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異世界で命のせんたくをすることになりました。  作者: fuminyan231
1 たびだち
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1-19 こうぼうとかんしとにばしゃ

「先ほど、領軍の士官が来た。君が来たはずだから出せと言ってきたが言い方が気に入らなかったから追い返した」


 導師も苛立ちを隠してない。聞けば、彼が苛立つのも無理はなかった。

 曰く、渡さねば男爵閣下に対しての叛心(はんしん)になると脅してきたらしい。

 どこをどうしたらそうなるのか? 私がここにいる確証はあるのかな? それに領軍(かれら)の方が導師よりも信用に足るとどうして言える? 


 そもそも、あの焼失事件で一番の責が咎められそうなのが領軍の方なのだが……ああ、だから失点を埋めておきたいのか。


 男爵の唯一の家族たる私を確保して、幾ばくかの失敗を相殺しておきたい、といった所かな?


 それなら最初から警備なりなんなり先に付けるぐらいの配慮をしておけば良かったのに。施術院から勝手に抜け出すとか思わなかったのかな。


 ……だとしたらユーニス検定には受かりませんよ?


「領軍の連中とは別に監視してるのもいるようだ。まさか君たちが堂々と入ってくるとは思わなかった」


 やっぱり気づいてたか。あの事件の実行犯とは思えないけど、ここが襲撃されるかもしれないかな?

 導師もチコさんも人並み以上には戦えるかもしれないけど、相手次第では難しいかもしれない。

 まあ、私の確認した限り二つの勢力がいるみたいだし、どっちかは捕まえる側なんじゃないかと思う。


 だとすると、私は彼らを釣るエサということになるか。そりゃあできれば捕まえたいが、父が残したメッセージの意味も気になる。


 なるべく早く、ここから出立した方がいいかもしれない。

 今のところ、私の変装やフランの装備のせいで確信は持てないかもしれない。でも、ドワーフおじさんや『セバスティアン』の店員から情報が漏れれば私たちの事は露見する。


 そうなればここにいるのは籠城とかわりない。旅立つ隙がなくなってしまうのだ。まあ、それはそれでいいのかもしれない。


 父は残したメッセージも無駄になって、『やれやれ、お前にはまだ無理だったか』と嘆息される。


 ──イラッ


 それは、許容できない。


 絶対に。



 父様が私に期待したのが何なのかは知らない。


 でも、普通の貴族の娘で一生を終える事を望んだとは到底思えない。


 私は父様が好きだ。

 だから、父様に軽視されるなど堪えられるわけがない。


 しょせんただの我儘(わがまま)な小娘なのだと思われただけでも許せない。



 いつの間にか、私は今回の旅に対しての認識が変わっていた。

 はじめはかなり悲壮な決意だったはずが、今ではすっかり父からの挑戦状を受けたかのような気がしてきていた。


 正直、ここまで負けず嫌いとは思わなかった。

 それも読まれていたのだとすると、やはりかなわない。

 でも、やってみよう。

 こんな機会はそんなには無いだろう。


 しばらくすると、荷馬車が一台、工房の前にやって来た。配送を頼んだ服だけど……うん、使えるかな?


「ごめんください、こちらは服飾の……」と、名乗りをあげてる最中にあの店員の口を突きだした左手で押さえる。目をぱちくりして驚いているが、まあ仕方ない。小さな声で協力を要請すると、即座に頷いてくれた。さすがお得意様なだけあるな。

 そそくさと荷物を中に入れさせてドアを閉める。


「実はここから出たいのだけど協力をしてほしいの」


 手を握り、出来る限りの媚びをこめてお願いしてみる。


「は、はい! 何なりと!」


 うむ、あまりやったことはないが、意外と利くな、これ。だけど多用は禁物だ。なんだか心が痛んでくる気がする。


 そう言えば、男の人の心は瑠璃(ガラス)のように(はかな)いとメイド長(ミューリ)が言ってたっけ。


 買ってきた服は大きくひと包みになった風呂敷状の物としっかりとした箱(たぶん虫がつきにくい桐とか)二つだ。

 仕立て済みの服にしては厳重にしまってあるところを見ると、やはり誰か別の人間がオーダーしたものらしい。サイズピッタリなんてすごい偶然もあるものだ。


 私はここで召喚魔術の((マイナー)幻影(イリュージョン))を使い、店員さんに似た感じの別人を幻影で作り出す。

 さらにそれを(幻影(カバーイリ)被せ(ュージョン))を使ってフランに纏わせる。


 見た目はもう、少し背の低い男性だ。わたしは導師に頼んで貸してもらった大きな袋に入る。店員さんに荷馬車に運んでもらい、フランは何食わぬ顔で一緒に乗り込んでもらう。

 傍目(はため)から見れば店員しか乗り降りしてない。数はあってないが、そこに気づくかどうかは運次第。たぶん、そこまでは気にしないんじゃないかな?と思う。


「本当はここで護衛のための冒険者を雇うべきだったのだが、こうなった以上離れた方が得策のようだ。隣のウェズデクラウスの冒険者ギルドのギルド長は私の知り合いだから、訪ねてみろ。名前はオルガという」


 何か知らないけど、気苦労が多そうな名前の人だ。導師と同じ世代の人かな? ひょっとしたら昔の仲間かもしれない。


「わかりました。師匠もお元気で。落ち着いたら連絡をしますね」


 次元魔術初級に属する(通話(テレフォン))は、私にも使えるが、師匠から待ったがかかる。


「あれは、専用の術で内容や位置がバレる可能性がある。そういったのを秘匿できる(暗号化(エンクリプテッド)通話(テレフォン))を使えるようにならんと難しいぞ」


 む、中級か……私にはまだ無理だ。仕方ないから手紙にしよう。


「お世話になりました、チコさんもお元気で」


 いちおうチコさんにもお別れを言うと、彼女はにこっと笑って「おみやげ、待ってますよ?」と言ってきた。うう、覚えてたのか。こっちが忘れそうだからどっかにメモしとかないと……


「では、出しますよ」


 店員さんが御者に合図をすると馬車が動き出した。後ろの幌を覆ってようやく、荷物から顔を出すと、ウェイルン魔術工房が離れていくのが隙間からみえる。

 ちょっとしんみりしてしまうが、それよりも僅かな高揚感がある。これから私は、旅に出る。それがなんの意味を持つのかも分からないし、運が悪ければ死んだりしてしまうかもしれない。


 でも、いく。

 それでもいくんだ。

 私の人生は私のもので、自分で選択した結果でその道を作るんだ。


 一度、『セバスティアン』へと戻った馬車から警戒しながら降りると、今度は交易所に行くことにする。


 ちなみに、私は『ユージン』で買った旅の旅装の中でも作業用に買ったカーキ色の上下に着替えた。もちろん、お店でだよ。路上で着替えるリスクは負いたくないよ。

 フランの幻影を解除したあとに、彼女も着替えてもらう。こちらはあの鎧武者で構わない。私も髪を編み上げてもらい、上からバンダナを巻いてみる。


 うん、見事に男の子っぽくなった。フランはこれはこれで、みたいな感じで感心していた。いっそ、このまま男の子として過ごすのもいいかなと思ったんだけど、あくまでも変装のうちと考えよう。


「どうもありがとうございました。それでは、失礼します」


 店員さんにそう声をかけるととても恐縮していたようだ。

 そういえば私、男爵令嬢なんだよね。

 けど、お世話になった人にはお礼をいうのは当たり前だし、これからはそういった身分を出すわけにはいかない。



 改めて、気を引き締めていこう。



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