遺伝子操作された者
カーサスは、その場から離れず注意して観察していた。その光景は、あまりに惨く残酷だ。だが何故、ここらに出現したかはカーサスでも分らない。それらを観察していると急に風が一瞬激しく森が揺らいだ。
「来たか」
カーサスは予想していた。これからが本番だと。カーサスは右手の剣の柄を握り森の奥深くへと鋭い視線を向けた。森のざわめきと共に、かすかに何か金属音である音が森全体に響いた。それは鈴の音のようだ。だんだんと近づくその音は、やがて巨大な白猫、いや白いバビとその周りを囲む普通サイズのバビ達の鳴き声でかき消されていた。
「ミュアーー」
その泣き声はバビ特有のものだ。
「仲間を殺された復讐に来たか」
そう言ってカーサスは更に剣の柄を強く握り締めた。
「だがな、こちらもお前達に復讐がしたかったところだ」
森のざわめきがあたりを包む。バビと呼ばれる者達がカーサスを囲む様に移動した。どうやら、ここで決着をつける気だ。カーサスは首に鈴を付けている白い巨大なバビを睨む。白い巨大なバビはカーサスの百七十五センチある身長よりも高く全身は白い毛である。だが、その毛は通常のサイズのバビよりも硬いだろう。目視しなくても巨大な白いバビの毛の一本一本が太い事から分る。
「これは、この剣で切れるかな」
そう思っていると鈴の音がかすかに鳴り響いたと共に巨大な白いバビが口を開けた。
「お前が、仲間を殺したのか?」
カーサスは、これには驚いた。ジザルの他に喋れる者がいるとは。
「私が喋れる事が、そんなに驚く事か?まぁー無理もない。人間とは自らの種族が一番有能と思っている愚か者だからな」
巨大な白いバビは首に付いている鈴に手をあてながら言葉を口にした。
「そうだ。お前の仲間は俺が殺した」
そうカーサスは言うと身構えながらも更に口を運ばせた。
「だがな。そちらの方が先に手を出したのだぞ。それに思うにお前は人間が作った兵器だろう?」
その言葉に白い巨大なバビは目を見開き、顔を歪ませた。
「面白い事を言う。たしかに私は人間によって作られた。それは私の意思ではなく、お前達人間の勝手な都合で勝手に作ったものだろう。違うか人間よ。それにここらは、お前らが言う言葉にすると我々の縄張りだ。見よ、木々や岩に傷がついているだろう。お前らは神聖な場所を汚したのだ」
先程よりも白い巨大な白いバビは鬣が立っている気がする。白く巨大なバビはカーサスを見下ろす形で見つめ言った。その目は鋭い視線ながらも悲しみに満ちた目をしている。カーサスも、木々や岩の傷は洞窟から出て幾度となく確認していた。しかし、昨日の豪雨では、流石にそれらを全て確認する事はカーサスにとって難しかったはずである。カーサスは、その事や今までの経緯を説明しようとしたが白い巨大なバビの目を見て無理だと悟り剣を、巨大なバビに向けた。
「それが、お前の答えか?」
そういうと又、白い巨大なバビは首に付いている鈴に手をあて音を鳴らした。それが合図とばかりか一斉にカーサスの周りを囲んでいたバビ達が飛び掛ってきた。昼間、カーサスが見せた圧倒的な姿を見せた後でもバビ達は恐れず攻撃を仕掛けてくる。仲間を殺された復讐の方が恐れよりも上まっているのであろう。
バビ達に恐れはないのかカーサス目がけてあらゆる方向から飛び掛かって行く。カーサスは後ろに目があるかのように後ろから飛んで来たバビ達を左右に避けながら剣で弾き飛ばし前方から飛んでくるバビ達を目に見えない速度で切りつけた。カーサスは昼間、鎧を置いてきたので、その朱色の服は昼間の返り血と今の返り血により全身がほぼ赤色に染まっている。カーサスは白い巨大なバビを睨み続けた。
「ほぉー」
白い巨大なバビは感嘆な声をあげた。
「やるな人間よ。だが人間とは愚かなものよ」
そういうと白い巨大なバビは後ろ足を蹴りカーサスを飛び越え小屋の屋根までジャンプした。
「ドォシィィィーン」
大きな音とともに小屋が揺れた。
「やめろっ」
白い巨大なバビは小屋に誰かいるのか分っているかのように体重を小屋へと押し付ける。
もう既に白い巨大なバビにより小屋を支える支柱に亀裂が入ろうとしていた。
「ふっふっふ。人間とは脆い」
最早、小屋が壊されるのは時間の問題であった。




