こどもにはしげきがつよすぎですよ
さて、会議が何度目かの中断をした後。
私はノーリゥアちゃんに言われた通りに保管の中の物を仕分け始めた。
これがまた面倒な作業だが、やっておかないとさらに手が付けられなくなると言われたら仕方がない。今のうちにやっておけば、手間は少なく、後で容れる物を出しやすくなる。
まず、『ディレクトリ』の作成だが、これはなにもない所を長く選択するとメニューが出てくるからそこから『ディレクトリ作成』を選べばいい。これには便宜上『ディレクトリ1』となっているが、この名前を変更しないとまた分かりづらくなる。
とりあえず『食糧・保存』『食糧・二倍速』『武器・防具』『道具類』『貨幣』としておく。
食糧・二倍のディレクトリだけ内時間設定で二百%に変更、他はそのまま0にしたままだ。
通常出ている枠は両方ともルートなのでその下に出来たディレクトリが見えている。左右にずらし、まずは『食糧・二倍』を選んでやると枠の上に『食糧・二倍』と文字が出た。このディレクトリはまだ何も入ってないからここにルートから一角狼の肉の包みを選んで隣の枠に入れてやる。すると、そこに肉の包みが移動する。これを繰り返す訳だが、正直手間だ。
「そういうときは、一覧からいっぺんに選択して入れてやると簡単よ」
ノーリゥアちゃんは横から指を出してリスト一覧表示を出す。
あれ、他の人も操作できるの? これ。
「可視化してるときは出来るのよ。だからあんまり見せちゃダメって言ってるの。まあ、ロックもできるけどね。二倍エリアには何個入れておくの?」
「と、とりあえず三つほどで。ある程度熟成させないと美味しくないからね」
「拘るわねぇ。んで同時選択はこうするの」
ノーリゥアちゃんは一番上の長押しして文字の色が変わると三つ目の物をやはり長押しする。するとその間の二つ目も同じようになった。これが選択している状態なのか。
「んで、これをそのまま放り込むっと」
あ、中に入れてる肉の包みが三つあるのが見える。最初は一つ一つしか見えなかったのに転生の。
「ルートはディレクトリのみしか置かないモノなのよ。ルートは中の個別の物を一つ一つ別のディレクトリのように見せていただけなの。収納でも同じだからね」
つまり、今までは広い家の中に部屋も選ばずに無作為に物を置いていた……ようなものだということか。ルートが家ならディレクトリは部屋と言うことだ。
「私は『最近のもの』ってディレクトリを作って、そこを既定にしてあるわ。後でそこをチェックして分けていけば簡単よ」
なるほど。このままだとまたルートに物が入って分かりづらくなる。私も同じ名前のを作っておこう。
後はちょっと淡々とした作業になる。ノーリゥアちゃんも分かっているのか他の二人に水を向けている。
「二人はどう? 神術は専門じゃないけど、魔術なら多少は答えられるわよ?」
「私は使えるけど属性二つで光と理術しか使えません」
え、イリーナ魔術も使えるの? だとしたら凄いよ。神術と魔術両方使えるなんてあまり聞かないんだけど。
「属性二つは別に恥ずかしくないわ。訓練だけはしておいた方がいいけど、実戦では神術のみにしておいた方が無難ね」
ノーリゥアちゃん的には自分の頼るモノは決めておいた方がいいという考えなのかな? エルフ的な保守的な考え方かも。
「隠し玉は取っておくべき。いざというときに力になるから」
おっと。もっと積極的だった。らしいと言えばらしいね。
「あの、ノーリゥア様。私は『(水質浄化)』しか使えないのですか……何か問題でもあるのでしょうか?」
「えっと、……ふん。魔力が17だから高い方よね。知性度が13……なら修得呪文が……そうね。四つあるのね。(水質浄化)(水召喚)(水槍)(水膜布)の四つ」
フランは水と理術に属性があったので、この四つを覚えてもらったんだ。けど、どうしても(水質浄化)以外の呪文は使えなかった。
「おかしいわね。見たところじゃ余り問題無さそうだけど……」
ノーリゥアちゃんはフランを上から下まで見ている。さすがに恥ずかしいのか、フランが掴む私の腕か痛くなってきた。いたいいたい。
「うん? フレスコが見たんなら分かってるはずだと思うけど……なるほどね」
お? ノーリゥアちゃんは何かに気づいたみたい。すると彼女はいきなりフランの左胸に手を当てた。
「ふひゃ?!」
おうぅ?! フランが驚いて声をあげる。
「うん……魔術回路の内の大きな所がなんか詰まってる感じがするわ。ちょっと流してみるからね」
ノーリゥアちゃんはそう言うと右手に魔力を流し始める。呪文も介さずに魔力を動かすのは私も経験がある。あの馬車の時に怒って迸らせたんだ。それを意識で制御しつつフランの中に注入している。
「あう……ぅ、うぁ……はぁ…」
えええ、フランが艶っぽい声を出して顔を赤らめているよぅ。
私とイリーナもドキドキしながら見ている。
うわー、汗ばんで上気した頬は紅色に色づき、瞳は潤んでいる。
「お嬢様……見ないでくださいまし……」
「え、あ、うん。分かった。見ないよ!」
正直、見ていられないよぅ。
魔力を通すってこんな風になるの?
ノーリゥアちゃんは集中してるからフランの艶姿に気が付いてないけど、どう見てもフランの胸を揉みしだくエルフさまですよ?
イリーナは顔を手で覆ってるけど、その指の隙間から見ている。この娘もたいがい好奇心旺盛だなぁ。
「うあっ!」
「抜けた!」
フランの小さい悲鳴とノーリゥアちゃんの声が聞こえた。
フランはすっかり脱力して私に撓垂れ掛かってくる。
息も荒く、陶然としているようだ。
「だ、大丈夫?ノーリゥアちゃん、何したの?」
私は力が全然ないからフランに押しつぶされそうだ。
イリーナが慌ててフランに近寄り、ベッドへと誘導する。
ノーリゥアちゃんもそこをどいて、フランを寝かせるのに手伝うとようやく説明をしてくれた。
「少し強めに魔力を流して、詰まりを消し飛ばしたの。魔術回路が極端に狭くなってたせいで、思ったように魔術が使えなかったんだと思うわ」
そんな事もあるのか。
あ、師匠が対処しなかったのはそういう理由なのかな? あの人変に気を使うところあるし。
「しばらくすれば起きると思うし。ジュンは保管の整理を続けておきなさい。イリーナはちょっと用事があるから来てね」
「あ、はい」
ノーリゥアちゃんに連れられてイリーナも部屋から出ていく。私は中途だった作業を再開する。しばらくすると、フランが目を覚ました。
「お嬢様、申し訳ありませんでした。はしたない姿をお見せしまして……」
消え入りそうな声で謝るフランだが、別に彼女が悪いわけじゃない。
ただ、私に刺激が強かったのは間違いない。
その証拠に今も気まずくて目を合わせづらい。
画面を直視してひたすらに荷物を分ける。ポチポチという画面から出る音が響く。
「あの……」
フランが悄気ているようだ。
また妙な事を言い出しそうだし、気まずいのも嫌だからね。
「こういうのはたぶん、違うと思うんだけど」
「……は?」
「とっても綺麗だったよ、フラン。あんな表情もするんだね」
少しだけ目を合わせる。
泣き出しそうなフランは、とても可愛くて、美しいと思った。
「私はまだ子供だからいまいち分かってないんだけど。でも」
フランの方を向いてきちんと言う。
「人形みたいな私よりずっと、魅力的だと思うよ」
「……そんな事はございません」
フランは、やはりそう言ってきた。『そんなものかね』と一言呟いて、私は作業に取りかかる。
フランはそのまま横になって眠ったようだ。
ポチポチポチポチ……
部屋を埋める音はまるで子守唄のようで。
いつしか私も寝落ちしてしまっていた。




