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異世界で命のせんたくをすることになりました。  作者: fuminyan231
2 となりまち
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のーりぅあぶーときゃんぷ

 さて、ノーリゥアちゃんに召集されてやって来た私たち。


 場所はウェズデクラウスから程近い空き地だ。

 かつて開拓村でもあったのか、打ち捨てられて久しい建物が林の一部にもう少しでなりそうな感じに廃れている。

 ゴブリンやオークにでも襲われたのだろうか。

 ここにいる人間は私たちしかいないので、それは知る由もない。


「さて、まずは基礎的な所から測っていくわ。腕立て伏せ二十回と腹筋背筋三十回。始め!」


 おっと、準備体操も無しにいきなりだ。

 とはいえ、これはお稽古や修行ではない。実践に即した形だから仕方ない。敵は準備体操を待っててはくれないのだ。


「あう」


 私は早々にリタイアした。

 腕立て四回でダウンとは情けない。

 ノーリゥアちゃんは腹筋と背筋に移れと指示を出す。


 イリーナは十回前後でダウン。二十回を楽々クリアしたのはフランだけだ。ちなみにノーリゥアちゃんに押さえてもらってやった腹筋は五回、背筋は八回だった。

 やはり私の身体面は見るところは何もなさそうだ。イリーナはまだマシだが、クリアには及ばず。

 結局フラン以外はクリアならず。


「少し休んだら次に移るわ」


 ノーリゥアちゃんは意外に強制的な指導(スパルタ)だなぁ。


 次は走力、足の速さと持久力を試すそうだ。

 まずは50メートルのダッシュ。

 速さで言えば、ダントツで私の勝ちだ。

 イリーナも結構速い。さすがにハイヤール老の孫なだけある。

 フランはそこからちょっと遅れてゴール。でもフル装備付けてのダッシュだから充分速い方だと思う。


 本来、測定と言えば身軽な格好で臨むものだが、今回はノーリゥアちゃんの意向で本人が装備して行くものを全て持った状態で実施している。イリーナも乗り合い馬車の時とは違って、革の鎧を着けている。

 ヤゼンさんのお手製かと思ったら、あそこはあくまで武器、防具の店であり調整とか補修がメインなのだそうだ。

 ドワーフおじさんと似た立ち位置なんだね。

 それでも、手に合う武器や調整された防具はとても大事だ。

 その革鎧も調整はヤゼンさんがしたそうで、イリーナの今の体形にはぴったりフィットしている。


「父親に体形を把握されてるのはちょっと戴けないけどね!」とはイリーナの言。


 気持ちは分かる♪


 その後持久走になったが、これはかなりきつかった。

 なにせ限界近くまで走れといわれてずっと走り続けたのだ。

 ここまで体を苛めた事は無かったから、私にとっては始めての経験だ。

 息が出来ないし、体も動かない。

 ぜーはーぜーはーと呻いている私たちに、ノーリゥアちゃんは呆れたように言う。


「実際の戦闘になってもそうして寝てるつもり? そんなんじゃあっという間に殺されるわよ」


 うん、発破をかけてるのは分かるけど……体が動きません。


 と、途端に呼吸が楽になった。

 みるみる疲労感が消えて行く。


「疲労状態でも(体力平癒Ⅰ(レストレーションワン))、唱えられるようになりなさいよ」


 ノーリゥアちゃんが呪文をかけてくれたのか。

 なるほど、みんなも随分楽になったみたいだ。


 ノーリゥアちゃん曰く、冒険者や軍の行動に際して魔術を使うタイミングはきちんと図ること。

 今回みたくかなり疲労した状態での(体力平癒Ⅰ(レストレーションワン))は効果的だが、ちょっと疲労した位で使うと魔力がいくらあっても足りないから、そのラインを見切るのが大事なんだそうだ。


 それは当然、自分のみではなく仲間の事も含めて。

 だから、自分が前後不覚になるような疲労に陥る前に対処するのも必要だと言っていた。


 けど、実は呪文使おうかとは思っていたのだ。先生の許可なくやったら怒られると思ったからやらなかっただけで……あ、負け惜しみじゃないよ?。



「次は戦闘訓練ね。じゃあ、まずはフランからいこうかしら」


 ノーリゥアちゃんはそこらに落ちている石に向かい何か呪文を唱える。

 すると、その石がむくむく大きくなり人形(ひとがた)を作る。土魔術初級の(石従者創造(ストーンサーバント))だ。


 いわゆる、簡易ゴーレムの一種で持続時間は短いけどそこそこ固いので盾扱いで扱う魔術師も多い。


「あれ、キョウガイシにも似たようなのあったよね?」

「ああ、(草編みの従者(グラスサーバント))ね。柔らかいからあまり戦闘には向かないんだ。どっちかというと労働力を提供してくれる方ね」


 なるほど。

 草では確かに固くはないんだろうね。フランは得物の戦槌(メイス)を持って石の人形に対峙する。


 ノーリゥアちゃんの号令で模擬戦闘が始まる。とはいえこのサーバントには細かい命令は出来ないから、寸どめとか一本先取とかそういうのは無いのだろう。


 はっ!

 ──フランの一撃が入り、石の人形の胴に(ひび)が入る。


 フランは成人男性と比べても高い筋力を持っているらしい。

 向こうの殴り付けてきた拳がフランのお腹に当たるが、少し後退した程度で耐えた。

 たしかにストーンサーバントはゴブリンとかと一対一でも圧倒する戦力があると聞いている。動きは大したことないけど拳の一撃はかなり重そうだ。

 クラスレベル(ゼロ)のフランでも攻撃が当たる所をみると、回避性能は殆ど無いと言っていいと思う。

 その代わりに防御は高いのだろう。


 何度かの交錯の後、ストーンサーバントは崩れた。

 やはりフランの勝ちだが、あまり楽観視は出来ないくらいに疲弊している。


「はあ、はあ……」

「フランは休んでて。ジュンは手当てを、呪文は無しで、一般的な応急処置をしなさい。次はイリーナよ」

「は、はい!」


 イリーナの戦いぶりも気になるが、フランの手当てが先だ。

 フランの近くに行き、兜と防具を手早く外す。拳が当たったところが赤く腫れていて痛々しいが、構わずに清潔な布に水をかけて絞り、患部に当てる。

 僅かに痛みに体を捩るフラン。

 だが、見立てでは骨に異状は無さそう。

 傷が悪化しないように拭いた後に打撲に効く軟膏を塗り、包帯を巻く。ここまででだいたい五分位かかった。

 事前の訓練をしたときはもっと早かったから、やはり本物の傷の手当てとは違うのだなと改めて思う。


「有り難うごさいます、お嬢様」

「大丈夫? 後で呪文を使うからね」

「この程度は、あの時の痛みに比べればなんて事はありません」


 あのとき。

 それは屋敷の襲撃にあったときだろう。

 フランは昏倒させられていたが、あれはライデルのような優しいやり方では無かった。


 力任せに殴り付け、フランを倒したのだ。

 そう考えると本当に間に合って良かったよ……。


「イリーナ! そのままだと倒せないわよ?」


 ノーリゥアちゃんが檄を飛ばしている。

 ストーンサーバントはイリーナに攻撃をしているが、彼女はすんでの所で避けている。

 彼女の持つ得物は短めの広刃剣(ブロードソード)

 幅広の小剣(グラディウス)より長めで細い。彼女の力に合わせてヤゼンさんが削った物だろう。

 盾を持ってないが、ひらりと避ける様は中々に上手い。


 もっとも、彼女の放つ攻撃はストーンサーバントにダメージを入れてるようには見えない。僅かに削りつつ、という感じである。

 正直、このままだとイリーナが疲労してきて避けられなくなる可能性が出てくると思う。


「こなくそ!」


 乙女とは言い難い台詞を言ってストーンサーバントの攻撃を避けつつ、バックステップから反転して距離を離す。


「ほう。上手い離脱だ」


 ノーリゥアちゃんが誉めている。

 接近戦からの離脱は壁役が居ないときにやるのは危険とされている。

 それは背後からの攻撃を余儀なくされるからだ。


 イリーナは相手の攻撃の手数と、移動できる範囲をきちんと把握して実行したことになる。


「明示せよ。我は(さか)しき方の(しもべ)にて、大地に根を張り生きる者也。その威にて汝に枷を与えん。(大地の戒め(アイヴィホールド))!」


 おっ。キョウガイシ様の術だ。


 神術は魔術と似てる所も多いけど、その神様独自の呪文もある。

 イリーナの使った呪文は、大地から蔦を伸ばし、対象を動けなくする物だ。

 ストーンサーバントは抵抗(レジスト)出来ずに蔦に絡まってしまった。腕をブンブン振っているが、脚がガッチリ絡まっていて動けないようだ。


「動けなくするだけじゃ戦闘は終わらないわよー」

「えー、いけずー」


 ノーリゥアちゃんは甘くないみたい。

 普通はこう言うときは勝負ありなんだけど。

 まあ、イリーナの攻撃呪文も見たいのだろう。


「明示せよ。我は(さか)しき方の(しもべ)にて、大地に根を張り生きる者也。その拳は土塊であり石であり全てを打ち倒さん。(大地の槌(アースハンマー))!」


 イリーナの唱えた呪文に反応し、ストーンサーバントの手前三メートル程の大地が盛り上がると、ストーンサーバントに向かってぶつかってゆく。


 キョウガイシの専用呪文(オリジナルスペル)、(大地の槌(アースハンマー))は初級に属するキョウガイシ神官の最大技だ。

 共通の呪文である(聖気弾(フォース))と比べても高い威力を持つ。

 条件として大地にいる時しか使えないのだが、これはキョウガイシの呪文にだいたい共通する物だから仕方がない。


 強烈な土砂の攻撃を食らってストーンサーバントは粉々になったようだ。

 ただ、イリーナの方も息も絶え絶えだ。


「よくやったわ。休んでなさい。次、ジュン!」


 お呼びがかかったので、フランの横から立ち上がる。


「お嬢様、お気をつけて」

「うん、まあ、なんとかなるでしょ」


 心配そうなフランに手を振って、イリーナの側に行く。


「疲れた~」

「お疲れさま。休んでて」

「呪文でサクっとやった方が良いよ。たぶんそれ(ソードブレイカー)じゃ装甲を抜けないよ」

「合点承知」


 イリーナが離れるとノーリゥアちゃんが石に呪文も放ち、ストーンサーバントが現れる。


「それでは、始め!」


 ストーンサーバントが走ってくる。

 待ち受けるように私は左手をそちらに向けて()()する。


解放(リリース)、(颯然刃(エアブレード))」


 猛烈な風が放たれて、ストーンサーバントを両断する。ものも言わない石くずがゴロゴロと崩れるのをノーリゥアちゃんが黙ってみている。


「ジュン……」


 あれ? なんか怒ってるみたいだけど。

 倒せって言われたから[遅延魔術(ディレイドマジック)]で唱えておいた(颯然刃(エアブレード))を放っただけなんだが……。


「次からは始めの合図から行動すること。開始前から準備するな!」

「は、はい!!」


 やっぱりズルはダメですか。

 実戦なら何でもありだろうに。

 まあ、他の二人はそういうの無かったし、仕方ない。

 決まりは守らないとね。


 ストーンサーバントが接近してくるが、意外と速い。

 イリーナはよく離脱出来たなと思うが、あれは斥候(スカウト)のクラスだから出来たのだろう。

 私には少し無理かもしれない。


 攻撃を避ける。

 これはなんとかいけそうだ。

 ただ、イリーナ以上に非力な私には打つ手が殆ど無い。

 二回目の拳を伏せて避ける。

 転がるように相手の膝辺りに刃折り(ソードブレイカー)を切りつけるが、効いた様子はない。

 こちらもダメージは無いが、回避がオーバーな分だけ疲労が溜まりやすいと思う。

 やはり呪文を使わないと倒せないか。


 しかしながら、足を止めての呪文詠唱はたぶん自殺行為だ。

 私は打たれ弱いだろうし、攻撃を受けたら詠唱が止められるだろう。つまり、避けながら詠唱しないといけない。


 だが、残念なことに[行動詠唱(デュアルキャスト)]は取得出来てない。

 また[無詠唱(クイックキャスト)]できる呪文もまだ無いのだ。

 [詠唱短縮(ショートキャスト)]があればまだ何とか使えるタイミングを図ればいけたかもしれない。


 ひょっとしてアレを見たいのかな?【超加速(アクセラレーション)】を。


 意図は分かるけど、何となく癪だな。

 他の手はないものか……。


 左からの一撃を受けたが、これは刃折り(ソードブレイカー)で受け流しつつ跳び跳ねることで距離を取れた。


 危なげなく着地を決めて、滑るように走り距離を取る。

 ちょっと曲芸めいた動きだけど、こういう時に軽い体重は便利だね。

 イリーナよりも足の速い私に追い付くわけもない。


「我は常しえの探究者である。未知なる深淵より出でし風よ、我の望むように彼の物を切り裂け」


 落ち着いて呪文を唱えると、左手の短杖(ワンド)を対象に向ける。

「(颯然刃(エアブレード))」


 先程と同じように真っ二つになるストーンサーバント。

 ノーリゥアちゃんを見ると、今度は物言いは無しのようだ。


「まあこんなものね」


 満足した感じではなさそうだが、あまり手の内をばらすのもどうかと思うし。

 ともかく、一対一の戦闘訓練はこうして終わった。


 当然、フランの怪我は治したよ。


 傷物になんかしやしないんだから。



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