1-7 どうしのこうさつ
ちょっと短めです。
どのくらいがいいのか試行錯誤してますが、なかなか難しい。
「しかし、驚いた。まさか三つも一度に恩恵を得る者がいたとは」
場所を工房の奥の導師の私室へと移し、しばしの休憩をとりつつ話をした。ここは魔術的な結界が張ってあり、だいたいの情報捜査系統の魔術を防いでくれる。
今日はあのお弟子さんはいないようで、仕方なくフランにお茶を淹れさせている。ここでは紅茶は高級品であるが、厨房に隠してあった缶を勝手に開けて淹れてきたらしい。
私は麦茶とかでもいいのだが、フランは妥協したくなかったらしい。お茶請けも勝手に探してきたようで、蜂蜜まみれのワッフルみたいなお菓子を出していた。
「それ、チコが隠してたのだぞ?」
弟子の秘蔵の品を出されて妙に気にしているようだが、フランは『あれで隠しているつもりだったのですか?』と素気無くあしらった。
きみ、ときどき男前だよね。
ちなみにチコというのは年齢二十んん歳の女性で、婚姻関係ではないがたぶんそういう仲であると思われるお弟子さんの事である。
頭も上がらないはずだ。
まあ、事がすんだらお詫びに持参するとしよう。ベルゲルメール王国の特産品だったと思う。蜂蜜と白糖をふんだんに使われてるので、特に保存用の魔術装具とかを使わなくても長持ちするのだ。
一枚取って口に入れてみる。
サクっとしてて、口の中に甘さが広がってくる。蜂蜜は生地に練り込んであるのか、甘さのほとんどは白糖を溶かしたシュガーメルトだ。一つでもかなり糖分が高いようで少し頭がいたくなってきたが、フランは気に入ったようでもりもり食べている。
フレスコ導師がなんとなく哀れになってきた。
導師は気を取り直して話を始める。
「そもそも恩恵とは、世の中の理から外れたものだ。神々の気まぐれや必然によって与えられた人ならざる能力の広義な意味での総称だ。その能力は多岐にわたる。また、たいていは一つのみで二つのギフト持ちは珍しい」
「では、私はもっと珍しいのですか?」
「珍しいというか、いないと言った方が早い。記録上勇者の中にはいたが」
私は絶句した。
そんなわけは無いと思うのだが、聞いてみない事には始まらない。
「でも、わたしは……」
「そう、勇者ではない。」
この世界では勇者は神官によって異世界から召喚される存在だ。勇者は魔王の存在を打倒するために喚ばれる。つまり、赤子から育っていた私は、それになり得ない。
「召喚した神官もいない。さらに召喚される時にはその神殿から公布がされるはずだか、それもない。魔王降臨の予兆すらないのに勇者が召喚されるわけがない」
導師が続けて話しているが、私は自分の違和感が気になってそれどころではなかった。
『私は自分が育っていたことを知っている。フランという、証人もいる。でもこの世界が異邦のような気がしている。まるで自分が異世界人であるかのような……』
今までの足元が急に崩れる気がした。
血の気が引いていく。
たぶん私は今、真っ青になっているのだろう。
わたしは視線を動かせない。
導師の後ろの扉から、目を離せない……!
扉が、いつも間にか少しだけ開いていて。
何かが見ているのだ。
……その瞳は。
暗い羨望と熱い嫉妬と激しい怒りに満ちていて……
「それ食べましたね~」
ビクッ!
導師が凍りつく。
カクカクと細かく震えながら後ろを振り向くと、導師の首を絞めるかのように掴む鬼女が、
あ、いや女性がいた。
チコさんお帰りなさい(ぺこり)




