さけとなみだとゆうしゃとおんな
今回は、冒険者ギルド支部長オルガ=メイヤーズの視点になります。
「んで? なんであんなのが出てきたの?」
ノーリゥアは噛みついてくるが、俺だって知らないよ。
あれから食事会はお開きになり、俺は飲み足りないからバーの方へ来たら、ちゃっかり付いてきやがった。
河岸を変えたから酒も変えた。これで帰って寝るだけだから、カクテルを頼んだ。ノーリゥアは麦芽酒だ。軽いのが好きなのかね。
「出てくるって魔物かよ。どうみても人間じゃないか」
いちおう種族も『人間』てなってたしな。
「人間の限界を遥かに越えた存在を人間として扱えというの? まあ、見た目は確かに可愛らしいけどね」
まあ、言いたいことは分かる。あの魔力で放たれたら(小火弾)だって、(白熱炎槍撃)に変わる。
レベル一でそれだ。
さらに腕を上げたらどうなることやら。
「綺麗な薔薇には棘がある。そいつは小さくても同じさ。知りたいなら、ほれ」
これから保護者になる奴には見せといてもいいだろう。奴の前に紙を滑らせる。受け取ってみているが、絶句しているようだ。さもありなん。
「なによ、この神力値は? さっき言った最大魔力の『魔王』だって神力は14しかなかったのよ?」
そう。実はこの二つの適性は両方とも高い数値を出すことはまずない。魔術師は魔力、神官は神力、どちらも15を越える者は本当に数が少ない。
能力は18を越える者は天才といって差し支えないのだ。たいていの魔術師や神官は10~16くらいに分布される。確かに双方の術を使う者もいる。
だが、だいたいは専門以外の方は大して強くないのである。
「他のも十分におかしいわ。10以下の数値が筋力、生命力のみ。素質的には天才と言って過言ではない18を越えるのが敏捷度、知性、精神力、信仰度。超一流の斥候も野伏もいける能力よ?」
こんな奴がいたら即行で勧誘するだろう。冒険者っていうのは総合的な能力が必要とされるが、これほど万能な奴もいない。こいつは貴族のお嬢様として終わるには勿体ない逸材だ。エルザムの奴もそれを知って、わざと冒険に出したのかと勘繰ってしまう。
「[職業]がえっと、[戦士:1][野伏:1][賢者:2][魔術師:1]……なんで斥候がないの?」
いや、俺が知るかよ。
エルザムから習ってたら、斥候は無いだろうけど。それにしても十歳で得ているクラス多すぎだ。器用貧乏になるのがオチと言いたい所だが、こいつの能力を見るとそうは言えない。
「なんか検証するのがバカらしくなるくらいね。本当に『勇者』じゃないの?」
ノーリゥアが疑問に思うがそれは否定できる。
「『勇者』なら、クラスレベルが低すぎる。召喚された『勇者』は、クラスレベルは最低でも4はある。これは、どんな勇者でもだ」
『勇者』は、即戦力となるべく召喚されるのが常だ。これまで召喚された『勇者』はクラスレベルは4が最低ラインである。
クラスレベルとは、クラスの中でも一番高い値を指す。ユーニスの場合、[賢者:2]が最大だからクラスレベルは『2』となる。
「たしかにそうね……いくら魔力や神力が高くても、殺られやすくちゃ意味ないものね」
冒険者は危険と隣り合わせの職業だ。だから自分の身は自分で守るのが常である。低いクラスレベルでは、高価な武器や防具も付けられないし、敵から受けるダメージも変わってくる。『勇者』はそう簡単にやられないように、高いレベルで呼ばれるのが当たり前なのだ。
「ふー、なかなか興味深い子ね。この子が成長したら『勇者』要らなくなるわよ?」
たしかに。
どうみても近年召喚される『勇者』よりも強くなりそうだ。
そういや忘れてたが、その勇者の近況はどうなっているのか。
「話は変わるが、お前、『サトル』がどうしてるか知ってるか?」
前回の『魔王』討伐に同行したこいつなら知ってるかもしれない。討伐完了時に『帰還』を選ばなかったあの『勇者』は今、どうしているのだろう?
「あれ? 言わなかったっけ? サトルなら死んじゃったよ?」
え、マジか?
なんか相談出来ればいいかなと思っただけなんだが……そうか、死んだのか。
「二十年位前かな? 詳しくは覚えてないけど、流行り病でさ」
ノーリゥアはすごく淡々と語る。こいつら長く連れ合ってたような気がしたけど、そんな間柄じゃないの?
「簡単とは言わないけど、治せたのよ。私は。でも、あいつは拒否してさ」
二十年前というと、あいつも三十代後半くらいか……早すぎるな、死ぬには。
「あろうことか、(転生の秘術)を使ってやがったのよ」
ええ……召喚系上級魔術かよ。あいつそんなの使えたんだ? あれは確か自分で使わないといけないんだったはず。
「『転生の宝珠』っていう古代魔術装具 を使ったのよ」
……なんと。
そんなものを使ってまで転生とか。あれ、こいつ今治せるって言ってたよな? なんで転生?
「美少女にもてたいからだってさ!」
え~? たしかにあいつコワモテだったから女子供に人気なかったけど……そんなに気にすることかぁ? ノーリゥアは不貞腐れているが、そりゃそうだろう。自分は守備範囲外と言われたようなモンだからなぁ。
「自分で少女趣味とか言ってさ。結局、私にはなぁんにもしやがらなくって、さ!」
あ、おい、俺の酒なのに。カパっと飲んでるが、それ竜舌蘭酒だぞ。
「ばかやろぉう……いくじなぁしいぃ」
……落ちるの早ええなぁ。
しかし、二十年前となるとエルザムの娘が『サトル』の転生って訳ではなさそうだ。確か(転生の秘術)ってのは、死んですぐに転生される。その時に生まれた赤子に魂が宿るって話だ。その記憶が戻るのは不確定で、場合によっては記憶が戻る前に死んでしまうこともあるらしい。 非常に運任せだから、やる奴も珍しいんだ。
「そこまでして、モテたかったのかね? こいつも不憫だが……」
だからといって、今更女に入れ込むほど俺は若くない。仕方ないから、部屋に連れていってはやるけどな。
肩を抱いて店を出る。泊まってる部屋は知ってるから、ボーイに言って開けさせておく。俺が手を出さないのは先刻承知してるから彼らも異論はないようだ。
「……サトル」
うっすら涙を浮かべるエルフ。俺もそうだが、サトルって奴は少しおかしいよな。こんな奴に惚れられてるのに、少女にモテたかったから転生とか。
帰還するか、さっさと死んじまえばよかったんだ。
部屋にノーリゥアを放り込んで、俺は帰路に着くが玄関口で見知った人間に出くわした。
「これは、冒険者ギルド支部長殿。今日はお楽しみ戴けましたかな?」
若干の鼻につく言い方が気に入らないが、それを顔に出すほど若くはない。
「よい饗が出来ました。今日は無理をいって申し訳ありませんでした、ライデル様」
宵闇のサルビア店主、ライデル=トライデトアルは華やかなスーツを着てにこやかに笑いかけてくる。エルザムにどことなく似ているが、奴ほどの鋭さは全くない。ただの貴族のボンボンだ。だが、その隣の奴は違った。
「久しいですな、メイヤーズ卿」
重い声色、逞しい胸板、俺よりも高い背に頬に出来た青い傷痕。アークラウス男爵領においてのナンバー2、それがこの男。
ウェイバール=トライデトアル士爵だ。
「卿は止めてください、私は隠居の身でして」
奴は俺と会うときは必ずこう言ってくる。まるでお前はまだ戦えるだろう? と問いかけてくるように。ここはライデルの宿で、彼は父親だ。居ても特に不思議ではないが、ウェイバール氏の格好が少し気になる。鎧は着けていないが、軍服だ。こんな時間に彼が職務中と云うのは解せない。
「何かございましたか?」
ここは、聞いておくべきだろう。俺も目端が利く人間と思われてるから、惚けるのは得策じゃない。
「うむ、お主もこの街の重役だからな。話しておこう。領主殿の御令嬢さまが、ウェズデクラウスにいらっしゃるとの報告があってな」
………そうきたか。




