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異世界で命のせんたくをすることになりました。  作者: fuminyan231
2 となりまち
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みんなのためにやれること

今回はイリーナ視点ですが、途中から別の人に変わります。

「あのう、ノーリゥアちゃん」

「あのね、私は子供じゃないの。あなた達よりも年上の冒険者なのよ? もっと敬意を表しなさい」

「……うーん。ノーリゥアちゃん様?」

「あなた、本当にキョウガイシ神官なの?」


 そうは言っても。

 残してきた二人の会話を盗み聞きするような人に表す敬意なんてないよね。

 まあ、私も同罪だからせめて嫌味くらいは言わせて。


 何か用が出来たから部屋から出たと思えば、いきなりドアにへばりついて聞き耳たて始めるんだもの。


「ち、何にもしないで寝始めた。本当にお子ちゃまね」

「お言葉ですがノーリゥアちゃん。ジュンとフランはそういう関係では無いと思いますが?」


 まあないとは言い切れない。

 実際、寄宿舎ではそういうカップルも存在したからね。

 私とて何度もお誘いが来て、非常に焦った覚えがありますよ。


「フランはそう考えてる節があるけどね」

「否定はしませんけど。でも大事なお嬢様に手を出すなんて、フランには出来ないと思いますが?」


 ジュンがユーニス様であろうがなかろうが、フランは彼女を守るために付いてきているのだ。

 大切にしてるのは間違いはない。


「問題はジュンの方ね。とはいってもまだ十歳だしね」


 分かってるならやめればいいのに。

 と、思った私の心の声が聞こえたのか、立ち上がって階下に降り始めた。


 足音ひとつも立てない。

 この辺りはさすがだと感心する。

 真似をするが少し階段の板が軋んでしまう。


「レベル1にしてはうまい方よ」


 ノーリゥアちゃんが誉めてくれた。

 年数の経っている板張りの階段を音も立てずに降りるって相当な手練れだ。


 居間に戻ると、お祖父ちゃんがいる。

 お母さんはたぶん、家の方だ。


 ノーリゥアちゃんは玄関から表に出ていったみたい。呼ばれなかったから私はお祖父ちゃんに久々に錠前の訓練を申し出る。


「おや、斥候(スカウト)はもうやらんと言ってなかったかの?」

「神官位を取るまではって言ったでしょ?」

「……まあ、ええがのう」


 お祖父ちゃんがよっこらしょと立ち上がり、自室から道具箱を持ってくる。

 中には色んな種類の鍵が入っている。

 子供の頃は遊ぶ物が無かったせいもあって、知恵の輪を解くように一心不乱でやってた記憶がある。


 いつもお祖父ちゃんが『鍵や罠の解除とかは実地が一番、これはあくまで訓練じゃぞ』と言ってきて、分かってるようと答えたものだ。


 鍵を前にツールを出す。

 最初のはものの数秒で開くのだが、段々と時間が掛かるようになる。

 黙々と進めているとお祖父ちゃんが横から何か言ってきた。


「お前が旅に出る時が来るとはのう。嬉しいような寂しいような……」


 何を言い出すかと思えば。


 感傷は自分を殺すから行動する時は心を鬼にしろと、口を酸っぱくして言ってた人とは思えないよ。

 暇なのかな?

 仕方ないから相手してあげよう。


「それは言わない約束でしょう?」

「いや、約束した覚えは無いんじゃが……」

「お年寄りの感傷にはこう返すのがお約束かと思ったけど」

「お前は何を学んできたのじゃ……?」


 失礼な。

 ウィットに富んだ会話で相手を油断させる高等話術ですけど。

 まあ、私の評価が下がり放題という弊害もありますけどね。

 道化を演じるのは嫌いじゃないから別に気にはしてないし。


「旅の間にノーリゥアから色々師事させてもらえよ。あれは儂程ではなかったが、さすが森の妖精。自然と一体化する技は小人族(グラースラオフェン)に匹敵するぞ」


 確かにそんな感じだった。

 あの人は長いこと冒険者をしてるから経験も多い。きっと学べる事も多いはずだ。


 最初はノーリゥアちゃんにとって私たちはお荷物でしかないと思っていた。


 彼女はたしかに旅の同行者を探していたのだろう。

 でも、それはお荷物を背負(しょ)い込みたい訳ではない筈だ。

 当然それなりに戦い、彼女を守る事が出来る戦力を求めての依頼だったはず。

 オルガさんと顔見知りだからって、私たちと組む理由にはならない。


 あるとすれば、ユーニスさまだ。

 あの子の圧倒的な魔力や権能(ちから)が彼女の興味を引いた。

 それを近くで見てみたいという好奇心は私も同じだから分かるんだ。


 だからこそレベルも低い新人の私達が同行する事に同意したんだと思う。

 危険(リスク)を犯しても、お荷物だとしても。


 ライデルが同行する事になし崩し的に決まったから、戦力としてはかなり高くなった気はする。

 でも、実際はノーリゥアちゃんとライデルだけで戦うようなものだ。


 フランはあの魔術装具が発動してもライデルに攻撃を当てられない。

 一撃でも当たれば勝負はつくが、そこまで保つかは疑問だ。


 ユーニス様にしても魔力は高いけど身体面(フィジカル)が弱いので、力押しや長期戦に難がある。


 どちらも奇襲という手がとられた場合、何も出来ずに無力化される可能性が高いと思う。


 さらに言えば、私はその中でも一番のドベだ。

 取り柄と言えばキョウガイシ様の神術だけど、残念ながらユーニス様の魔術に比べるべくもない。

 普通の僧侶や侍祭よりは高い神力だけど、勇者レベルなんてとても無理。

 魔術だって使えるけど、そっちは神力よりも低い魔力しかないから、本当に意表を突くためのトリックとしか役に立たないと思う。


 彼女達をサポートするには、私は私にしか出来ないことをすべきだ。


 つまり斥候(スカウト)野伏(レンジャー)のようなクラスを担当していくしかない。


 幸いな事に優秀な先達であるノーリゥアちゃんが同行するのだから、色々と盗んで────いや、学んでいこう。


「お祖父ちゃん、小人族と比べられたらノーリゥアちゃん怒っちゃうよ?」

「おおう、そうじゃのう。気位の高いのもエルフじゃったな」


 色々と考えていても体は勝手に錠前を解除してゆく。

 最初に付いていたクラスが測定板に出るクラス。


 つまり斥候(スカウト)は私の天職と言えるのだろう。

 キョウガイシ様の教えを忘れるはずも、(ないがし)ろにする気もないけど。


 暫くはこちらを優先していこう。


 私のために、そして新しく出来た(ユーニス)(フラン)のために。







────やれやれ。

 ようやく完成か。

 納期を勝手に早めるの止めて欲しいよな。こっちにだって都合があるんだ。同時進行の装具がいくつあると思ってるんだ。


 だから大貴族っていうのは嫌なんだ。

 自分の都合ばかり押し付けて金の払いは渋る、精度はもっと上げろとか。簡単に出来たら誰も苦労しないんだ。


「チコ、そっちの進捗はどうだい?」

「こちらは問題はないです。むしろ余裕がありますがそちらの作業を手伝いましょうか?」


 作業配分を少々間違えたかな? 最近はチコの効率もかなり良くなってるから、そろそろ三割程度任せてもいいかもしれない。


 魔術装具の製作には魔術自体の知識も必要だが、それ以上に必要とされるのは構文(ソースコード)の構築と用いられる術式に合わせた装具本体への造詣だ。

 つまり単なる魔術師よりも多方面に知識をため込んだ者の方が優秀となる。


 そういう意味では私とチコは正に魔術装具師(エンチャンター)なのだ。


「いや、とりあえず一休みしておいてくれ。こっちもそろそろ一段落する。飯にでもしよう」

「分かりました。では、食事の準備をしてきますね」


 チコが作業机から立ち上がりエプロンを外している時に、誰かから(通話(テレフォン))が入った。

 また催促か?

 私は通話に応じる。


「はい、なんだ。オルガか」

『悪い、ちっとお前に話があるって奴が居てな。ちと変わるぞ』

「え、何だって? お前[割り込み]なんて改変出来たっけ?」

『わたしがやったのよ、ラスコー』

「うえっ!この声は……ノーリゥアか?」

『ご明察よ。あんたは私の符丁は知らないだろうから、オルガ経由でかけさせてもらったわ』


 ノーリゥア……黄金の森の一角を担ったエルフ。

 直接会ったことは何度かあったが、私の事は殆んど覚えてないような気がしたが……


『単刀直入に言うわ。こっちに来なさい。あんたになら分かるかも知れないの。ブチッ!』


 ……言うだけ言って、切りやがった。

 え、どういう事?

 とりあえず、オルガにこっちからかけると、ノーリゥアが入ってきて私に通話しろと言ったらしい。


 つまり、ウェズデクラウスまで来いと言ってるのか?


 ……マジか。


 私は調理室に行ってチコに言う。


「悪い、ちょっと出ることになった。今日はもう休んでいいよ」


 ──もちろん、彼女は怒ったよ。


 けど、あっちが怒る方がもっと厄介だから、仕方ない。


 予備の魔石を幾つか持って、私は術式を始めた。



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