1-3 かくにんと、こんらんと
微睡む間にすこし整理してみよう。
まず、おれは地球からの転生者、秋津潤。
こちらに転生する際に権能を受けたはず。だが確認できたのはナユタのくれた魔力くらいなもので、あとはほとんど使ってない。
あと、大事な事なのでもう一度いうが、こちらでの転生体はユーニスという女の子になってしまっている。
思春期真っ只中ではなかったが男の魂が女の子の中に入るのはかなり問題な気もするのだ。
……十歳までの間はユーニスそのもので生活してきて、いきなり心の中に二十歳過ぎの男の自我が入ってくるとか、訴えられたら確実に負けそうな気がします。
もっとも、生まれたときから一緒にいたのは間違いなく、ユーニスとしても違和感はないようだ。ユーニス自身が心の中に作り出した人格のうちの一つのように受け止めているようだ。多重人格というレベルではないので、お互いがお互いを干渉していけるのではないかとおもう。
ナユタというこちらの管理者がくれた権能は全部で三つ。
一つ目は瞬間的な加速をできる【超加速】。
二つ目は異次元に物を保管できる【保管】。
三つ目は言語能力の翻訳をする【翻訳】。
加速に関しては一日に三回までしか使えないし、一度使うとしばらくは使えないという制限がある。
折を見て使っておかないと、どんな制限なのかも分からないでぶっつけ本番で使わざるをえない事になるからな。
保管能力、ストレージだっけ? これもよくわからないが使ってみないと利便性が分からない所があると思う。
使用制限は特に聞いてなかったが今でも使えるのかな? とりあえず、今かけてある毛布は……寒いからその上のストール(フランがかけてくれたもの)をいれてみよう。
触って、ストレージへ、と。
いきなり毛布の上にあったはずのストールが消えた。うん、ちゃんと入るな。
えっと出すときは……って考えてたら目の前になんか半透明の板が出てきた。枠があって、中にストールの絵が出てる。名前はストールと書いてあったが、自分だ変更も出来るみたいだ。
しかし、異世界で魔法がある世界という割には、何だか近未来的な印象を受ける。この窓なんて、まんまパソコンかよ。
他にも気になる数字となんか三角形の物があるが、今は関係なさそうだから気にしない。ストールを選んで放すと、手の前にふわりとでてきた。
うん、?
手につかんだ状態では出ないのかな?
もう一度入れてみて出してみたが、やはり握りこんだ手の中には出てこない。
つまり、出す場所を気を付けないと落ちるわけだ。なんか、便利だけどこう、面倒な制約だなコレ。
それとも何か別のやり方があるのか? マニュアルもチュートリアルも無しじゃ分からないよ。
ともかく次の検証だ。
入れるときに手を使う必要がない。手でドロップしなくても意識で選択して入れられる。
入れるのも出すのも三メートル前後の距離までできそうだ。
次にいこう。
さて、今回の件ではフランを回復させられたから良かったけど、出来なかった場合にはどうするべきだったか。
保管に入れて運べるのならその方が良かったかもしれない。
ちょうどいいことに目の前に生きている人間がおります。
そのフランですね♪
眠っているところを実験に利用するのは心苦しいが、確認しておかないといけないことだと思うのでご協力下さい。
……たぶんいきなり死ぬとかは無いと思う。
それなら、最強の武器を手に入れることになるからね。
では、やってみよう。
──結論から言うと生き物は入らない。
これは分かった。
しかし、大変な事になってしまっている。
……正直、こうなるとは思わなかった。
いま、自分のストレージには服が入っていた。
(フランのメイド服一式、アークラウス領製)
そして、ベッドにもたれたままのフランは一糸纏わぬ姿態をさらしていた。
──どうしてこうなった。
つまり、生き物は弾かれて服という無生物のみが【保管】に入ったという事なのだろう。
ある意味、最強の武器だな。……これは人に対して使うのは止めよう。
そのままにもしておけないのでフランに服を戻す。
──ふわり、ぱさぱさ……
──デスヨネー……
入れたものをそのままの状態な戻すことは出来ないようだ。
フランの肩にメイド服が現れて、そのまま床に落ちていた。
えっと……どうしよう、マジで(汗)
──というわけで、涙目のフランに睨まれて反省している次第です。
「お嬢様、どうしてこんな事をなさったのですか……?」
問い詰める口調は怒るよりも呆れている感じだ。そりゃそうかもね。意味わからないだろう。
「言ってくださればよろしいですのに……」
小声で聞こえた言葉は無視しとこう。
お互いのために。
「えっと、実は新しく覚えた収納系の魔術をね」
適当に言い訳をしてみたが芳しくなさそうだ。
「(収納)ですか? あれは魔力が潤沢でないと使いこなせないと聞いてますが」
え、そうなの? ……うん、そうみたいだ。
(収納)は、出し入れする際に魔力を消費するらしい。
体積とかでも消費量は変わるそうだ。
「それに人の持ち物とかは入れられないと思いましたが」
ジト目でこっちを見てくるフラン可愛い。
……うん、それも確かだ。
どうも人の所有物を入れる場合はその人の同意が必要になる。無意識だと拒否となって入れられないらしい。
……よく調べてるなぁフラン。たしか今自分で使えるのは(水質浄化)くらいだと思ったけど。
「お嬢様、ひょっとして天啓でも受けられましたか?」
んん、なんだソレ?
あの、もうちょっと詳しくお願いプリーズ。
「神々からの知らせと申しますか、それを受けた者は人の身を越えた異能を授かると言い伝えられます。」
あ~、そういうことなら確かにそうかもね。なにせ与えられた権能はこの世界の理から外れてるような気もするし。
「よくわからないけど、そうかもしれない」
そう答えるとフランは目をキラキラさせながら抱きついてきた。
「すごいです! さすがお嬢様! わたし感動しました!」
「うえぇっ?!」
あ、あのねフラン。
とりあえず言っておくけど、君まだ服着てないんだからね、なんか問い詰めるのを先にしてたせいなんだろうけど、それにしてもあああぁ……
「大変、失礼な事をしてしまいました。この上は如何様にもお裁きを……」
メイド服をきちんと着直して床に土下座するフラン。こっちにもあるのか土下座。
「いや、悪いのはこっちだし。ごめんなさい」
むしろフランは被害者だし、ここはこっちが謝らないと。
「もったいないお言葉です。その、粗末なものをお見せしてしまった上に粗相までしたメイドなどに……」
いや、粗末でも粗相でもないよ!
「フランはとっても綺麗だから。そんなこと言わないで、ね?」
あまり前世でも裸体は見たことなかったわけだが、相当な方だと思う、フランは。だから自分を貶めるような言い方はして欲しくない。
「お嬢様……ですが、」
「この話はこれで終わり! で、天啓の話は誰にも言っちゃダメ! 分かった?」
強引にいかないといつまでも引きづりそうだから、もうやめ。
ていうか、こっちも恥ずかしいし
とッ散らかってしまったが、三つ目の権能である【翻訳】は普通に働いている模様。
プリーズとか言っても伝わるし、あまつさえ魔術の呪文さえ翻訳するし。しかも意味を変えたりしてもある程度は融通するようで、師匠に知られたら目をむかれるだろうな。
新しい呪文すら作れてしまうかもしれないので将来的には一番期待出来る権能だ。
それにしても、女の子の扱いは素人なんだから迂闊な事はしないように慎もう。
……はあ(嘆息)
転生したら、女の子だった。
実際なったとしたら、喜ぶより混乱する方が先ですよね。
しかもいきなり火事から逃げるイベント発生ですし。