことじゃないか!お前は頑張ってる!そんなやつの唯一の趣味を認められないのはおかしいだろ!」
どうしてこんなことをしているんだろう?
人と関わりあいを持ちたくなかったはずなのに。だが止まれなかった。
「私じゃ、無理だよ……!何度も言ったのに聞いて貰えなかった……!」
白石の悲痛の叫びが響く。
「なら、俺も協力する!ぶん殴ってでも納得させてやるから!」
「本当に?本当に私の大事なもの守ってくれる?」
「ああ、任せろ!」
泣きながら俺の方を向く、白石。
絶対守ってやる。
そう誓う。
白石はありがとう……!と礼を言い、柵を越えこちらに戻ってきた。




