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結春

作者: kakka

「ぼくとけっこんしてください!」

そう放たれた言葉は周りの背の高い女の人たちの爆笑をかっさらった。

ことの重要性に気づいていない君の視線はまだ、君が背伸びすれば同じ目線になる可愛らしい彼女に向けられている。

「あたしよりも身長低い人とけっこんなんかしたくない!」

そう彼女が言うと周りのピンク色のエプロンを着た大きな人達はまた大笑いした。


彼女は赤色のランドセルを背負い、入念におめかしをした彼女の母と黒いスーツを着た彼女の父に挟まれ写真を撮ったいた。

その後幼なじみの君が不慣れな笑顔を作って写真を撮っている。彼女の母より少し派手な女の人と髭もじゃの男の人と一緒に。


君が小学校最高学年にもなると異性のことを気にしだす女子も出てきただろう。君はそこまで容姿が優れている方じゃないけれどそんなに酷くもないと。

君は最近クラス1のマドンナに保育園の時結婚しようと言ったと親から聞いただろう。

お前が結婚出来ると思った?と周りから言われ、挙句の果てには彼女からも始末だ。そんなこと昔の君が知るはずないのに。しかし君はその時も彼女の笑顔が素敵だと感じた。


君はランドセルを手放し青い鞄を背負い自転車通学する生活が始まった。

小学校よりも何倍も人が多く、6クラスあるためか彼女とは3年間同じクラスにはならない。そうであるために毎週ある全校朝会で彼女を目で追う日々が続く。

思春期真っ只中なので好きな人で盛り上がる時期だ。その為、小学校以上に君は記憶を勝手に面白おかしく誇張される。久しぶりに会った彼女にもその友達にも馬鹿にされるように。


桜の桃色が見る影もなく緑に染まり、雨雲が活躍する季節に彼女は先輩から告白された。その人と彼女は同じ部活だ。彼は同級生の注目の的。彼が下学年の廊下を歩くだけで女子がはしゃぐ。とても話しかけてくれる気さくな先輩だった為に彼女も好意を抱いていた。そしてその翌週に付き合い始めるそうだ。


夏の暑い日君は彼女に彼氏が出来たと知る。君は彼氏が同じ部活で容姿が優れ、身長が高いと知る。

君は何も出来ない自分を憎む。しかし無理に彼より勝さってる部分を見つけようとて、彼女が振り向いてくれるはずもないだろう?しかし君は何も出来ない自分をもう一度憎む。


彼女に初めて部活の後輩ができた年の夏、彼女達はすれ違い始めた。彼氏は受験勉強に勤しむ日々が続く。彼女は彼を慮り夏休みの長期休暇には合わないように努める。彼女は連絡はしようと思ったが、迷惑かなと思い彼を思った。彼女は彼の成功を健気に願っていた。けれどそれが良くなかったのかもしれない。


君にも初めて部活の後輩ができた年の秋、学校から帰る途中に口論している2人を見つけた。彼女だ。遠くから見ても分かったのは君の気持ちがまだ廃れていないからだ。

彼氏が彼女に何かを言っている。とても怒っている。そして直ぐにどこか行ってしまった。彼女はただ道路の脇の歩道でポツンと立っていた。


義務教育最終年に、君は彼女と同じ塾に通うことになった。そこで君は彼女の志望校を知る。届くかどうか分からない進学校だ。

君はその日から死ぬ気でもがいた。彼女に悟られぬように。


君と彼女にとって人生で初めての合格発表だった。

100の数字が有るのを見て彼女は大喜びした。けれど目の前にいた君はもっと大声を出して彼女にハイタッチをしたのだ。


君が自転車通学が電車通学に変わった年、1年前とは見違える学力をつけて君と彼女は初めて同じクラス、部活になったのを覚えているかい?彼女はマネージャーだった。そこでも彼女が君をおちょくるだろう。周りの友達も君をおちょくる。そして彼女にも笑いながらこう言う。「お似合いじゃん」と。


君は知らないだろう。彼女がセーラー服を身に纏っているのが少し様になった初夏の季節、彼女が君のことで悩んでいたことを。

その内容は、今は止めておこう。君がいつか聞けばいい。


君は彼女に告白した。そして今君は地に足がつかず浮き足立ってる。ふわふわしている綿飴のようだ。

君は部活が終わった後、適当に部活の相談と嘘をついて彼女と二人きりの状況を作った。汗をかいているのは蒸し暑さのせいだけじゃない。

そして彼女は考える時間が欲しいと言った。

君も待つ時間が欲しかったのでホッとしている。

とてもとても蒸し暑い夏のことだ。


学生服を着るのが最後になった年の暑い夏、君達は2回目の記念日を経験した。仲の良い友達から祝福され、君は思い出す。付き合い初めた当初、どちらがなんて告白したのと友達から質問責めを受けたことを。

その時に彼女が君の方を見て友達にこう言った。

「彼が付き合ってくださいって言ったの」


君が大学を卒業したのが4年前になった夏の日に君は彼女から呼び出された。場所はいつもデートの待ち合わせ場所の公園だ。どうしたのか分からず君は家から数キロしかないので君は自転車を飛ばす。

公園に着く頃には心臓が脈打っているのが分かった。息を整えるのに少し時間がかかる。彼女はいつも君達が待ち合わせしている公園のマップの前に立っていた。彼女は君に気づき、手を振ってくれた。いつも通りだと君は安心した。


君の彼女はこの時君よりも心臓が脈打っていたらしい。


彼女は君を呼び出した。同棲して2年がたった夏の日だ。いつもの公園で彼女は待つ。

すると君が息を切らしながら来た。

「どうしたの?急に呼び出して」

君は近くまで来て言う。

彼女は覚悟を決めて口を開いた。

「あのさ、」

少しの間が空く。木々が風で揺れてざわめいている。

「私達、付き合って長いじゃん」

君は頷く。

「だからさ、その....だからって言うわけでもないんだけど.......」

彼女は髪を指でくるくると遊ばせて言う。君の目は見れていない。深く息を吸って彼女はこう言う。


「私と結婚してください。」



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