旅立ち
「この、どちらだ?」
バハムが残り一人の側近に言う。
側近がクリフを指差す。
「まさか、お前が噂の三神将軍か?どうだい一対一と行こうじゃないか。お前は、そいつとやれ。まぁーお前では無理だと思うが時間稼ぎにはなろだろう」
バハム将軍はクリフを、ただの青年だとは思わないでいた。
噂が確かならすでに百歳はいっているだろう。
そんな二人は対峙した。カーサスは、それを傍観する。
既に精鋭の残り一人を倒していたからだ。それは電光石火であった。
クリフとバハムが睨みあう。勝負は一瞬である。
何せ二人は一撃必殺を繰り出そうと間合いを詰めていた。
バハム将軍は分厚い黒い鎧に身を包んでいる。それに対しクリフはアース兵と同じ軽装な鎧であった。
ただ、その左胸には白い十字の模様が見える。こ
の鎧では明らかにクリフが不利であった。だが素早さならクリフが上とカーサスは感じる。
仕掛けたのは、やはりカーサスの読み通りクリフが先に仕掛けた。
拳を強く握る。そこには何もない。
「地獄の炎よ。その燃え盛る炎で滅せよ」
するとクリフの握った拳が燃えるように煙をあげ大剣が現れた。それをバハムに振りかざす。その一撃はクリフの一撃必殺であった。
それをバハム将軍は金色の剣で構え、受け止めた。
受け止めたように見えるが炎はバハムの全身に広がり燃えていた。
「うぉぉぉぉー」
燃え上がる炎が鎧を溶かす。やがてバハム将軍の鎧は溶けて崩れていった。
だがバハム自身の身体は燃えてはいなかった。
燃え盛る炎を直前で後ろに跳んで避けたのだ。それは恐れからであった。
偶然にも恐れを抱いたバハムは後ろに足を置いたのだ。
それによりバハム将軍は命を救われたのだ。
「はっはは」
バハムは笑った。大量の汗が流れ、鎧が溶けた所から引き締まった筋肉が現れていた。
「今度は私の番だ」
そうクリフにバハム将軍が言った。
「待った俺が相手だ。こいつに勝たなくては俺は強くなれない」
いきなり違う声がした。それはスチュワート伯の屋敷からでてきたマーズであった。
もはや身体はガタガタである。
だがバハムもクリフの攻撃で力は半減していた。
「ふん、見くびられたものだな。こんな若造にまで、コケにされるとは。まぁーいい。クリフとやら、お前達三人相手では、俺は少なくとも生きている確率は低い。こいつに勝てば逃がしてくれるか?」
バハムは己の力量を見ていた。
「いいだろう。カーサス殿は?」
クリフはカーサスに問う。
「私は別に構いませんが。これをマーズ殿に貸しましょう」
それは闇影であった。それを受け取るとマーズはバハムの前に立ち対峙した。
「交渉成立だな」
バハムが言う。
その言葉が始まりの合図となり二人の戦いが始まった。
お互い力尽きるまで戦った。
結果はバハムの帰国であった。
だが、それはマーズの死ではない。
エリーヌ姫の優しい言葉により帰国するのだ。
「マーズさん。もう、良いです。争いはここまでです。どうです、カルドの方?」
エリーヌが屋敷の上でテラの背中に乗りながら言ったのだ。
それに対しバハム将軍は、その言葉を受け止めた。
「アース国には屈強な兵士がいるな。又いずれ決着をつけようぞ」
その言葉は、再びと思われる言葉であったがエリーヌは強気であった。
「いつでも来なさい」
バハムは傷を負いながら笑った。
「強いな」
そう言い残し去っていた。
夜が明け平和な日が訪れた。タリスの街の人々は皆、歓声の声をあげる。
カーサスは、それをクリフやマーズではなくエリーヌ姫のお陰だと思った。
姫が抜け出したのは幸いにも国を救った。
そんな彼らは、やがて城へと帰る。又もアース国王との謁見である。
そこには英雄が玉座の前に並ぶ。ミレニアは三神将軍の一人に選ばれ、マーズは、その空いた八神将に選ばれた。
それは、クリフからの推薦であった。
だが玉座の前にカーサスとクリフはいない。
彼らはエリーヌ姫の庭でテラとジザルと共にいた。
「エリーヌ姫。あなたって人は」
カーサスが走り出す。そうエリーヌを追いかけているのだ。懲りずに、またもや城を抜け出そうとするエリーヌ。
「次は、どこに行くのですか?今度は私も付いていきます」
そう言うとエリーヌは笑いながら言った。
「ちゃんと付いて来なさいよ、カーサス」
カーサスは八神将の誇りではなく姫の教育係としての誇りを持ちエリーヌに付いていくと決めた。
その事に気づいてか、エリーヌは共にカーサスと次なる旅にでる。
エリーヌの縛られた運命から逃れない思いであったが、今はカーサスにより旅へと変わる。アース王を教育してきた先輩であるクリフは、その姿を見えなくなるまで見つめ微笑んだ。




